連座制とは?指定取消処分等にともなう連座制適用について(㈱コムスン不正事件を通して)

行政処分(返戻・指定取消・連座制)

連座制の成立と㈱コムスン不正事件への経過を振り返る

そもそも連座制とは何か

運営する介護サービス事業所が不正により指定取消の行政処分を受けた場合、この介護サービス事業所を運営する本部が不正に関与していたことが判明した場合、連座制が適用されます。

具体的には、この指定取消の行政処分を受けた事業所だけではなく、同社が運営する同一サービス事業所等についても、包括的に指定や更新手続をすることができなくなるような行政処分を指します。

㈱コムスン不正事件発生事件以前の介護業界の状況

平成12年度に介護保険制度が導入され、民間事業者の参入が急速に拡大しました。この当時より㈱コムスン不正事件が発生する平成18年~19年においても、民間事業者による活発な参入は継続し、介護サービスを提供する体制は飛躍的に整備されてきました。

しかし、一方で一部の介護事業者は、介護サービスの提供にあたり架空時間を記録したり、介護サービス提供回数の水増し、虚偽の指定申請等による指定取消処分等は平成12年~平成18年の7年間で478件(うち民間企業の指定取消処分件数は325件)の指定取消等の処分事例が発生しているのです。

こうしたことから、平成18年度の介護保険法改正において、以下の制度が導入されたことに伴い、指定取消処分等は69件に減少した。

  • サービス内容等の情報公開の義務付け
  • 指定取消に伴う連座制の導入

㈱コムスン不正事件の概略

平成18年~19年に発生した㈱コムスン不正事件は、大きな社会問題となり、また平成20年の介護保険法改正と、平成21年度の介護報酬改定に多大な影響を与えました。

では、そもそもこの㈱コムスン不正事件では、どのようなことがおこったのか、主な不正事件における全体の流れを①~⑧として振り返ります。

  1. ㈱コムスンが指定申請時より管理者やサービス提供責任者の不在等の人員基準違反があるとして、介護保険法に基づき、東京都内にある同社運営の事業所を約50箇所の監査が実施された。この監査により事業所運営の人員基準等に違反があることが判明、不正事実が発覚した。
  2. 平成18年度の介護保険法改正により、連座制が適用される可能性が生じた。よって㈱コムスンは、この1つの事業所の取消で全ての事業所の指定更新ができなくなることを避けるため、「不正を指摘された事業所を自主廃業するという手段を用いること」により行政処分を逃れた。
  3. 指定申請時において記載があった訪問介護員等について、事業所開設時点より雇用実態が確認できなかった。
  4. この不正問題を受け、厚生労働省は全国に展開している事業所が虚偽申請を行っていないか、速やかに監査するよう都道府県に通知する。
  5. 厚生労働省は、㈱コムスンに対し、事業所の新規指定や更新を平成20年4月~平成23年12月まで認めないとする行政処分を通知する。
  6. これに対し、㈱コムスンの親会社であるグッドウィルグループは、「単なる名義変更」、「行政処分逃れ」とも取れる㈱コムスンの全事業をグループ内企業に譲渡することを決定。
  7. 厚生労働省は、行政指導として同一のグループ内企業への事業譲渡は到底国民や利用者への理解は得られないとして、グループ内企業への譲渡について撤回を求める行政指導を行った。
  8. この行政指導を受け、㈱コムスンは平成20年4月以降を目途に、外部への事業譲渡を表明した。

㈱コムスン不正事件が与えた介護保険制度への影響

政府の動きと介護保険法改正について

平成18年~19年に発生した㈱コムスン不正事件を受けて、平成20年の介護保険法改正と、平成21年度の介護報酬改定については、この㈱コムスン不正事件の発覚を受けた再発防止策の構築及び法令順守体制として業務管理体制の整備が義務付けられました。

これ以前は、国・都道府県・市区町村に介護サービス事業者への立入検査の権限なく、事業者の不正行為に対して立入権限を有していませんでした。よって、介護サービス事業者の組織的な不正行為への関与を確認することができなかったのです。

㈱コムスン不正事件を受けた再発防止及び介護サービス事業者の運営適正化を図るため、政府は平成20年3月5日「介護後保険法及び老人福祉法の一部を改正する法律案」を第169回国会に提出、同年5月21日の参議院本会議において全会一致で可決、成立し、5月28日に公布されました。

なお、介護保険法及び老人福祉法の改正法の施行は平成21年5月1日となりました。

再発防止策の構築と一部取扱の変更、法令順守体制の整備

平成20年の介護保険法改正に伴い、介護サービス事業者への立入検査権、是正勧告、命令権が創設されることとなり、介護サービス事業者への管理・監督権限が強化されたのです。

反面、平成18年度に導入された連座制は、1つの事業所が指定取消となると他の都道府県の事業所も指定や更新の拒否を受けてしまうという大きな影響が出てしまうことが明らかになったことから、その部分は調整されたのである。

以下に介護保険法及び老人福祉法の一部を改正する法律案の要点を纏めてみます。

業務管理体制の整備

法令順守の義務の履行を確保するため、業務管理体制の義務付けにより、指定取消事案等、不正行為を未然に防止するとともに、利用者の保護と介護事業運営の適正化を図る。

業務管理体制は、事業者自ら組織形態に見合った合理的な体制を整備するものであって、事業者の規模や法人種別当により異なるものであること。また、省令で定める整備の基準は、事業者が整備する業務管理体制の一部である。

具体的には介護事業者は、事業所数に応じて以下の3点が義務付けられている(以下の「業務管理体制の整備」参照。

  • 【小規模事業者】法令遵守責任者の選任
  • 【中規模事業者】法令遵守責任者+法令遵守マニュアルの整備
  • 【大規模事業者】法令遵守責任者+法令遵守マニュアルの整備+法令遵守に係る監査の実施

事業者の本部等への立入検査等

業務管理体制の整備状況や、事業者の不正行為への組織的関与の有無等を確認するため、事業者に対する報告徴収や、事業者の本社、事業所等に立入検査を行うこと。

検査の目的
  • 指定取消事案など不正行為の未然防止
  • 介護保険制度の健全かつ適正な運営の確保を図る
検査の視点
  • 事業者の規模等に応じた適切な業務管理体制が整備されているか
  • 指定事業所の指定取消処分相当事案発覚の場合の組織的な不正行為の有無(連座制適用の判断)。

事前届出制の導入

㈱コムスン不正事件が発生するにおいて以下の問題点が生じた。よってこの改正案では次のとおりの効果に変更されることとなった。

問題点
  • 指定取消等の行政処分前に事業所の廃止・休止届が提出されると、その事業所が存在しないこととなり、行政処分することができないこととなる。
  • 当時、事業所の廃止・休止届が事後届出制となっていたため、利用者のサービス確保がなされているかの確認ができないこと。
効果
  • 事業所の廃止・休止届出が提出されても1カ月間は事業所が存在するため、指定取消等の処分が可能となる。
  • 利用者のサービス確保のための時間が確保される。

立入検査中の廃止届の制限

立入検査の日から10日以内に、指定権者が聴聞するかしないか決定する日(聴聞決定予定日)を事業者に通知した場合、立入検査の日から聴聞決定予定日までの間に事業者が廃止届を提出した者について、相当の理由がある場合を除き、指定・更新の欠格事由に追加する。

問題点
  • 聴聞通知前に廃止届を提出されると、事業所が廃止されているため処分できない。
効果
  • 監査中に指定取消処分を予想した事業者が廃止届を出すと、他の事業所の指定・更新が拒否される(いわゆる処分逃れを防止)。

密接な関係にある者が指定取消を受けた場合の指定・更新拒否

申請者(法人に限る)と同一法人グループに属する法人であって、密接な関係を有する法人が、指定取消を受けた場合について、指定・更新の欠格事由に追加する。

従来の連座制を維持しつつ、一部取扱の変更

平成18年度の介護保険法改正により導入された指定取消に伴う連座制の仕組みは維持しつつ、事業者の本部等への立入検査により、組織的な不正行為への関与がある場合は、他の事業所の指定・更新を拒否することができる。

ただし、組織的な関与が確認されない場合等は、他の事業所の指定・更新を行うことができる。

従来の連座制を維持しつつ、連座制の及ぶ指定・更新の類型の区分

居宅系サービス(有料老人ホーム、グループホーム等)は、他の居宅系サービス(訪問介護等)と比べて、指定・更新の拒否を受けた際の利用者に与える影響が大きいため、連座制の及ぶ指定・更新の類型を区分する。

事業廃止時の利用者のサービス確保対策

事業者に対し、事業廃止・休止時における継続的なサービス提供のための便宜提供を義務づける。また、厚生労働大臣、都道府県知事、市町村長は、利用者に対するサービスが継続的に提供されるよう、関係者間の連絡調整、事業者に対する助言その他の援助を行うことができる。

介護報酬の不正利得返還請求規定の見直し

返還金等の回収について、手続きを簡素化し、地方税の滞納処分の例によることを可能とすることにより、保険者が確実に回収できるようにする。

【出典】

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