【税理士が解説】苦情や要望をどのように受止めていますか?【介護・福祉】

苦情対応の参謀

 皆さんが、日頃、介護サービス事業所や障害者支援施設を運営していると、様々な形で利用者やそのご家族から「苦情」や「要望」を受けることが多いと思います。

その大きな理由のひとつは、施設での生活は、利用者にとって「生活そのもの」だからです。

自宅では、当然自分が過ごしやすいように生活するでしょうし、反面施設となると集団の中で、様々な異なる生活環境や、生きてきた世代によっても、その価値観が異なり「苦情」や「要望」が出てくるのは当然なのです。

そもそも事業者側は、「苦情」や「要望」が出て当然という「受け入れる気持ち、考え方」が無いと、本来「あるべき施設運営と大きくかけ離れたもの」となってしまう恐れがあるものなのです。

私自身、高齢者施設の施設長を約4年間経験していますが、利用者やそのご家族からの「苦情」や「要望」に対してどのように対応したのか、また他のクライアントでの事例を参考にしながら、今回「苦情対応の参謀」という形で、ブログを立ち上げることとしました。

今回は、その第1回目として、「苦情」と「要望」に対して私がどのように向き合い、考え、行動したのかを「かみ砕く」ようにブログに書いてみました。

 今後、この「苦情対応の参謀」では、様々な苦情を中心とした事例を取上げ、この事例を通じて、このブログをお読みいただいている事業者の皆さんの参考になっていただけるようであれば幸いです。

「苦情」と「要望」を理解しよう!

 一般的に「苦情」と「要望」は以下のような意味を持つものと思います。

★「苦情」と「要望」の意味

「苦情」・・・自分が他から受ける損害や不利益などに対する不平・不満。

「要望」・・・何らかをしてほしいと望むこと。

※新明解 国語辞典 第8版(三省堂)より抜粋。

 こうしてみ確認すると事業所側に利用者やそのご家族から出される「苦情」と「要望」と相似点と相違点は以下のとおりとなるものと思われます。

 確かに上記のとおり「苦情」と「要望」には相違点が存在するものの、明らかに「相違点」である①②が存在することが分かります。

では、ここでこの「相似点」を言語化してみましょう。

事業者側として「まずはしっかりと傾聴」しよう!

 次に事業者側として非常に大切な考え方をご紹介します。

前項のとおり、利用者やそのご家族から「苦情」や「要望」の「申し入れ」が意思表示され、事業者側はこれをどのように受止めるのかが非常に大切となります。

この申し入れに対する気持ちの持ち方によって、事業者としての運営能力向上に資するか否かに大きな差が生まれてきます。

 大切なのは、利用者やそのご家族からの「苦情」や「要望」に対し、事業者側として、以下の姿勢がとれていますか?

このような時、ついつい利用者やご家族からの「苦情」や「要望」に対し、事業所側として感情的になり、利用者等の話を遮り、言い訳をするようなことをしていませんか。

そもそも、その利用者等の「苦情」や「要望」の内容が適切なのか、理不尽なものなのかは、ここでは一切関係無いのです。

事業所側として、先ずは客観的事実関係や内容を検討するためにも、「ひたすら拝聴し、客観的な事実関係の把握に努める」ことを行ってください。

担当者として、利用者やそのご家族からの「苦情」や「要望」をしっかりと拝聴することを通じて、事業者側として「苦情」や「要望」の客観的な事実関係の把握が最優先です。

また、しっかりと拝聴するは、利用者やそのご家族の感情に以下のような影響を与えることに寄与することです。

③ 信頼関係の基礎ができたことに伴う「話し合いの余地の発生」。

 事業者側は、利用者やそのご家族の「苦情」や「要望」に対して、こうした時、つまり「感情的に」なっている可能性が高い場合、①~③のアプローチを採らずにして、話し合いの冒頭より独りよがりに「論理的に」説明したところで、説明される利用者やそのご家族の「心を開くこと」はあり得ません。

 繰り返しになりますが、まずは事業者側として真摯に利用者やそのご家族の話に向き合うことに全精力を傾注することが一番大切なのです。

事業者側として、この「苦情」と「要望」への向き合い方は?

 利用者やそのご家族の話に向き合い、しっかりと傾聴することができたのであれば、次に事業者側として、この「苦情」と「要望」にどのように向き合い、対応していくのかという話に論点が移ります。

この向き合い方は、本項にて「事業者側」として、そして次項では「利用者やそのご家族」とに分かれます。

 では、まず事業者側として、この「苦情」と「要望」について、どのように利用者やそのご家族の期待と現実との差異を埋めるために、事業者側として実現が可能なのか、可能であるのであればどのような行動を採るべきなのか、また実現可能性があるのか含め、検討します。

★事業者側として検討事項

・その「苦情」や「要望」に実現可能性があるのか(費用面含め)。

・実現可能性があるのであれば計画や期間含め、どのように行動するべきなのか。

・実現不可能であれば謝絶、又は代替案の提案。

 こうした「苦情」や「要望」に対する対応ついて、事業者側は、対応可能であるのであればまだしも、実現不可能であるのであれば「明確に謝絶すること」とともに、加えて速やかに「代替案を提示する」ことが利用者やそのご家族への信頼向上に繋がるものです。

 そもそも事業者側は、本音として「苦情」や「要望」が出ない方が良いなと思ってしまう考えがあるのも事実です。なぜなら、利用者やそのご家族からの「苦情」や「要望」が出なければ、何もこのような「めんどくさい」対応をする必要が無いもの事実だからです。

しかし、こうした顧客(利用者やそのご家族)からの「苦情」や「要望」に真摯に向き合い対応することにより、事業所に勤務する職員や事業所自体の運営能力の向上に繋がるものなのです。

こうしたことから私は、高齢者施設の施設長を担っていた時、いつも以下のように考えていました。

「要望」や「苦情」が多ければ多いほど運営能力向上する余地がある。これをしっかりと対応することを通じてより良い運営になるはずだ

利用者やそのご家族に対する対応は?

 よくあることなのですが、利用者やご家族の「苦情」や「要望」をしっかりと傾聴した。そこまでは良いのですが、注意すべきは、傾聴後、利用者やご家族へ連絡することも無く、時間のみが経過してしまっているような場合です。このような場合は、「高い確率でトラブルになる」と思われます。

なぜなら、利用者やその家族からしたら、事業所側が「一生懸命話をし、担当者も傾聴してくれた」という安堵感が、時間経過とともに不安感に置き換わるからです。

 こうしたトラブルを防止するためにも以下のような対応を講じましょう。

★利用者やその家族に対する対応

・対応に時間がかかるのであれば「途中経過」を報告する。

・実現不可能、又は代替案を提案するのであれば「直接面会して」説明する。

・内容が複雑ならば誤解が無いように「文書で回答」する。

 よくこうした対応を、「電話」や「メール」で簡単に済まそうとする方がいます。この「電話」や「メール」は、信頼関係という基盤が明確に構築されている状況であれば便利ツールであると言えます。

反面、この基盤が無い状態で要件だけ伝達しようとするのなら、お互いに感情の行き違いが生じる可能性があります。

 やはり、利用者やそのご家族を直接面会して、「苦情」や「要望」に対する事業所側の対応方針を伝えることがよろしいかと思います。

まとめ

 実際に、介護サービス事業所や障害者支援施設を運営していると、数多くの「苦情」や「要望」を対応することになります。時には、利用者等から感情的に苦情を伝えられたりすると精神的に追い詰められることもあるでしょう。でも冷静に考えてみてください。利用者等は「なぜそこまで感情的になるのでしょうか」。

それは、自分の自宅であれば「好きなようにできたこと」が、このような事業所における集団の場となると思い通りにならない「不安感、苛立ち」があるからに他なりません。

そのような利用者やご家族の「不安感、苛立ち」を理解し、寄り添うことこそがプロフェッショナルなのではないでしょうか。

介護サービス事業所や障害者支援施設での運営において、「苦情」や「要望」を全て明確に白黒をハッキリとさせるような線引き(たとえば規則、法律によって)」は困難だと思います。なぜなら、介護サービス事業所や障害者支援施設における運営は、「その利用者の生活を支える場である」からです。

そうであるのであれば、そもそも利用者の価値観が異なること、つまりそれに伴い「苦情」や「要望」が出てくるのは当然なのです。

今回は、実際に現場で顧客対応に苦労している同志へエールを送るつもりで、このようなブログを書いてみました。また、今後は「苦情」を中心に「苦情対応の参謀」というカテゴリーを立上げましたので、引き続きブログを書いていこうと思います。

では、次回のブログも、ぜひ楽しみにしていてください。

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