【税理士が解説】実地指導における返戻と監査における返還金の違いとは?

運営指導、監査、立入検査

行政機関(保険者)が事業所に対する介護保険法や適正な運営を行うために行われる指導には、集団指導と運営指導があります。運営指導はそれぞれの事業所において個別に行われることから個別指導に該当します。

あくまでの個別指導ですから、行政機関とコミュニケーションを取りながら適正な事業運営を行う目的からも日頃の介護保険法上の適用や運営についても質問してみることも悪いことではないと思います。

しかし、この運営指導の中で報酬請求指導があり、事業所が「自己点検のうえ返戻」となる場合の位置づけと、監査により行政処分を下された場合、事業所が支払わなければならない「強制徴収公債権である徴収金」との違いを述べたいと思います。

運営指導において返戻が生じる場合

運営指導における報酬請求指導において返戻となる場合は次のような場合となります。
介護報酬における報酬請求指導において、不正請求ではなく「単なる請求上の誤り」と行政機関が判断した場合、他にも同様な誤りが無いかを含めて、事業所側が自己点検のうえ、過誤調整を行うように指導します。

この報酬請求指導においての過誤調整は、あくまでも事業所側からの申立てにより、過去の報酬請求を訂正する行為として位置付けられます。
つまり、事業所側の誤りであることについて、事業所側の認識があることが前提であり、この報酬請求指導における過誤調整(返戻)は、当然、行政処分ではありません。

  • 運営指導における報酬請求指導において、自己点検のうえ過誤調整を行い、自主的に過去の報酬請求を訂正(返戻)すること

上記について、具体例を挙げると、以下のような例です。運営指導による結果は指摘事項として文書により通知されます。
改善を要する事項は、その旨を報告・対応し期限を定めて行政機関に報告することとなります。

運営指導の払戻の具体例

介護付有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)にて運営指導が執り行われ、介護報酬の加算項目において「医療機関連携加算」が算定されていたが、加算の算定要件である「利用者の同意」を得ていなかったような場合。

このような場合、運営指導を執り行った行政機関より、「当該加算の算定要件となっている利用者の同意につき、過去2年間に遡り、自己点検のうえ、要件を満たしていない場合は返戻手続きを行うこと」という指導が出るような場合です。

監査において徴収金が生じる場合

行政機関が事業所に対して不正請求等の疑いがあると認められた場合、その事実確認として監査を実施します。

監査を通じて、その事実確認がなされた場合は、介護保険法第22条第3項に該当し、その返還すべき金銭は「強制徴収公債権である徴収金」として徴収されることとなります。

加えて、同条第3項後段には、「返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を徴収することができる」との記載があります。
つまり、強制徴収公債権である徴収金と併せて、行政機関(保険者)はこの金額を徴収することができるのです。

市町村は、~(省略)~が、偽りその他不正の行為により~(省略)~の規定による支払を受けたときは、当該指定居宅サービス事業者等から、その支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を徴収することができる。
介護保険法第22条第3項(不正利得の徴収等)

運営指導における返戻と監査における徴収金との違い

前述のとおり、運営指導において返戻が生じる場合と監査において徴収金が生じる場合を説明してきたが、ここで、この両者を比較して、その差異を確認したいと思います。

まず、運営指導における報酬請求指導において返戻となる場合、報酬請求指導は不正請求ではなく単なる請求上の誤りとして位置付けられる点であります。また、監査を通じ行政処分により返還すべき金銭は強制徴収公債権である徴収金として徴収されることになります。

つまり、事業所側が行政機関に同じ金額を返還すると言っても、以下のとおり、その支払う意味合いが全く異なるということです。

運営指導に返戻の場合は下記です。

  • 運営指導(行政指導)であり、行政処分ではないこと
  • 報酬請求指導の範疇であり不正請求ではなく単なる請求上の誤りであること
  • 事業所側からの申立てであり過去の報酬請求を訂正する行為であること

監査において徴収金が生じる場合は下記です。

  • 行政処分であること
  • 監査を通じ、事実確認として不正請求等の疑いがあると確認された場合
  • 介護保険法第22条第3項により返還すべき金銭は強制徴収公債権である徴収金として徴収されること
  • 同条第3項後段により「返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を徴収することができる」こと

行政処分により徴収金が生じるとダメージが大きい

報酬請求指導において返戻では、あくまでも不正請求ではなく単なる請求上の誤りとしての行政指導です。

しかし、行政処分として介護保険法第22条第3項より強制徴収公債権である徴収金として徴収されることとなると、その意味合いは全くことなり、併せてペナルティとも言える金額を徴収される可能性も大きいのです。

加えて、事業所が指定の取消しという行政処分を受けると、介護保険事業そのものを継続することができなくなってしまうのです。
そう言った意味でも、月並みではありますが、日頃から適正な事業所運営を心掛けましょう。

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