住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の指導がより強化される

運営指導、監査、立入検査

1.サービス付き高齢者向け住宅や住宅型老人ホームに対する指導の方向性

サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホーム(以下「有料老人ホーム等」と言います)は、高齢者の多様な住まいのニーズの受け皿として重要な役割を果たしている一方で、併設する介護サービス事業所の一部には過剰なサービス提供が行われているような課題があるとの指摘もあります。

令和3年度介護報酬改定作業における社会保障審議会介護給付費分科会において、その審議報告においても高齢者向け住まい等における適正なサービス提供を確保するため、介護保険サービスが入居者の自立支援や重度化防止につながっているかの観点も考慮しながら、指導監督権限を持つ行政機関による更なる指導の徹底を図ることとされました。

これを踏まえ以下の通知がなされました。

「高齢者向け住まい等における適正なサービス提供のための更なる指導の徹底について」(令和3年3月18日付け老指発0318第1号、老高発0318第1号、老認発0318第1号 厚生労働省老健局総務課介護保険指導室長、高齢者支援課長、認知症施策・地域介護推進課長連名通知)

この通知での主な内容は以下の2点です。

  1. 高齢者向け住まい等における家賃等入居契約内容の確認やケアプランの点検・検証
  2. 区分支給限度基準額の利用割合が高い居宅介護支援事業所のケアプランの優先的な点検・検証

このように、高齢者向け住まい等、いわゆる老人ホーム等について、今後指導監督権限を持つ行政機関において、上記通達がなされていることからも、更なる指導の徹底の方向性が示されたと言って過言ではありません。

2.では、どうし老人ホーム等の指導が強化されるのか、その理由は何か

(1)囲い込みにより指導が強化されていく

前述のとおり、有料老人ホーム等に居住する利用者については、提供される介護サービスが併設する居宅サービス事業者から介護サービス提供が過剰されている、いわゆる「囲い込み」が問題であるという議論があります。

令和3年度の介護報酬改定においても、介護保険における区分支給限度基準額に対する介護保険の利用割合が高いケアプランを作成している居宅介護支援事業者について点検や検証を行い、指導権限を有する行政機関による指導徹底が図られるとされています。

また、有料老人ホーム等に併設する居宅サービス事業者に対する指導を強化するよう厚生労働省から通知が出されていることからも、今後居宅介護支援事業者のみならず、これらの居宅サービス事業者に対する指導が、今後強化されていくことは間違いありません。

(2)老人ホーム等に併設する居宅サービス事業所のリスクとは

老人ホーム等に併設する居宅サービス事業所にはどのようなリスクがあるのでしょうか。

私自身、老人ホーム等で施設長の経験がありますので、実際にそのリスクと感じる点を①~④に挙げてみたいと思います。

①勤務する職員の兼務状況が不明確になる

例えば、老人ホーム等に併設する居宅サービス事業所が「訪問介護事業所」であるとしましょう。

そうすると、この老人ホーム等と訪問介護事業所で勤務する職員のうち、その双方に兼務をしている職員が存在するはずです。

これに該当する職員について、所属とともに勤務表でも明確に区分されていることが前提となりますが、この老人ホーム等の施設と訪問介護事業所を行き来しているうちに、老人ホーム等としての入居者に対し、「老人ホーム等の職員としてサービス提供しているのか」、また「訪問介護事業所の職員としてサービス提供しているのか」が不明確となっていく場合が存在します。

特に訪問介護事業所における介護サービスは、老人ホーム等の入居者に対し、ケアプランに基づき、「1対1」で行うことが大前提です。

とするなら訪問介護事業所の従業員としてケアプランに基づき介護サービス提供していることが明確にすることができないのであれば、事業所として当然指導、最悪は監査としての事実確認、そして指定基準違反の介護報酬の不正請求として捉えられ兼ねないのです。

②兼務であるがゆえに人員基準を満たさない状況になる

私は、過去17年以上、運営指導(旧実地指導)や監査の対応を、約300件以上、実際に経験しました。

こうした中で、このような集合住宅である老人ホーム等に訪問介護事業所の居宅サービス事業所が併設されているにも関わらず、「全く兼務している従業員が存在しない」というケースはほとんど見たことがありません。

私は、その理由を理解することができます。なぜなら、自分自身が老人ホーム等の施設長と併設する訪問介護事業所の管理者を兼務したことがあるからです。

確かに、老人ホーム等の職員と訪問介護事業所の職員を明確に分けることが理想です。しかし、そうすると人件費のコントロールが上手くいかないのが事実です。

そうしたことから兼務状況を維持しつつ、勤務シフトにおいて職員の勤務時間の切り分けを行っていました。

ところが、老人ホーム等の職員として夜間勤務にあたっている場合、訪問介護事業所の職員として業務を行うと以下の2点が、特に問題となります。

【問題点】
  • 老人ホーム等の職員からみると、訪問介護事業所の職員として介護サービス提供にあたると、老人ホーム等の夜間配置の職員が不在、もしくは著しく不足する可能性があること。
  • 訪問介護事業所の職員からみると、老人ホーム等の職員として館内サービスにあたると、訪問介護事業所としての業務時間内の人員配置の不足が生じる可能性があること。

③老人ホーム等でのサービスか訪問介護サービス事業所のサービスであるか区分が不明

本来ならば、入居時点の老人ホーム等の入居契約等において「介護保険外サービス」として提供される清掃や洗濯等のサービスが付随している場合がある。

ところが、老人ホーム等の入居契約等として、そもそもこれら清掃や洗濯等の介護保険外サービスが付随しているにも関わらず、なぜか「介護保険」として併設する訪問介護事業所が清掃や洗濯等の生活援助サービスを行っているような事象が生じている。

これは、老人ホーム等と訪問介護事業所の経営主体が同一の場合に起こり得る事象であり、そもそも契約におけるサービス区分の不明確、踏み込んで言うのであれば、介護保険サービスとして、このようなサービス提供を行うこと自体、不適切な事例です。

④併設する訪問介護サービスの利用を強要する場合

私が老人ホーム等の施設長を担っていた時、近隣の老人ホーム等での入居契約の際に運営事業者側から入居希望者に対してなされた説明に違和感を覚えたことがありました。

それはどのようなことであったかと言うと、その入居希望者の方は、老人ホーム等の入居契約に併せる形で併設する訪問介護事業所と契約締結を行ったそうです。

その際に運営事業者側から「この老人ホーム等の入居にあたり併設する訪問介護事業所のサービス利用を必ず利用頂きます」という説明があったそうです。

そうしてなのかと、その入居希望者の方が運営事業者側に尋ねると「老人ホーム等の家賃や管理費を安くしているのは介護保険サービスを利用することが前提だからです」という回答が返ってきたそうです。結果その入居希望者の方は、その老人ホーム等への入居は諦めたそうです。

初めてこの話を聞いた時、正直、私はびっくりしました。老人ホーム等に訪問介護事業所が併設されていることは当然理解することができます。

しかし、この話には、介護保険サービスを利用するうえでの前提、「介護保険サービスが入居者の自立支援や重度化防止につながっているか」などの観点など全くありませんし、ましてや契約としても併設する訪問介護事業所を「必ず利用してもらう」などというような説明自体を行う運営事業所のモラルを疑うものです。

このような運営事業所が存在するからこそ、「併設する介護サービス事業所の一部には過剰なサービス提供が行われているような課題がある」との指摘、そして老人ホーム等に併設する居宅サービス事業所のリスクが生じている遠因なのだと思います。

3.老人ホーム等での立ち入り検査で特に重視される点は何か

老人ホーム等の立ち入り検査において特に重視される点は、先ずは「経過期間が終了した事項について対応がなされているか否か」なのです。

例えば、現時点で例を挙げるのであれば、有料老人ホームの設置運営標準指導指針において、「身体拘束廃止未実施減算の算定要件」が該当します。

(1)身体拘束廃止未実施減算に該当する高齢者施設の類型について

この「身体拘束廃止未実施減算」については、以下の高齢者施設の類型について減算の対象となります。

  • 介護老人福祉施設
  • 介護老人保健施設
  • 地域密着型介護老人福祉施設
  • 介護療養型医療施設
  • 介護医療院
  • 特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム)
  • 地域密着型特定施設入居者介護(介護付き有料老人ホーム)
  • 認知症対応型共同生活介護
【要注意】

この記事では老人ホーム等として「サービス付き高齢者向け住宅」、「住宅型有料老人ホーム」を中心に記載しました。

この3について、両類型は現時点では適用除外ですが、立ち入り検査では行政機関より確認される項目です。

(2)身体拘束廃止未実施減算の算定要件を確認しよう

ここでは、身体拘束廃止未実施減算の算定要件を①~③の3つ確認します。

①身体的拘束対策検討委員会の開催

身体的拘束の適正化のため対策を検討する委員会を3カ月に1回以上開催する必要があります。

この委員会は幅広い職種より構成されることが必要です。また、このうち1名は専任の対策担当者を決める必要があります。

委員会にて検討された内容は、勤務する他の職員に周知することが必要です。

②身体的拘束等の適正化のための指針の整備(ガイドライン)

この身体的拘束等の適正化のための指針には以下の項目を盛り込む必要があります。

  • 施設における身体的拘束適正化に関する基本的考え方
  • 身体的拘束適正化のための委員会その他施設内の組織に関する事項
  • 身体的拘束適正化のための職員研修に関する基本方針
  • 施設内で発生した身体的拘束の報告方法等のための方策に関する基本方針
  • 身体的拘束発生時の対応に関する基本方針
  • 入所者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針
  • その他身体的拘束適正化の推進のために必要な基本方針

③年2回の職員研修の実施

身体拘束に係る定期的な研修の開催基づいた研修プログラムを作成し、定期的な教育(年2回以上)を開催することが必要となります。

職員を新規採用時には必ず身体的拘束適正化の研修を実施することが必要です。

4.老人福祉法に違反すると行政処分もあり得る

老人ホーム等の運営については、基本的に有料老人ホームの設置運営標準指導指針に基づき、運営を行う必要があります。

当該指針を遵守するように行政機関による指導に従わず、老人ホーム等の運営事業者として、悪質な事業を継続した場合、老人福祉法違反として行政処分である「事業停止命令」を受けることがあり得ます。

また、これは介護保険法における介護サービス事業者に対する指定取消の要件として、この老人福祉法違反が該当します。

よって、老人ホーム等と介護事業者が、同じ運営事業者である場合、老人ホーム等において事業停止命令の行政処分を受けた場合、介護サービス事業についても指定取消処分がなされる場合があるということです。

なお、この有料老人ホームの設置運営標準指導指針については、「未届の有料老人ホーム」や「高齢者向けの賃貸住宅」についても、老人福祉法の届出の有無を問わず、「みなし規定」により適用されることに注意することが必要です。

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