私は、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の開設手続きも30棟以上、介護サービス事業所の開設については100箇所以上にも携わりました。
また、現場で実地指導(現 運営指導、以下「運営指導」といいます)、そして監査の経験したのは平成19年(2007年)以来、運営指導や高齢者福祉法の立入検査については約300回以上の立ち合いの経験をしてきました。
よって、運営指導や立入検査の流れというのは、東京都や様々な政令指定都市、中核市等で数多く経験してきました。
しかし、これだけ運営指導や立入検査をしても「監査」については、本当に予測しにくい面があります。
そして、事業所の皆さんは監査が実施されると、自分の事業所がどのような行政処分が行われるのか気になるところです。今回は、監査が実施されるとどのようなことが事業所に起こるのかを考えてみましょう。
1.監査が実施される理由
先ず、監査が実施される前提をハッキリさせましょう。
自分の事業所に行政機関に監査を実施されるような以下の事実がないのか、しっかり考えましょう。
監査が実施される前提
行政機関が、指定居宅サービス事業者において「著しい運営基準違反・不正請求・虐待等に関する事実関係が発生している」と認識した時、行政機関として「その事実を適格に把握」するために行う調査が監査です。
2.事業所に監査が実施されるにあたり事業所として対応すべき事項
監査が実施されると事業所に対し、求められることは介護保険法第76条第1項により、以下の事項が求められます。
法律の文言であると分かりにくいにで、実際にどのようなことが行政機関によってどのようなことが求められるのが抜粋してみましょう。
- 監査実施に伴う報告書の提出
- 事業所における帳簿書類の提出もしくは提示
- 行政機関への事業者の出頭および質問
- 事業所に立入り、設備もしくは帳簿書類その他物件を調査
行政機関は、事業者に対する監査を通じ、上記①~④という手続きを通じて、監査の前提となる事実確認を行っているということです。
ここで事業者側に監査の前提となる事実が判明した場合、事業者に対し行政処分等が下される可能性が高くなります。
【法的根拠】※抜粋
○介護保険法第76条第1項(報告等)
都道府県知事又は市町村長は、居宅介護サービス費の支給に関して必要があると認めるときは、指定居宅サービス事業者若しくは指定居宅サービス事業者であった者に対し、報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、指定居宅サービス事業者若しくは当該指定に係る事業所の従業者若しくは指定居宅サービス事業者であった者等に対し出頭を求め、又は当該職員に関係者に対して質問させ、若しくは当該指定居宅サービス事業者の当該指定に係る事業所、事務所その他指定居宅サービスの事業の事業に関係のある場所に立入り、その設備若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
3.監査に際し、事業所として従業員に必ず徹底すべきこと
ここで要注意ですが、ことこの事業所に監査が実施されてしまう状況に至ると事業所としては、もう対応することはほとんどできないのです。
くれぐれも行政機関による質問がなされた場合は、事業所の従業員は、正直に回答することが必要です。
ここで虚偽を述べた場合、事業所の指定取消を含む、より重い行政処分が下される可能性が高くなってしまいます。
そう言った意味でも、日頃より介護保険法に則り、適正な事業運営を行うことを心掛けましょう。
必ず徹底すること
「虚偽答弁は行わない」
4.行政機関による監査実施の後になされる行政処分又は行政指導はどのような内容か
行政機関による監査が実施された場合には、以下①~⑥のような事項の、行政指導又は行政処分の下される可能性が高いのです。
- 行政指導に基づく改善報告(改善報告書の提出)
- 改善勧告(勧告に従わない場合は公表することができる)
- 改善命令(命令の場合は公示される)
- 指定の効力の停止(一部停止と全部停止がある)
- 聴聞通知(前・後)廃止(行政手続法により聴聞の機会がある)
- 指定の取消
【法的根拠】※抜粋
○介護保険法第76条の2(勧告、命令等)
都道府県知事は、指定居宅サービス事業者が、次の各号に掲げる場合に該当すると認めるときは、当該指定居宅サービス事業者に対し、期限を定めて、それぞれ当該各号に定める措置をとるべきことを勧告することができる。
都道府県知事は、前項の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた指定居宅サービス事業者が同項の期限内にこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
都道府県知事は、第1項の規定による勧告を受けた指定居宅サービス事業者が、正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかったときは、当該指定居宅サービス事業者に対し、期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
都道府県知事は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該指定居宅サービス事業者に係る第41条第1項本文の指定を取り消し、又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる。
5.監査が実施された場合、後日行政機関による確認がある
仮に、①の行政指導に基づく改善報告書の提出で収まったとしても、事業所運営には大きな問題があるからこそ行政機関による監査が実施されたのです。
つまり、「報告書を提出すれば良い」ということでは無く、事業所運営体制をしっかりと見直し、改善報告書を提出するようにしましょう。
これは②の「改善勧告」や、③の「改善命令」であっても同様です。
また、行政機関による監査が実施された場合、後日、行政機関により監査実施後、事業所から提出された改善報告書の内容に基づき、適正に事業所運営がなされているか、行政機関による確認指導が行われることが多いのです。
監査を乗り切ったとほっとするのではなく、より良い事業所運営に向けて努力が必要です。