昨今、運営指導や監査が実施される中で、この介護職員処遇改善加算についての返還指導が派生する事例が見受けられます。
そもそもこの加算算定の条件や制度が複雑であることからも、事業所としての取扱いが困難になっている側面が否めないのではないでしょうか。
介護職員処遇改善加算で運営指導や監査において指摘されやすい事項
介護職員処遇改善加算の細かな算定要件については、他の書物等に任せて、ここでは運営指導や監査にて、介護職員処遇改善加算で指摘を受けやすい事項を取上げたいと思います。
【運営指導や監査で指摘されやすい事項】
- 加算により取得した加算額を全額、介護職員に賃金として給付すること
- 介護職員処遇改善加算の支給対象は介護職員のみであること
- この介護職員は人員基準に配置された職員であること(兼務は可能)
- 会社の社長は雇用主であるから支給対象には認められないこと
- 会社の役員についても役員報酬として対応すべきであるから認められないこと
- 介護職員処遇改善計画書を介護職員に周知徹底すること(事業所内の掲示板に掲示)
- キャリアパス要件①~③の仕組みを介護職員に周知徹底すること(新入職員に注意)
- キャリアパス要件①における就業規則や賃金規定等でキャリアアップの規定を明示
- キャリアパス要件②における新入職員の研修プログラムに組み込まれているか
指摘事項において特に取扱いで注意すること
上記については指摘されやすい事項として、私が現在まで運営指導や監査対応して、特に注意しておきたい事項の注意点を補記します。
- 加算により取得した加算額を全額、介護職員に賃金として給付すること
事業所に1円でも残っていた場合、この加算を取得できない、つまり返戻となります。
この返戻が恐ろしいのは、すでに介護職員処遇改善加算により得た金額は全て介護職員に給付済であるため、この加算金額の全てが事業者の持ち出しとなってしまうことです。 - 介護職員処遇改善加算の支給対象は介護職員のみであること
介護職員として人員基準に配置された職員が対象です。 - 介護職員処遇改善計画書を介護職員に周知徹底すること(事業所内の掲示板に掲示)
事業所内での掲示、対象者全員への回覧方式による確認(印鑑)、対象者全員への説明会の開催、対象者全員へのメールによる確認(送信のエビデンスの残す)。
行政処分において介護職員処遇改善加算が指摘された具体例
行政機関に行政処分(指定の取消)を受けた事例において、介護職員処遇改善加算の取扱いが適切ではなく、不正請求として処分を受けた事例をここに挙げます。
この事例では、前述の【運営指導や監査で指摘されやすい事項】において、「加算により取得した加算額を全額、介護職員に賃金として給付すること」「介護職員処遇改善加算の支給対象は介護職員のみであること」に該当していないようであることが分かります。
なお、この行政処分(指定の取消)は、この介護職員処遇改善加算の取扱いが適切ではなく、不正請求として捉えられたことは行政処分(指定の取消し)のひとつの要因であって、この事象のみをもって行政処分を受けたことではないことに注意が必要です。
介護職員処遇改善加算が指摘された具体例
- 訪問介護事業所・・・指定の取消(効力発生日令和5年4月10日)
- 不正請求(介護保険法第77条第1項第6号該当)
- 介護職員処遇改善加算
当該事業所の職員ではない者に支給したほか、支給額が当該加算として受領した額を上回っていないにもかかわらず、上回ったとする実績報告を提出し、介護給付費を不正に請求、受領した。
- 不正請求金額
- 不正請求額(概算)・・・\4,866,073円(不正請求期間 令和3年6月分~令和4年9月分)
ここでは、介護職員処遇改善加算に伴う介護報酬返還に伴う概算金額を示しました。
なお、この場合、介護保険法第22条第3項による不正利得による追徴を課されることも想定されますので、返還金額がより多額となることが想定されます。
【出典】令和5年4月10日 介護保険事業者の行政処分について(群馬県)
介護職員処遇改善加算と類似する加算について
この介護職員処遇改善加算は(Ⅰ)~(Ⅲ)が用意されており、既に介護保険事業者の全体の9割程度が当該加算を算定している状況です
しかし、この加算が成立した後、以下の時期に介護職員の勤務年数や他の職員に給付可能な加算が用意されました。
なお、この度、介護職員処遇改善計画書や介護職員処遇改善報告書の書式の変更がありましたので、書類の提出時期には十分注意しましょう。
- 介護職員処遇改善加算(2012年度より)
- 介護職員等特定処遇改善加算(2019年度より)
- 介護職員等ベースアップ支援加算(2022年度より)