介護報酬改定(集合住宅の囲い込み、訪問看護、完全にやり過ぎです)

介護報酬改定

 令和6年度介護報酬改定に向けて、社会保障審議会介護保険部会、そして介護給付費分科会が開催されていますが、先般11月1日に財政等審議会の社会保障分野について議論がなされました。

 この資料を読んでいて、財政等審議会における「本気度」を肌として実感しましたので、その論点を今回のブログでは、ご紹介したいと思います。

私の開催する研修では必ず次の説明をします。

それは、基本的に、「お財布を握っている者(財務省、財政等審議会)の言うことは、ただこれを配分し費消する者(厚生労働省)は、その意向に従う」はずです。

分かりやすくいえば、基本的に自宅でもお金を稼いでくる者の発言権は強いでしょうし、ただ費消する者はその意向に従うのが普通だからです。そう言った意味で、今回紹介する財政等審議会で指摘された2点は、令和6年度介護報酬改定において、非常に重要な論点となりますので、このブログをお読みの皆様に置かれましては、よく確認いただけますと幸いです。

集合住宅の囲い込みについての減算強化

現在まで、事業所が住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅等における居住者等にサービス提供が行われた場合、以下のような同一建物減算が適用されてきました。

事業所と同一建物の利用者又はこれ以外の同一建物の利用者20人以上サービス提供を行う場合・・・介護報酬 × 90/100 = ▲10%減算

事業所と同一建物の利用者又はこれ以外の同一建物の利用者50人以上サービス提供を行う場合・・・介護報酬 × 85/100 = ▲15%減算

 これは、従来から住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅等において、同一の建物に居住する高齢者に対して特定の事業者が「集中的にサービス提供を行う」等、画一的なケアプランや過剰なサービス提供が行われる等、いわゆる「囲い込み」の問題が指摘されてきました。

 あくまでも私見ですが、この問題の本質は、介護保険制度が成立し、この制度事業にそもそも「民間企業の参入」を許容した時点で「問題の本質の萌芽がある」のだと考えています。

その理由として、民間企業(事業者)、ここでは株式会社を例に取りますが、株式会社を経営するために経営者は、株主や債権者をはじめとする様々な利害関係者のため「利潤最大化」を志向するのが義務であるはずです。

 そうならば事業所として「売上を上げる」、「業務を効率化する」、「費用を削減する」に関係する指標が重要視され、これが目標となるからです。

 事業所として経営努力を行うのであれば、当然、事業所として効率的に集合住宅に居住する利用者に対し、サービス提供を行うことが圧倒的に効率的であり、利益を稼ぐということは、至極普通の判断なのです。

 厚生労働省は、介護報酬において集合住宅に居住する利用者に事業所がサービス提供する場合、通常の在宅利用者と比較し、「利用者間の移動時間や手間が少ない」等、様々な理由を付けて、減算を設定・強化しようとしています。

 しかし、私が上記の私見を述べた内容や趣旨を理解しなければ、結果として厚生労働省・保険者と事業者の「いたちごっこ」は、今後も続くのではないかと考えています。

【図1】

(出典:令和5年11月1日財政等審議会 社会保障分野資料より抜粋)

 上記【図1】は、令和5年11月1日に開催された財政等審議会の資料から抜粋した図表ですが、現在まで事業者が集合住宅の居住している利用者に対する集合住宅減算を、そして居宅介護支援事業所のケアプランについても、「集合住宅の囲い込み」に対する対策が講じられてきたことが分かります。

しかしながら、この「集合住宅の囲い込み」の論点が出ているということは、前回の介護報酬改定時において、問題事例についてはケアプランを届け出る仕組みを導入したものの、結果として自治体よる点検が十分に行われておらず、サービスの見直しに繋がっていないということです。

 このような状況であれば、財政等審議会における「改革の方向性」として、以下のように示されています。

ケアプランを届け出る仕組みによる効果が限定的であったことを踏まえ、より実効的になるよう見直すとともに、報酬の適正化による対応を図るべき。またケアマネジメントサービスの偏りに対する減算も強化すべき

 このことから言えることは、令和6年度の介護報酬改定において、集合住宅に居住する利用者に対するサービス提供における減算強化が行われることは間違いないでしょう。

 また、この集合住宅に居住する利用者に対する減算強化の方法は①~③のいずれか、若しくは組合わせてものになるのではないかと考えています。

 ①減算率を段階的に設定(例:20人▲10%減算、30人▲15%減算、40人▲20%減算)
 ②減算率引き上げ(例:20人▲15%減算、50人▲20%減算)
 ③「通常在宅のサービス提供」と「集合住宅のサービス提供」と報酬単位表を分ける。

 こうなると事業者としても「集合住宅の囲い込み」によって利益を上げていくことは困難となるでしょう。そして事業所として「通常の在宅に対するサービス」を視点に入れていかなければ、事業所運営が成り立たなくなるのではないでしょうか。

 ここで指摘した事業者とは、集合住宅に居住する利用者に対する事業者(居宅サービス事業所)を想定していますが、居宅介護支援事業所についても同様です。例えば、ただ利用者の区分支給限度基準額に達するように、かつ特定の事業所(例えば居宅サービス事業者と居宅介護支援事業所が同一法人等の場合が該当)にサービス提供を振るような事業所には、運営指導の強化、又はケアプランに対する減算設定がなされることが予想されるのです。

訪問看護におけるサービス提供の在り方にメスが入る

 近年、慢性期や終末期の利用者に特化した施設(ナーシングホーム等)について、併設する訪問看護事業所からのサービス提供の在り方が大きな問題となっています。

 特に、医療保険からの訪問看護の提供については、介護保険のような区分支給限度基準額の概念が無く、ケアプランの作成も努力義務となっているため歯止めが効いていない状況にあります。

                                    【図2】

(出典:令和5年11月1日財政等審議会 社会保障分野資料より抜粋)

 実際に【図2】を確認すると、利用者の1月あたりの請求額について以下のことが分かります。

・医療保険による訪問看護を利用している全体の1.5%が60万円以上の利用している。
・上記のうち最大値は116.3万円にも達している。

 介護保険における収支差率は、一般的に企業の利益率である概ね3%~4%のレンジを想定しています。

そうであるとするのであれば、【図2】における「介護業界の民間企業の経常利益率」において、専門事業者である「A社」の利益率は何と26.3%なのです

 これは、私見ではありますが制度事業として医療や介護保険に携る事業者が、通常の業務を行う中で「到底導き出すことができない数字」であると思います

そうした中で、財政等審議会における「改革の方向性」として、以下のように示されています。

 看取りの受け皿となっている現状はあるものの、極端に訪問看護のサービス提供量が高い事業者については、医療保険上の訪問看護の提供実態等を踏まえた上で、適正化を図るべき

 財政等審議会における改革の方向性にも記載されていますが、この訪問看護において「看取りの受け皿となっている現状」として認めつつも、医療保険や介護保険は、あくまでも「制度ビジネス」です。

 そうであれば、通常このような利益率が出ることは考えにくいですし、ましてやこれだけ利益率で目立ってしまうと規制が掛かるのは当然だと思います。

まとめ

 繰り返しにはなりますが、民間企業(事業者)は、様々な利害関係者のため「利潤最大化」を志向するのが義務であり使命なのです。

 そうならであるならば事業所として「売上を上げる」、「業務を効率化する」、「費用を削減する」に関係する指標が重要視され、目標となるはずです。

 実は、今回の「集合住宅の囲い込み」や「訪問看護サービスのサービス提供の在り方」の根本的な原因は、そもそもこれが根本的な原因なのです。

 しかしながら、この民間企業(事業者)として、医療保険や介護保険という「制度ビジネス」に携わるのであれば、やはり「目立つような利益率(収支差率)」を導き出すと、今後もこのような議論になることは必須なのでしょう。

ご相談・お問い合わせはこちら