行政指導とは?簡単に行政機関の運営指導の位置付けについて解説

運営指導、監査、立入検査

現在まで、介護保険に携わる事業者として数多くの運営指導や監査に立ち会ってきました。その中で、私が非常に感じたことは、実際にこれらの業務に関わる各行政機関(都道府県、政令指定都市、中核市等)によって、運営指導や監査に対する考えに特徴があるのだと感じてきました。

もちろん、各地域介護ニーズや事業者の特性に応じ、各行政機関によって「ある一定の」独自の運営指導や監査のスタイルが容認されるのだとは思います。しかし、その容認の前提は、これらの行為は法律や条令等の委任を受けていることが原則なはずです。

特に、運営指導は行政手続法にいう行政指導であり、かつこの運営指導を行う行政機関の担当職員の一部は、実際にこの趣旨を理解して事業者に対する対応ができているのかと感じることがありました。

今回は、行政指導と運営指導について再確認し、実際に元地方公共団体の職員であった私が運営指導を受けてきた中で一部の行政機関の担当職員に感じたことをブログに記載したいと思います。

行政指導とは何か

介護保険事業者に対する行政機関の運営に対する指導には、集団指導と介護事業者に対する個別指導である運営指導が存在します。
今回はこの後者の運営指導について焦点を当てて話を進めます。
この運営指導の本質は、行政手続法第32条の「行政指導」です。これは行政機関が相手方に一定の作為又は不作為を行わせようとする行為です。

行政手続法

行政手続法第32条第1項(行政指導の一般原則)

 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。

行政手続法第32条第2項(行政指導の一般原則) 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

私は、この行政手続法が施行当時、地方公務員に在職しており、行政手続に関する条例について実際に関わりました。この行政手続法が制定される以前、当時、行政機関では行政指導という名のもと、法律や条令を根拠としないで事業者や住民に対し、「あたかも強制力があるような指導」を行っていた事例があり、この指導が問題視されていました。

こうしたことから、行政手続法では明確に「行政指導」というものを定義し、行政機関の職員は、この法的趣旨を理解したうえで業務にあたることとなったのです。

運営指導はあくまでも行政指導

結論から言うと、運営指導はあくまでも「行政指導」であり、あくまでも相手方(事業者)の任意の協力によってのみ実現されるものであり、強制力はないのです。
この運営指導の根拠規定は以下の規定です。つまり、文書や物件の提示や提出の求めや質問等により行政調査を行い、事業者の情報を収集のうえ、運営指導が行われることとなります。

【介護保険法】

介護保険法第23条(文書の提出等)

市町村は、保険給付に関して必要があると認めるときは、当該保険給付を受ける者若しくは当該保険給付に係る居宅サービス等(省略)を担当する者(省略)に対し、文書その他の物件の提出若しくは提示を求め、若しくは依頼し、又は当該職員に質問若しくは照会をさせることができる。

介護保険法第24条第1項(帳簿書類の提示等)

厚生労働大臣又は都道府県知事は、介護給付等(省略)に関して必要があると認めるときは、居宅サービス等を行った者又はこれを使用する者に対し、その行った居宅サービス等に関し、報告若しくは当該居宅サービス等の提供の記録、帳簿書類その他の物件の提示を命じ、又は当該職員に質問させることができます。

これらの運営指導の根拠規定には、あくまでも「情報を集めるための権限のみ」が規定され、立入検査の権限については規定されていません。
よって、これらの規定により情報収集を行うことは可能ですが、基準等の適合状況について調査するため、行政機関が行う法的な根拠に基づく立入検査を行うことはできないのです。

つまり、運営指導は相手方(事業者)の任意の協力の下に行われる行政指導であり、行政機関が具体的な指導を行う場合には相手方(事業者)に、その根拠を示し十分な説明を行い、理解を得ることが必要です。

ただし、運営指導が任意の協力の下に行われるものであり、強制力がないと言っても事業者が行政指導に従わなくて良いと言っているのではありません。
この行政指導に従わなかった場合には、行政機関は事業者側に何らかの理由、例えば事業者側に法令違反等があるという疑いがあるならば、監査を実施、事実確認が行われることとなるからです。

運営指導は違法行為の取締りや犯罪捜査を行うものではない

 運営指導の根拠規定には、あくまでも情報を集めるための権限のみが規定されており、また、この運営指導自体に違法行為の取締りを行うものではなく、また犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならないのです。その根拠規定を以下に示します。

【介護保険法】

介護保険法第24条第4項(帳簿書類の提示等)

 第一項及び第二項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない

 介護保険法第24条の権限については、居宅サービス等を行った者又はこれを使用する者がそれに従わない場合には、介護保険法第213条の罰則が適用される可能性があります。

また、事業者側に法令違反等があるという疑いがあるならば、監査を実施される可能性もあります。

【介護保険法】

介護保険法第213条第1項

 居宅サービス等を行った者又はこれを使用する者が、第24条第1項の規定による報告若しくは提示をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同項の規定による当該職員の質問(省略)に対して、答弁せず、若しくは虚偽の答弁をしたときは、十万円以下の過料に処する。

4.行政機関の担当職員は運営指導の位置付けを理解しているか

繰り返しになりますが、運営指導は相手方(事業者)の任意の協力の下に行われる行政指導であることからも、行政機関の担当職員は、その根拠を示し、相手方(事業者)への丁寧な説明が必要であると思います。

元地方公共団体の職員であった私が、今まで運営指導を受けてきた経験の中で、数多くの行政機関の担当職員による運営指導の対応は丁寧であったと思います。

反面、非常に問題があるような対応や発言をした一部の行政機関の担当職員も存在したので具体例を記載します。

  • 非常に高圧的な態度で言葉遣いが横柄である
  • 根拠が不明確であり担当者により指導内容が異なる
  • 突然事業所を訪問し、これが行政指導なのか監査なのかを示さない
  • 運営指導で適切に根拠、判断基準を示さない

そもそも行政機関は非常に強力な権限を持っているのです。その強力な権限を行使するためには法律や条令の根拠が必ず必要です。ゆえに行政機関が権力を行使するためには、相手方(事業者)に根拠を示し、かつその手続きや判断基準を明示することが非常に重要です。

上記の具体例にも記載しましたが、根拠のない行政指導は指導担当者の主観的な「その場の思いつき」のような発言、つまりこのような主観的な指導は徹底的に排除されるべきです。
このような指導が、担当者ごとや行政機関ごとのローカルルールを派生させる要因となることに他ならないのです。

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