有料老人ホームを運営している場合、老人福祉法に基づき、行政機関により立入検査が執り行われます。
老人ホームの場合、その施設において入居者が日夜生活していることから、事業所によりサービス提供している場合と、当然視点が異なります。
今回は、有料老人ホームの立入検査の準備段階から、おおまかな流れを示すことにより、実際に勤務する有料老人ホームでの立入検査が執り行われる場合に落ち着いて対応することができるよう説明します。
なお、このブログの有料老人ホームの立入検査の一般的な流れを文書で示すと、かえって理解しにくい面があると思います。
よって事業所として把握しておくべきことを「箇条書き」で示すようにしたいと思います。
1.行政機関からの立入検査の通知
通常の有料老人ホームの立入検査が行政機関により執り行われる場合、行政機関より必ず事前に通知がなされます。
行政機関より通知がなされる以前に有料老人ホームあてに行政機関より電話が入電する場合もあります。
知っておくこと
- 立入検査実施日の通知は行政機関より約1カ月前に連絡がある
- 通知には運営指導の「日時」、「担当者名、人数」、「当日準備すべき書類」が記載
- 契約書、重要事項説明書、運営規程等、通知に指定された書類を事前提出
2.立入検査の事前準備(書類関係)
有料老人ホームの運営において、運営上の必要書類を定期的にチェックすれば心に余裕が持てるものです。
しかし、日々の業務が忙しいと理想通りとは行かないものです。
もちろん、書類作成は遅れないことが好ましいのですが、仮にこれらが遅れているようなら、立入検査当日に準備できるように頑張りましょう。
例えばですが、自分の勉強の進捗が遅れており、学校の定期試験まで期間がある場合であれば、遅れているから対策をしないということなど無いはずです。
有料老人ホームの立入検査の書類等がしっかりと揃ってさえすれば、立入検査の当日は自信を持って対応することができるものです。
知っておくこと
人員関係
- 勤務実績表の確認(タイムカードと出勤簿の突合せ、勤務実態と配置基準の確認)
- 就業規則
- 会社の辞令、雇用契約書
- 従業員の資格証
- 賃金台帳
運営関係
- 老人福祉法に基づく各種届出書類の用意、変更届出が対応されているか
- 契約書、重要事項説明書、運営規程の変更が反映されているか
- 契約書、重要事項説明書、運営規程が利用者等に閲覧できるようになっているか
- 有料老人ホームの老人福祉法に基づく「届出書類」が掲示されているか
- 苦情報告書、事故報告書の管理と行政報告との突合せ
- 身体拘束等の対応が適切に採られているか
- 立入検査に対応する場所を事前に確保する
- 立入検査に記載された「当日準備すべき書類」をカゴ等にまとめ、直ぐに出せるように
- 書類は整理整頓し、直ぐに引き出せるように
- 書類はインデックスを統一し揃え、電子ファイルについてはフォルダで統一管理する
- 個人情報使用同意書を徴収しているか
- 非常時の連絡体制が掲示されているか
- 職員の健康診断の状況を確認(夜勤者が存在する場合は年2回実施)
- 運営指導に対応する職員は、質問に回答することができる職員を事前に決めて置く
- 管理者は「常勤専従」が原則、特例の兼務に注意
- 運営指導において準備する文書は前年度と本年度分の書類を用意する
- 書類の整備の順番は「新⇒旧」の順番で整備していくこと
- 業務日誌を準備する
- 最新の入居者の契約書と契約入金関係書類
- 非常災害時のマニュアル
- 協力医療機関の協定書
- 損害賠償保険の付保証明書
- 食事のメニュー(食形態の対応状況、塩分、カロリー数)
- 夜間の配置人員数(例:入居者20名に職員1名配置等)
設備関係
- 平面図、ナースコール図、スプリンクラー図
- 避難経路図
- 消火器の配置状況、消火器の使用期限
- 消防訓練実施の記録(夜間想定訓練含む)
3.立入検査の事前準備(館内関係)
有料老人ホームの立入検査が執り行われる場合、書面検査に先立ち、館内検査がなされます。
その際、行政機関に届出済の「平面図」に基づき、現地調査が行われるのですが、意外に、この現地調査の際、例えば部屋の使用方法が変更となっている場合が多いのです。
事前に行政機関への届出内容と現在の部屋の使用方法が異なっていないか等を事前に確認しましょう。
知っておくこと
- 施設内の使用方法が、行政機関に届出している内容と現況で異なる場所はないか。
- カーテンや絨毯が「防火・防炎」使用となっているか。
- 清潔区域と汚染区域が区分されているか(例:リネン庫と汚物室)
- 洗濯室に洗剤が出ているようなことはないか(例:認知症の方の異食の恐れあり)
- 個人情報等は鍵付き書庫に収納されているか
- ペーパータオルは「吊り下げ式」のものになっているか(例:配置式だと雫が落ちる)
- 事務所、倉庫は高積みになっていないか(例:天井より30センチのスペース必要)
- 可燃物を天井より吊り下げていないか
- パイプスペースに荷物を置いていないか
- 玄関付近の消毒や感染対策が取られているか
- 非常用電源の取扱い状況(例:燃料は重油か)
- 非常食の取扱い日数(例:3日間)
- 居室の窓のカギの施錠状況を確認する
- ベランダや避難経路に障害物を置いていないか
- 非常災害時の避難扉の取扱い(例:パニックオープンか)
4.立入検査の当日の流れ
立入検査当日、担当する職員は指定した10分程度前には有料老人ホームに到着します。
到着すると立入検査に通知に記載された「老人福祉法に基づく根拠規定と目的」が読み上げられ、立入検査がスタートします。
知っておくこと
- 通常の有料老人ホームの場合、時間は3時間程度、職員2~4名程度で対応
- 事前に用意した立入検査に対応する場所に職員を案内する
- 事前に立入検査を対応することになっている職員が応対する
- まずは有料老人ホームの館内を平面図に基づいて調査する
- 館内を調査した後、運営等に関する書類確認を行う
- 感染対策についても注意する
5.立入検査に当たっての注意点
立入検査がスタートすればやれることは殆どありません。
後は対応する職員が立入検査の対応を誠実に行うことが一番大切なのです。
知っておくこと
- 立入検査を担当する職員の質問に素直に答える。
- 虚偽答弁は厳禁。
- 分からないことは無理に回答しない。場合によっては確認のうえ後日回答。
- 稀に人員・運営体制、書類整備状況が著しく悪いと「監査」に切替る場合がある。
- 立入検査担当者が高圧的な言動がある場合には指導後、行政機関に相談しましょう。
6.立入検査における評価、講評
立入検査終了後、立入検査を担当した職員が打合せをした後、事業所の関係職員を集めて、立入検査に対する講評がなされることが多い。
立入検査の講評において、概ね以下の2つのパターンが考えられる。
知っておくこと
概ね適正な運営がなされている場合。
- 指摘事項なし。
- 助言(法令等に規定した違反はないが今後の適切な運営を求められること)。
- 口頭指導(法令等に対して軽微な違反がある場合、文書改善に寄らなくとも良い)。
後日、文書により結果郵送
- 文書指導(法令等に規定した事項に違反している)。
上記の「文書指導」についは、後日、行政機関より有料老人ホームに対して文書により郵送されてくることとなります。
この内容の程度等において改善が必要と認められる程度に応じて、内容は以下の内容となります。
- 改善結果報告書の提出
7.立入検査後の対応
立入検査後の対応について、行政機関の対応で生じるのは、上記「後日、文書により結果郵送」の場合の文書指導の場合があたります。
- 改善結果報告書
「改善結果報告書」については、行政機関の指摘事項をしっかりと対応したうえで、速やかに当該報告書を行政機関に文書により報告しましょう。