介護施設の監査に引っかかった場合に生じる経済的影響はどうなるのか

運営指導、監査、立入検査

一般的に行政機関から監査を受けることになって前向きな気持ちとなる介護事業所の方々はいないのではないでしょうか。

そもそも介護保険に関する事業所において行政機関より監査を受けることとなる場合には、その前提として「何らかの理由」が必ずあるはずです。

行政機関は、行政処分に先立ち、その理由を「明確に事実確認を行う」ために監査を行うのです。

これまでのブログでは、どのような運営や問題が生じた場合、行政機関による監査が行われるのか、またどのような行政処分が下されるのか、という点を主に取り上げてきました。

今回は事業所が行政処分を下された場合、事業所が被る経済的損失に焦点を絞り、どのような損失を被るのかを述べたいと思います。

監査を受ける場合の事業所の感じる不安は何か

まず、実際に監査を受ける事業所側の不安は以下のようなものではないでしょうか。

  1. 監査を受けて事業所はどのような処分が下されるのか
  2. 利用者や周囲への影響や事業継続がどうなるのか
  3. 介護報酬の返還金額、追徴額がどのような金額になるのか

実際に、事業所が監査まで至ると実際に行政機関からの指摘が「何もなかった」という可能性は少ないと思います。

仮に、私が当事者ならば、上記①~③を思い浮かべると思います。

その中でも今回のブログでは、特に行政機関によって監査が実施され、事業所において生じる可能性がある経済的影響、そして手続き等、つまり上記③についての話をしていきたいと思います。

事業所が経済的損失を被る可能性がある場合

今回は、監査に引っかかった場合に生じる経済的影響、つまり損失を被る場合としていますが、実際に事業所が損失を被る可能がある場合は以下の事例でしょう。

  1. 監査に基づく行政処分の効力が生じた効力に伴い介護保険事業が行えないこと
  2. 監査に基づく行政処分の効力が生じた効力に伴い介護報酬の返還金額や追徴額を支払うこと

上記①と②については、行政処分を下す前提となる事実確認により、指定基準違反又は人格尊重義務違反が認められた場合には、行政機関は介護保険法第5章に掲げる以下のような処分を下すことが考えられます。

監査結果については、文書により通知され、改善を要すると認められた場合には、行政機関に報告することとなります。

処分令

ア 報告、改善勧告、改善命令

イ 指定効力の停止(一部、全部)

ウ 指定取消

上記のうち、監査により事業所が経済的影響を受ける可能性が高いのは、イとウの場合と考えられます。

イの「指定効力の停止(一部、全部)」については、行政機関より指定効力の停止を命じられた期間は、当然事業所として介護保険事業を行うことができないのであるから、上記①に該当し、経済的影響を被ることとなります。

また、ウの「指定取消」の場合は、イとは異なり一定期間介護保険事業を行うことができないということでなく、今後事業所として介護保険事業を行うことができないということなのです(上記①)。

加えて事業所として事業を行ってきた期間のうち、行政機関により不正請求であると認定された期間について強制徴収公債権としての徴収金としての徴収、加えて追徴額を行政機関に支払うこととなる場合が多いのです(上記②)。

強制徴収公債権としての徴収金としての徴収だけでなく、そもそも追徴額とは何か

事業者が「指定取消」の行政処分を受け、行政機関により不正請求であると認定された期間の事業所としての介護保険サービスにより得た報酬の返戻手続きをするよう指示を受けるのは分かる。

これは、介護保険法第22条第3項に規定する偽り、その他不正の行為により介護事業所(指定居宅サービス事業者)が介護報酬の支払いを受けている場合に、行政機関(保険者:市町村)は、その支払った額につき返還させるべき額を不正利得とし、当該介護事業者に対し、当該不正利得の返還要請がなされます。

では、上記の強制徴収公債権としての徴収金としての徴収に加えて追徴額というものは一体何を根拠としているものなのであろうか。

これは、同法後段に「返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を徴収することができる」との記載があります。

根拠

介護保険法第22条第3項(不正利得の徴収等)

市町村は、~(省略)~が、偽りその他不正の行為により~(省略)~の規定による支払を受けたときは、当該指定居宅サービス事業者等から、その支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を徴収することができる

介護報酬返戻に伴う経済的損失は小さくない

介護報酬返戻について、不正請求であると認定された期間についての強制徴収公債権としての徴収金としての徴収であるが、その金額は大きくなりがちです。

その理由は以下のとおりです。

  1. 事業所が不正請求であると認定された期間が長されば比例して強制徴収公債権としての徴収金としての徴収金額が大きくなる
  2. 上記①の「返戻金額×100分の40」を乗じた金額が追徴額となる
計算例

処分内容:指定の取消

不正請求期間:令和X3年6月~令和X4年9月

不正請求金額:52,000,000円・・・①

追徴額:20,800,000円・・・②

事業者の行政機関への返戻等の金額(①+②):72,800,000円

上記【計算例】を見ると、それなりの事業所の規模で、かつ不正請求の期間が長いと強制徴収公債権としての徴収金としての徴収の金額は①のように大きくなる。

また追徴額の②についても①の金額の1.4倍を徴収することができることから、当然①+②の金額は、非常に大きな金額となることが分かるでしょう。

今回は、ブログのテーマとして、「監査に引っかかった場合に生じる経済的影響はどうなるのか」としました。

実際に指定の取消しという行政処分を受けるとなると、介護事業を行っていた経営者の社会的信用失墜はもとより、これを見ると介護報酬として得た金額を実際に強制徴収公債権としての徴収金として支払うとなると、経済的影響は計り知れない大きな金額となってしまうことがよく分かりますね。

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