介護保険料に対する所得再分配機能を強化しても自治体間格差拡大に対応できるのか?

介護保険制度

 前回の介護保険関係のブログでは、「大都市部の介護保険料が急増している状況を理解していますか?」という内容でブログを書きました。

2024年4月28日の日本経済新聞電子版によると、65歳以上(1号保険者)が支払う介護保険料が全国815市区のうち約半数の402市区について、特に大都市部の市区における介護保険料を引き上げがなされたというものでした。

政令指定都市をはじめとする大都市を中心に、高齢者層が増えて介護サービス費が増加していることからも、介護保険料についても市区では平均2%上昇するということです。

今回のブログでは、令和6年5月14日に厚生労働省から全国の地域別介護保険料額と給付水準が公表されたことに伴い、この状況を改めて介護保険制度が始まった2000年を起点とし、65歳以上(1号保険者)の介護保険料がどのような形で上昇し、現時点どのような状況にあるのか、そして今後どのような方向性が考えられるのかを書きたいと思います。

介護保険制度概略と制度開始以来の介護給付と介護保険料の推移を確認する

介護保険制度は、「公助」として、介護が必要な高齢者を社会全体で支える仕組みとして、2000年より開始されました。介護サービスの費用は、介護保険利用者が原則1割を負担し、残りを税金と介護保険料から折半される形で賄われます。

上記の介護保険料は、40歳から64歳までの現役世代が支払う保険料部分の「2号保険者」と、65歳以上の高齢者が支払う保険料部分の「1号保険者」から成り立っています。

このうち、65歳以上(1号保険者)が支払う介護保険料については、保険者である市町村や広域連合が国の示す基準を参考に算定します。この「1号保険者」にかかる介護保険料は、その地域における介護が必要な高齢者が多いか少ないか、住民がどれくらい多くの介護サービスを利用しているかなどの要因で変動し、市町村や広域連合は、国が示した基準を参考にそれぞれの地域で見込まれる介護費用から保険料の額を決定することとなります。

 介護保険料は、3年に1回改定されますが、この令和6年は改定の年となっており、今回令和6年5月14日に、厚生労働省から全国の地域別介護保険料額と給付水準が公表されました。

前提として、第8期(2021年~2023年)までの介護給付と介護保険料の推移について【表1】により確認します。この【表1】によると、介護保険制度が始まった2000年当時と2023年を比較すると以下のような推移が分かります。

 2000年当時と2023年を比較すると、介護保険給付(総費用額)では「約3.83倍」、保険料では「約2.07倍」と、介護保険給付(総費用額)や保険料は大幅に拡大している状況にあることが分かります。

 つまり、65歳以上(1号保険者)が支払う介護保険料は、改定の都度上昇し、2000年当時は全国平均で月額2,911円の負担であったものが、この急速な高齢化に伴い、第8期(2021年~2023年)の改定では月6,014円と2倍以上の負担増加となり、今後2040年度には月額9,000円程度になるものと予測されているのです。

【表1】

出典:令和5年12月22日 社会保障審議会介護保険部会(第110回)参考資料1  P5より引用

★第1期(2000年~2002年)と第8期(2021年~2023年)の介護保険給付と保険料の比較
介護保険給付(総費用額)
 3.6兆円(2000年) ⇒ 13.8兆円(2023年) 約3.83倍に増加!

保険料
 2,911円(2000年) ⇒ 6,014円(2023年) 全国平均で約2.07倍に増加!

これを受けて、今後介護保険制度について、今後も持続可能な制度として存在するためにはどのように政策を執っていくべきなのでしょうか。

次項では、令和6年5月14日に厚生労働省から地域別介護保険料額と給付水準が公表されましたが、その状況を確認したいと思います。

政令市・東京23区における介護保険料と給付水準の状況はどうか?

前述のとおり、令和6年は介護保険料の改定の年となっておいます。令和6年5月14日に厚生労働省から全国の地域別介護保険料額と給付水準が公表されました。

今回、政令市・東京23区についての介護保険料を【表2】のとおり掲載します。

【表2】

第9期(2024年度~2026年度)の政令市・東京23区の介護保険料

※変動額は第8期(2021年~2023年)との比較による。「-」は据え置き、また「▲」はマイナスを表す。

第9期(2024年~26年)の介護保険料の全国平均金額は6,225円となっており、前回の第8期と比較し、211円(3.5%の上昇)増加しました。

【表2】によると政令市・東京23区についての介護保険料は上記のとおりであり、第8期(2021年度~2023年度)より引き上げた市区は37市区(政令市・東京23区の43市区うち37市区、実に約86%)に及んでいることが分かります。

① 政令市・東京23区の介護保険料の変動の動向比較
 介護保険料を引き上げる市区・・・37市区(86%)
 介護保険料を据え置く市区・・・・5市区(12%)
 介護保険料を引き下げる市区・・・1市区(  2%)

また、【表2】により色付けしている箇所については、第9期(2024年~26年)の介護保険料の全国平均金額の6,225円を「下回っている」市区を示しています。

② 政令市・東京23区の介護保険料の全国平均金額との比較
 全国平均金額を超えている市区・・・33市区(77%)
 全国平均金額を下回っている市区・・10市区(23%)

 【表2】より比較的人口が多い政令市・東京23区については、上記①より介護保険料を引き上げる市区は「37市区」となり、政令市・東京23区全体の約86%を占めることが分かります。また、上記②より全国平均金額を超えている市区の割合が、政令市・東京23区全体の約77%を占めています。

 特に、第9期の介護保険料が最も高い大阪市は、介護保険料が9,249円となり、第8期と比較し1,155円も上昇(14%の上昇)となっています。この介護保険料の金額は、市区として介護保険料が初めて9,000円を超えています。

 本項では、比較的人口が多い政令市・東京23区に着目し、介護保険料と給付水準の状況を確認しました。

次項ではこの政令市・東京23区と全国市区との介護保険料と給付給付水準の比較を行います。

政令市・東京23区と全国市区との介護保険料と給付水準の比較について

前項では【表2】のとおり、政令市・東京23区についての介護保険料と給付水準の比較を行いました。

本項では、政令市・東京23区と全国市区との介護保険料と給付水準の比較を行いたいと思います。

ここでは、2024年4月28日の日本経済新聞電子版、日経グローカルの調べによる内容を参考に以下を記載します。

令和6年2月~3月に、全国815市区に第9期(2024年~2026年)の介護保険料(第1号介護保険料の基準額)について調査を行い、回答を得たとのことです。

結果は、介護保険料(第1号介護保険料の基準額)を第8期(2021年度~2023年度)よりも引き上げた市区は以下③のとおり49%(全国815市区のうち約半数の402市区)に及んだことが分かります。

③ 全国市区の介護保険料の変動の動向比較
 介護保険料を引き上げる市区・・・402市区(49%)
 介護保険料を据え置く市区・・・・300市区(37%)
 介護保険料を引き下げる市区・・・113市区(14%)

例えば前項①と本項③から、以下のことが言えるのです。

まず、第9期に「介護保険料を引き上げた」政令市・東京23区は「86%」に上り、それ以外の市区では「49%」に留まることが分かります。

また、第9期に「介護保険料を引き下げた」政令市・東京23区は「2%」に留まりますが、それ以外の市区では「14%」に及ぶことが分かります。

このことから言えることは、政令市・東京23区をはじめとする比較的人口が多い大都市部分と地方の市を比較すると、やはり高齢者数の増加が著しい大都市部での介護保険料の基準額の上昇が目立っていることが分かります。

介護保険料に対する所得再分配機能を確認する

ここまで介護保険料と給付水準について確認してきました。

さて、【図1】は第8期までの介護保険制度における介護保険料の資料ですが、これ確認すると介護保険制度は、おおまかに言って「第1号被保険者の保険料」、「第2号被保険者の保険料」、「税金」から成り立っていることが分かります。

また、第8期(2021年~2023年)では、介護保険料(第1号介護保険料)が介護保険給付費の約23%賦課されていることが分かります

【図1】

出典:令和5年12月22日 社会保障審議会介護保険部会(第110回)参考資料1  P6より引用

加えて、【図1】では低所得者等に配慮し負担能力に応じた負担を求める観点から、市町村民税の課税状況等に応じて、段階別に設定されています。

 また、社会保障審議会介護保険部会の議論では、【図2】のとおり第9期における介護保険料(第1号保険者保険料の基準費用額)について、第1号保険者間での所得再分配機能を強化し、低所得者の保険料上昇を抑制することの方向性が示されました。

【図2】

出典:令和5年12月22日 社会保障審議会介護保険部会(第110回)参考資料1  P4より引用

  確かに、介護保険料について、第1号保険者間での所得再分配機能を強化し、低所得者の保険料上昇を抑制することは理解できるのです。しかし、前項までの今回の第9期における介護保険料の給付水準の比較を通じて、私はより新たな問題が明確になってきたものと考えています。この点について次項では書きたいと思います。

介護保険料に対する所得再分配機能では解決できない問題を指摘する

前項では、介護保険制度の源泉や介護保険料における第1号保険者間での所得再分配機能、低所得者の保険料上昇を抑制の仕組みを理解することはできました。

また、必要な介護サービスを安定的に提供するために、高齢者がそれぞれの負担能力に応じて保険料を支払い、制度を支える必要があることも理解できます。

しかし、今後、介護保険料(第1号保険者保険料の基準費用額)が高負担な市、政令市・東京23区をはじめとする比較的人口が多い大都市と、それ以外の市における介護保険料についての差異が「より大きくなる」こと、つまり、介護保険という制度を利用する中で「保険者間」での負担金額の差異が大きくなることにより、結果、介護保険料の高負担な市、政令市・東京23区をはじめとする比較的人口が多い大都市では、「所得再分配機能の効力が弱くなる」のではないかと考えています。

今回、これを感じたきっかけは、第9期において介護保険料が9,249円となり、第8期と比較し1,155円も上昇(14%の上昇)となった大阪市の介護保険料の状況を目の当たりにしたからです。この大阪市の介護保険料は市区として介護保険料が初めて9,000円を超えたケースです。

現に、【表3】で介護保険料について高負担の大阪市と低負担の登別市とを比較すると、大阪市の介護保険料は登別市の介護保険料の何と「2.15倍」にもなっているのです。

【表3】

「高負担市」、「政令市」、「東京23区」、「低負担市」の第9期(2024年度~2026年度)における介護保険料

 また、【図3】の高負担の上位3位までは、大阪府に所在する市なのです。

 こうした介護保険料の基準額を押し上げ、高負担となっている要因として考えられるのは、以下の要因が考えられます。

・後期高齢者の増加で介護サービスの利用者の増加
・介護職員処遇改善加算等の引上げ上げ

2024年4月28日の日本経済新聞電子版、日経グローカルの調査に対し、大阪市の担当者の回答として「一人暮らしの高齢者が多く、介護サービスの利用が増えやすい」と説明しており、今後もこの介護保険料が高負担の状態が続くとしているのです。

今後の介護保険料の負担を中心に仕組みをどうするのか?

 第9期以降、今後も後期高齢者の人口に占める割合の増加に伴い、介護保険給付(総費用額)や介護保険料(第1号保険者の基準費用額)が膨張していくことでしょう。

 反面、2040年に高齢者人口がピークを迎えることを想定し、財政面、サービス提供面の両側面から、安定性・持続可能性をより高めていくことが必須です。

 令和5年の介護保険部会における「給付と負担」の議論において、【表6】のとおり、介護保険の自己負担割合の「原則2割負担」という議論もなされましたが、結果として見送りとなりました。

【表6】

出典:令和5年12月22日 社会保障審議会介護保険部会(第110回)参考資料1  P11より引用

 私は、今回の厚生労働省から出された「第9期一号保険料」の資料を確認しました。

そして「介護保険料」と「要介護認定率」との相関関係を見ていると、あくまでのひとつの仮説ではありますが、以下のベンチマークを設定し、介護保険制度運営を行うことはどうかと考えてみました。

★介護保険制度運営のベンチマーク
「介護保険料を概ね6,000円程度の負担に抑えるためには市町村等における要介護認定率を約20%以下に抑えること」

 これを実現させていくためには、市町村主体における総合事業や自主的な介護予防活動の推進がより求められることになるでしょう。

今後の介護保険料の負担について対応すべき施策・仮説を挙げてみる

当初、このブログを書き始めた時より正直論点が広がり過ぎました。

 今後2040年に向けて、更に介護保険料が増加する可能性があります。そして介護保険制度を持続可能な制度として維持していくためには、「介護保険制度の仕組み改善の方向性」、「上記を実現するための施策・仮説」を様々な視点から検討してはどうかと考えています。

 こうしたことから、今回以下のような現時点、検討しても良いかと思われる視点について、以下のように箇条書きで書き出してみました。

★介護保険制度の仕組み改善の方向性
 ・介護保険利用者の負担増加
 ・介護保険の適用範囲の縮小
 ・介護保険制度事業の趣旨を理解しない事業者の羈束

★上記を実現するための施策・仮説
 ・1号保険者、2号保険者の負担逓増
 ・2号保険者の負担年齢の拡大
 ・介護保険料の原則2割負担適用
 ・介護保険料の3割負担の適用の拡大
 ・要介護認定の区分の変更
 ・要介護認定範囲の縮小(要介護1,2の総合事業化)
 ・要介護認定の再区分
 ・保険者の範囲の検討
 ・保険者としての介護給付範囲の検討・裁量付与
 ・介護予防活動の支援
 ・居宅介護支援事業所について「関係のある居宅サービス事業所への紹介制限」  
 ・介護経営実態調査における訪問介護の収支差率の区別(集合住宅型・在宅中心型)

まとめ

 今回、令和6年5月14日に厚生労働省から全国の地域別介護保険料額と給付水準が公表されたことに伴い、この状況を改めて介護保険制度が始まった2000年を起点とし、65歳以上(1号保険者)の介護保険料がどのような形で上昇し、現時点どのような状況にあるのか、そして今後どのような方向性が考えられるのかとしてブログを書き始めました。

しかし、書き始めてこの「介護保険料に対する所得再分配機能を強化しても自治体間格差拡大に対応できるのか」というテーマが、いかに非常に大きなテーマなのかということを改めて痛感しました。

確かに、地方分権において市町村運営では「住民自らが受ける行政サービスと負担する費用は住民自らが決定していく」ということは原則でしょう。しかし、日本という国家で、介護保険法が定められ運用されている中で、「高齢者の単身世帯が多い」、「高齢者の所得が低い」等の住民の属性に起因し、結果介護保険料が著しく高負担となってしまっている市が出現してしまった状況では、当初想定していた仕組みも適切に機能しているとは言えないでしょう。

そうした意味で、今後、持続可能な介護保険制度として「国民が介護保険によるサービスとこれに対する負担が想定される範囲の中で均衡するような仕組み」はどうなのかという視点から、ひとつの「きっかけ」としてブログを書いてみました。

何よりも介護保険制度は、原則として「保険料と公費」により成り立っています。そうであるならば、実際に保険料を負担している「被保険者」の目線無くして、介護保険制度を財政面、サービス提供面の両側面から、安定性・持続可能性をより高めていくことはできないでしょう。

今後も、是非、ブログを楽しみにしていてください。次回もお楽しみに。

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