大都市部の介護保険料が急増している状況を理解していますか?

介護保険制度

2024年4月28日の日本経済新聞電子版によると、65歳以上(1号保険者)が支払う介護保険料が上昇しているとの記事が掲載されていました。

内容としては、日経グローカルの調べによると、全国815市区のうち約半数の402市区について、「特に大都市部の市区」における介護保険料を引き上げたということです。

つまり、政令指定都市をはじめとする大都市を中心に、高齢者層が増えて介護サービス費が増加していることからも、介護保険料についても市区では「平均2%」上昇するということなのです。

今回は、65歳以上(1号保険者)の介護保険料が支払う介護保険料が上がるとの記事ですが、ただ「介護保険料が上がった」と言われても、なかなかピンとこないものです。

今回、このブログでは、介護保険制度が始まった2000年を起点とし、65歳以上(1号保険者)の介護保険料がどのような形で上昇したのか、そして現在はどのような状況なのかを、資料を用いながら追ってみようと思います。

介護保険制度開始以来の介護給付と介護保険料の推移を確認する

介護保険制度開始以来の介護給付と介護保険料の推移を確認する

令和5年12月22日に開催された、社会保障審議会介護保険部会(110回)の参考資料を確認すると、介護保険制が創設されてからの「介護給付」と「介護保険料」の推移を確認することができます。

この【表1】を確認すると、介護保険制度が始まった2000年当時と2023年を比較すると以下のような関係が導かれます。

介護保険給付(総費用額)
3.6兆円(2000年) ⇒ 13.8兆円(2023年) 約3.83倍に増加!

保険料
2,911円(2000年) ⇒ 6,014円(2023年) 全国平均で約2.07倍に増加!

つまり、2000年と2023年を比較すると、介護保険給付(総費用額)では「約3.83倍」、保険料では「約2.07倍」と、介護保険給付(総費用額)や保険料は大幅に拡大している状況にあることが分かります。

これを受けて、今後介護保険制度について、今後も持続可能な制度として存在するためにはどのように政策を執っていくべきなのでしょうか。

次項では、介護保険制度における第1号保険料を踏まえたうえで、負担能力に応じた負担を求める観点から、「所得段階別保険料」を採用していましたので、その推移を確認してみたいと思います。

介護保険制度における介護保険料と所得段階別の推移を確認する

以下の【表2】を確認すると、第8期(令和3年~令和5年)では、市町村(保険者)は、介護保険給付費の約23%に相当する額を第1号保険者に保険料が賦課されていることが分かります。

また、第8期における第1号被保険者の保険料は、サービス基盤の整備の状況やサービス利用の見込みに応じて、保険料を保険者ごとに設定しています(保険料の基準額の全国平均は月額6,014円)。

加えて、【表2】では、低所得者等に配慮し負担能力に応じた負担を求める観点から、市町村民税の課税状況等に応じて、段階別に設定されています。この第8期での標準は「9段階」となっています。

このように、低所得者等への配慮として、被保険者の保険料の「標準段階」については【表3】のとおり、介護保険制度が創設された当時より、介護保険料算定に当たって市町村税の課税状況を活用したうえで、負担能力に応じた負担を求める観点から、「所得段階別保険料」が採用されていました(標準は5段階)。

この後、平成18年改正(標準は6段階)、平成27年改正(標準は9段階)となっています。

 また、令和2年4月1日現在、この標準の9段階を超えて「多段階化」を行っている自治体は、820保険者(52.1%)であり、最高段階は25段階(1保険者)となっています。

第9期の介護保険料はどうなるのだろうか?

冒頭の2024年4月28日の日本経済新聞電子版より引用、日経グローカルの調べによると、本年2月~3月に、815市区に第9期(2024年度~2026年度)の第1号介護保険料の基準額について調査を行い、回答を得たとのことです。

結果は、第1号介護保険料の基準額を第8期(2021年度~2023年度)よりも引き上げた市区は49%(全国815市区のうち約半数の402市区)に及んだことが判明しました。

○第1号保険料について第8期と第9期の市区の状況比較
 介護保険料を引き上げる市区・・・402市区
 介護保険料を据え置く市区・・・・300市区
 介護保険料を引き下げる市区・・・113市区

このうち、基準額が最も高いのは、大阪市の「9,249円」でした。これは第8期と比較し「1,155円」(14%)の上昇となりました。これは市区において第1号介護保険料の基準額が初めて9,000円を超えたということになります。

 この要因として考えられるのは、後期高齢者の増加で介護サービスの利用者が約3%増加する見通し、そして介護職員処遇改善加算等が1.59%引き上げられる見通しを踏まえたことが第1号介護保険料の基準額を押し上げたものであると思います。

 この調査による大阪市の担当者の回答として「一人暮らしの高齢者が多く、介護サービスの利用が増えやすい」と話し、このことからも介護保険料が市区で高負担の状態が続くとしています。

 また、東京23区では、約9割にあたる20区で第1号介護保険料の基準額が引き上げられ、このうち最も高負担は荒川区の「6,920円」となっています。

大都市と地方を比較すると、やはり高齢者数の増加が著しい大都市部での介護保険料の基準額の上昇が目立っており、東京23区と政令指定都市で第1号介護保険料の基準額を引き上げた市区は「約86%」に上り、それ以外の市区では「約47%」に留まっています。

また、反面「介護保険料を引き下げる」市区も「約14%」に及んでいます。この介護保険料の引下げには以下のような市区における政策を垣間見ることができます。

○食料品など物価高騰に対する高齢者世帯への経済的負担への配慮(滋賀県大津市)
 ⇒介護給付費は増加していることから基金からの補填により対応(▲10%引下げ)

○住民の自主的な介護予防活動により基準額を引き下げ(和歌山県橋本市)
 ⇒(▲16%引下げ)

○介護施設が少なく給付費も少ない。人材不足で施設数は十分ではない(北海道根室市)
 ⇒(±0円変動無し)

これらは、これはあくまでも市区における平均で「引き上げた」という議論です。つまり、実際に介護保険加入者が負担する保険料については、所得基準額に応じた軽減や、割増率を乗じて計算されることとなるのです。

今後の介護保険料の負担はどうなっていくのだろうか?

前項までの議論で、第9期においても、また今後も後期高齢者の人口に占める割合の増加に伴い、介護保険給付(総費用額)や第1号保険者の基準費用額が膨張していくことは間違いありません。

 反面、2040年に高齢者人口がピークを迎えることを想定し、財政面、サービス提供面の両側面から、安定性・持続可能性をより高めていくことが必須となります。

 令和5年の介護保険部会における「給付と負担」の議論において、【表6】のとおり、介護保険の自己負担割合の「原則2割負担」という議論がなされましたが、結果として見送りとなりました。

よって、第9期は、【表7】により介護保険制度の運営は行われることとなりますが、ここに「制度内での所得再分配機能の強化」そして「負担能力に応じた」配慮の方向性が示されていることを理解することができるのです。

本項では、社会保障審議会介護保険部会の議論を通じ、第9期における第1号保険者保険料の基準費用額、そして現時点における第1号保険者の介護保険料の負担の方向性を示しましてみました。

まとめ

 私自身、現在まで介護保険制度についてのブログは「事業者側」の目線から記述することが多かったと思います。

 ここで、令和6年度の介護報酬に関する対応がヤマ場を越え、第9期(2024年度~2026年度)がスタートしました。この第9期は、事業者側の目線も、もちろんブログを記述しますが、何よりも介護保険制度は、原則として「保険料と公費」により成り立っているのです。

 そうであるならば、実際に保険料を負担している「被保険者」の目線無くして、介護保険制度を財政面、サービス提供面の両側面から、安定性・持続可能性をより高めていくことはできないのです。

 今後、このことを念頭に私なりに介護保険制度の「持続可能性」を意識したブログについても、鋭意記載して行こうと思っています。

今後も、是非、ブログを楽しみにしていてください。次回もお楽しみに。