最新 2027 年(令和9年度)介護保険制度・介護報酬改定の方向性を探る(財政制度等審議会資料より)

介護保険制度

皆さん、こんにちは。元有料老人ホームの施設長を担当していた税理士・行政書士の山田勝義です。

さて、今回のブログでは、ついこの間 2024 年度(令和 6 年度)介護報酬改定が実施されたばかりではありますが、「最新 2027 年度(令和 9 年度)介護保険制度・介護報酬改定の方向性を探る(財政制度等審議会資料より)」と銘打ち、次回の介護保険制度、介護報酬改定の方向性を確認したいと思います。

去る令和 6 年 5 月 21 日に、財務省の財政制度等審議会は政府が本年 6 月に策定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)についての建議がまとめられました。

前述のとおり、2024 年(令和 6 年度)の介護報酬改定が、この本年4月に実施(医療系サービスの介護報酬改定は本年6月に実施)されたばかりではありますが、この財政制度等審議会において「介護」の方向性について、私たちはこれを注視しなければなりません。

なぜなら、この 2027 年(令和 9 年度)の介護保険制度や介護報酬改定にも、必ずしや大きな影響を与えるからです。

よって、今回のブログでは、この財政制度等審議会資料「我が国の財政運営の進むべき方向」における「介護」に示された方向性の個別項目を確認し、次回 2027 年度(令和 9年度)に向けた介護保険制度・介護報酬改定の方向性を確認したいと思います。

我が国の財政運営の進むべき方向「介護」で示された方向性とは!

財政制度等審議会において、政府が本年 6 月に策定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)についての建議として「我が国の財政運営の進むべき方向」がまとめられました。

我が国では、介護保険制度が創設されて以来、現在に至るまで、介護保険給付の適正化に係る改革が実施されてきました。しかし、今後も 1 人あたりの介護保険給付費が急増する 85 歳以上の人口が増加していくこと、そして介護保険制度の現役世代の支え手(2 号被保険者)が減少することを鑑み以下の 3 点から介護保険制度の持続可能性を確保する趣旨からも体制構築を行うことが必要とされています。

★介護保険制度の持続可能性を確保するための体制構築
 ・保険給付の効率的な提供
 ・保険給付範囲の在り方の見直し
 ・高齢化・人口減少下での負担の公平化」

この「介護保険制度の持続可能性を確保するための体制構築」を受け、「介護」についての具体的な方向性の個別項目は以下のとおりとなっています(抜粋)。


★「我が国の財政運営の進むべき方向」・・・「介護」
(1)効率的な給付

 ①生産性の向上
 ア)ICT 機器を活用した人員配置の効率化
 イ)経営の協働化・大規模化の推進

 ②高齢者向けの施設・住まいにおけるサービス提供の在り方
  ア)高齢者向け施設・住まいの整備の在り方
  イ)利用者に対する囲い込み等への対応

 保険外サービスの活用
 ④人材紹介会社の規制強化
 ⑤軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への移行
 ⑥生活援助サービスに関するケアプラン検証の見直し

(2)利用者負担の見直し(ケアマネジメントの利用者負担の導入)

(3)負担の在り方
 利用者負担の見直し
 ②多床室の室料負担の見直し

では、次に上記「我が国の財政運営の進むべき方向」・・・「介護」において指摘された個別事項を踏まえ、次項において 2027 年(令和 9 年度)介護報酬改定で導入される可能性が強い項目を指摘します。
そのうえで引き続き「財政制度等審議会資料」により指摘された個別項目を説明します。

現時点、2027 年(令和 9 年度)介護報酬改定で導入される項目とは?

2024 年(令和 6 年度)の介護報酬改定が実施されたばかりですが、やはり財政制度等審議会で指摘された「介護」における個別事項については注視せざるを得ません。

こうした中で、以前より財政制度等審議会や介護保険部会で取り上げられていた事項であり、かつ 2024 年(令和 6 年度)介護報酬改定では見送られた事項について、次回の 2027年(令和 9 年度)の介護保険制度や介護報酬改定において導入される可能性が高いものと当然予想されます。

事業者としても、事業運営の中で非常に影響が大きい項目もありますので、以下「財政制度等審議会」、「社会保障審議会介護保険部会【表1】、【表2】」を早速確認してみましょう。

★令和4年4月13日 財政制度等審議会 社会保障分野「介護・障害」

①介護保険利用者負担の見直し
 介護保険の利用者負担の原則 2 割、若しくは範囲拡大、現役世代並み所得(3 割)等の判断基準見直し

②ケアマネジメントの利用者負担の導入
 ケアマネジメント(ケアプラン)への利用者負担導入と福祉用具の貸与のみのケアプラン報酬の引下げ

③軽介護者の地域支援事業への移行
 要介護1・2の訪問介護、通所介護の利用者について、地域支援事業に移行を検討をしたらどうか。また生活援助型サービス等、全国一律の基準ではなく、地域の実情に合わせた多様な資源によるサービス提供すべき

★令和4年12月20日 社会保障審議会介護保険部会【表1】、【表2】
(注)「〇で囲まれた項目」

こうして上記資料を改めて確認すると、「確実に工程表に沿って施策が実行されている」ことがよく分かります。

よって、次回改定である 2027 年(令和 9 年度)の介護保険制度や介護報酬改定において、導入される可能性が高いものは、まず以下に示す「赤字」で示されている項目と思います。 

次に、以下に示す「黒字」で示されている項目は次回改定では優先順位が落ちるということでしょうか。

それは違います。なぜなら、これらの「黒字」で示されている項目の源泉は、住宅型有料老人ホームやサ高住(非特定施設)において、関連法人が外付けで介護サービスを行うような場合、「給付の適正化」の趣旨からいうと、非常に弊害が大きく問題が露呈してきた事実が存在します。

これは関連法人が外付けで介護サービスを行う施設は、「家賃等が安い傾向にあり、結果、安い入居者負担で利用者を囲い込み、関連法人による外付けサービスを活用し、介護報酬で利益を上げるビジネスモデルが成立している可能性がありことからも、今後これを抑制する方策が強力に講じられていくものと思われます。

★2027 年(令和 9 年度)の介護保険制度や介護報酬改定で導入される可能性が高い項目
 ・ICT 機器を活用した人員配置の効率化
 ・経営の協働化・大規模化の推進

 ・高齢者向け施設・住まいの整備の在り方
 ・利用者に対する囲い込み等への対応
 ・軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への移行
 ・生活援助サービスに関するケアプラン検証の見直し
 ・ケアマネジメントの利用者負担の導入
 ・利用者負担の見直し
 ・多床室の室料負担の見直し

本項では、「現時点、2027 年(令和 9 年度)介護報酬改定で導入される項目とは?」と銘打ちましたが、結果は「前項(財政制度等審議会資料)と同様に挙げた項目と同様」ということとなりました。当然、導入にあたり影響や優先順位がありますので、今後これらは確実に実行されていくものと思われます。

ICT 機器を活用した人員配置の効率化

今後、限られた介護人材を有効に活用し、生産性を向上させるために、より介護現場における「タスク・シフト/シェア」を推進したいくことに加え、ICT 機器を活用し、「人員配置の効率化」を進めていくことが必要です。

令和 6 年度介護報酬改定では、【図1】のとおり「特定施設(介護付き)」、「介護老人保健施設」について、「人員配置基準の柔軟化」が実施されています。

さらに今後、「特別養護老人ホーム」、「通所介護」等における人員配置基準の柔軟化を実施すべきであると示されています。

★「人員配置基準の柔軟化」
 ・特定施設(介護付き) ※令和 6 年度介護報酬報酬改定で実施済
 ・介護老人保健施設 ※令和 6 年度介護介護報酬改定で実施済

 ・特別養護老人ホーム ※令和 9 年度介護報酬改定で実施が想定される
 ・通所介護 ※令和 9 年度介護報酬改定で実施が想定される

経営の協働化・大規模化の推進

介護における生産性向上について、【図2】、【図3】のとおり、在宅・施設とも「規模が大きいほど収支差率が上昇していることが分かります。

【図3】より、近年、介護事業者の休廃業等の件数は増加傾向にありますが、「それ以上に新設法人が介護市場に算入しており、その多くは営利法人の事業者」であると思われます。

また、同じく【図3】より、社会福祉法人の過半は、1 法人 1 拠点又は 2 拠点となっていますが、こうした法人の利益率が低調となっていることが分かります。反面、社会福祉法人の規模が大きくなるほど、労働生産力が高まる傾向にあり、また特別養護老人ホームの職員 1 人あたりの給与も増える傾向にあります。

こうしたことから、今後、「社会福祉法人における経営の協働化・大規模化を円滑に進める環境整備を更に図っていくべき」とされています。

高齢者向け施設・住まいにおけるサービス提供の在り方

高齢者向け施設・住まいとして「介護付き有料老人ホーム等」に加えて、自立して生活できる軽度者向けの住まいとして、「住宅型有料老人ホーム等」の整備が進められてきました。

この「住宅型有料老人ホーム等」は、【図4】のとおり、現時点「特別養護老人ホーム」や「介護付き有料老人ホーム」と異なり、市町村・都道府県が策定する介護保険事業計画において「任意の記載事項にとどまって」おり、「総量規制の対象外」となっている状況にあります。

こうしたことから、上記類型についての「役割分担・住み分け」について検討し、介護保険事業計画においても「有料老人ホーム・サ高住も含めた高齢者向け住まいの整備計画も明確に位置付けるべき」であるとされています。

つまり、令和 9 年度介護報酬改定では、以下のようになることが想定されます。

★「総量規制の対象」
 ・特別養護老人ホーム ※総量規制の対象
 ・特定施設(介護付き、サ高住) ※総量規制の対象

 ・住宅型有料老人ホーム ※令和 9 年度介護報酬改定で総量規制実施が想定される
 ・サ高住(非特定施設) ※令和 9 年度介護報酬改定で総量規制が実施が想定される

利用者に対する囲い込み等への対応

現時点、住宅型有料老人ホームやサ高住(非特定施設)について、特別養護老人ホームや特定施設(介護付き)等の「包括報酬」よりも、関連法人が外付けで介護サービスを行う「出来高払い」がより多くの介護報酬を得ることができるような仕組みとなっています。

こうしたことは「利用者に対する囲い込み・過剰サービスの原因」になっています。

また、関連法人が外付けで介護サービスを行う「出来高払い」の施設は、「家賃等が安い傾向にあり、結果、安い入居者負担で利用者を囲い込み、関連法人による外付けサービスを活用し、介護報酬で利益を上げるビジネスモデルが成立している可能性があります。

上記、現時点【図 5】、【図6】のとおりであり、今後、住宅型有料老人ホームやサ高住における利用者の囲い込み問題に対して、訪問介護の同一建物減算に止まらず、外付けで介護サービスを活用する場合にも、「出来高払い」ではなく、「包括報酬」により、利用上限とする形で介護報酬の仕組みを見直すべきとされています。

保険外サービスの活用

現在、介護事業の多くは制度内(保険内)で行われているケースが多いのが現状です。

しかし、今後多様な介護需要に対して対応していくため、事業者は【図7】のとおり、介護保険事業(保険内)と介護保険外(保険外)を組合せてサービス提供していくことは、多様なニーズに応え、事業者にとっても新たな収益源となる可能性を有しています。

原則、この介護保険外サービスの提供にあたって、「サービスの明確な区分や説明責任の徹底というルールを遵守する」ことで、介護保険内外のサービスを組み合わせてサービス提供が可能となっています。

しかしながら、この介護保険外サービス提供にあたっては、「地方公共団体によるルールの解釈が異なり、保険外サービスが認められない団体がある(いわゆるローカルルール)」と言われています。こうしたことから、今後このローカルルールの実態把握を行ったうえで、介護保険外サービスの柔軟な運用を認めていく方向性が検討されていきます。

人材紹介会社の規制強化

介護職員の給与は公費(税金)と保険料を財源としており、本来は職員の処遇改善に充てられるべきものである。しかしながら、実際にこれが割高な紹介手数料の支払いに回っている状況です。

今後、上記【図8】のとおり、人材紹介会社に対する指導監督強化に取組むとともに、医療・介護業界の転職者が一定期間内に離職した場合は、手数料の返金を含め、実効性がある対策が講じられます。

軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への移行

今後、介護保険制度では要介護者の中でも専門的なサービスをより必要とする重度者に給付を重点化していくとともに、生活援助等は地域の実情に応じて効率的に提供していくことが求められます。

今後、軽度者(要介護1・2)に対する訪問介護・通所介護についても地域支援事業への移行を目指し、段階的にでも、生活援助型サービスをはじめ、地域の実情に合わせた多様な主体による効果的・効率的なサービス提供に移行していくものと思われます。

生活援助サービスに関するケアプラン検証の見直し

利用回数の多い訪問介護の生活援助サービスについて、平成 30 年(2018 年)10 月よりケアプランの保険者への届出を義務付け、保険者によるケアプランの点検や地域ケア会議における検証を行い、不適切な事例について是正を促すこととされています。

しかし、この上記届出を避けるため、訪問介護の「生活援助サービス」から「身体介護サービス」への振替えが行われているという指摘があります。

このため身体介護に安易に置き換えられるケース等を是正し、訪問介護全体での適切なサービスを確保するため、身体介護も含めた訪問介護全体の回数で届出を義務付けるなど、更なる改善を図るべきとされています。

ケアマネジメントの利用者負担の導入

居宅介護支援について、介護保険制度創設以来、利用者に負担を求めない取扱いとされてきました。また、この取扱いは、利用者側からケアマネージャーの業務の質へのチェックが働きにくい構造となっている状況にあります。

よって、公正・中立なケアマネジメントを確保する観点から、質を評価する手法の確立や報酬への反映をあわせ、「居宅介護支援に利用者負担を導入」する必要があるとされています。

利用者負担の見直し

介護保険の利用者負担について、昨年に介護保険の自己負担額「2 割負担」の対象者の範囲拡大の議論は行われたものの見送りとなり、またストックの金融資産等を勘案した議論は本格的に行われませんでした。

こうした影響は、今回「介護保険料の上昇」と言う形で影響が生じています。

こうしたことから【図12】、【図13】のとおり、所得だけではなく金融資産の保有状態等の反映の在り方、負担割合の在り方を検討したうえで、介護保険の自己負担額「2 割負担」の対象者の範囲拡大について実現すべきとされています。

また、医療保険と同様に、「利用者負担を原則 2 割」とすることや、現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直すことについても検討すべきとされています。

多床室の室料負担の見直し

介護老人保健施設・介護医療院の多床室については、特別養護老人ホームの多床室等と異なり、室料相当分が介護保険給付費の基本サービス費に含まれたままとなっています。

2024 年(令和6年度)介護報酬改定において見直しが行われましたが、新たに室料負担が導入された対象施設は【図 14】のとおり、限定的な見直しにとどまっています。

他方【図 15】のとおり、介護老人保健施設・介護医療院は、在所日数等をみれば、利用者の「生活の場」と言える状況にあります。

こうしたことから、介護老人保健施設・介護医療院についても、どの施設であっても公平な居住費(室料+水光熱費)を求めていく観点から、多床室の室料相当額を基本サービス費等から除外する見直しを更に行うべきとされています。

まとめ

今回、財務省の財政制度等審議会において、政府が本年 6 月に策定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)についての建議がまとめられました。この内容は、2027 年(令和 9 年度)の介護保険制度や介護報酬改定にも、必ずしや大きな影響を与えるものであるからです。

これらは、今回の介護保険制度や介護報酬改定において先送りとなった事項も多く含まれており、今後、「介護保険の給付の適正化」の趣旨から確実に実行されていくものと思われます。事業者としては、これらの内容をしっかりと把握し、今後の事業運営に活かしていくことが必要です。

そもそも介護保険制度は、原則として「保険料(税金)と公費」により成り立っています。そのうえで、今後も介護保険の給付を受ける人が増加していくことは必須であり、そのうえで「介護保険の給付の適正化」は、より強化されていくことは間違いありません。

このテーマにつきましては、今後も情報収集含め、しっかりと追っていこうと思います。
引き続き、是非、ブログを楽しみにしていてください。

最後まで、ブログをお読みいただき、誠にありがとうございました。

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