皆さん、こんにちは。元有料老人ホームの施設長を担当していた税理士・行政書士の山田勝義です。
さて、今回のブログでは、令和6年11月13日に開催された財政制度分科会で「社会保障」について議論されました。このうち介護分野において今後の介護保険制度・介護報酬改定に影響があると思われる部分で、かつ介護事業者に影響が大きい部分について資料を交えながら確認したいと思います。
では、この財政制度分科会で社会保障における「介護」についての議論に先立ち、政府の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)、社会保障における介護分野における方向性について確認しましょう。
「骨太の方針」に示された「介護」で示された方向性
我が国では、介護保険制度が創設されて以来、現在に至るまで、介護保険給付の適正化に係る改革が実施されてきました。しかし、今後も1人あたりの介護保険給付費が急増する85歳以上の人口が増加し、そして介護保険制度の現役世代の支え手(2号被保険者)が減少することを鑑み以下の3点から介護保険制度の持続可能性を確保する趣旨からも体制構築を行うことが必要とされています。
★介護保険制度の持続可能性を確保するための体制構築
・保険給付の効率的な提供
・保険給付範囲の在り方の見直し
・高齢化・人口減少下での負担の公平化」
この「介護保険制度の持続可能性を確保するための体制構築」を受け、「介護」についての具体的な方向性の個別項目は以下のとおりとなっています(抜粋)。
★「我が国の財政運営の進むべき方向」・・・「介護」
(1)効率的な給付
①生産性の向上
ア)ICT機器を活用した人員配置の効率化
イ)経営の協働化・大規模化の推進
②高齢者向けの施設・住まいにおけるサービス提供の在り方
ア)高齢者向け施設・住まいの整備の在り方
イ)利用者に対する囲い込み等への対応
③保険外サービスの活用
④人材紹介会社の規制強化
⑤軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への移行
⑥生活援助サービスに関するケアプラン検証の見直し
(2)利用者負担の見直し(ケアマネジメントの利用者負担の導入)
(3)負担の在り方
①利用者負担の見直し
②多床室の室料負担の見直し
上記のとおり、政府の経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を受け、次に令和6年11月13日に実施された財政制度分科会資料(社会保障)において介護事業者に影響が大きい部分について資料を交え、次項以降で確認してみましょう。
今後の改革の方向性(総括)を確認する
今回開催された財政制度分科会資料における「今後の改革の方向性(総括)」における【表1】を確認すると、介護保険制度について、政府はこれまでも「確実に」給付適正化についての改革を実施してきたことがよく分かります。
それは【表1】より「保険給付の効率的な提供」、「保険給付範囲の在り方の見直し」、「高齢化・人口減少下での負担の公平化」の各項目を確認することにより理解できます。つまり、個別項目において「具体的な導入年月」が記載されている項目はすでに導入されているのです。
このように「工程に従って確実に」給付適正化の取組みが実施されていることからも、【表1】の下部に記載されている「今後の改革の主な方向性」についても、その個別項目について確実に実施されていくことは間違いありません。
当然のことながら、前項において示した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)における「介護保険制度の持続可能性を確保するための体制構築」を受け、「介護」についての具体的な方向性の個別項目を重複していることがよく分かります。
では、次項から「今後の改革の主な方向性」において、介護事業者にとって影響が大きい部分を「個別ごとに」取り上げて参ります。
生産性の向上:ICT機器の活用・人員配置の効率化
【表2】のとおり、限られた介護人材を有効に活用し、生産性を向上させるために、より介護現場における「タスク・シフト/シェア」を推進し、ICT機器を活用し、「人員配置の効率化」を進めていくことが必要です。加えて、経営の協働化・大規模化が促進される方向性です。
また、令和6年度介護報酬改定では、「特定施設(介護付き)」、「介護老人保健施設」について、「人員配置基準の柔軟化」が実施されましたが、今後「特別養護老人ホーム」、「通所介護」等における人員配置基準の柔軟化を実施されるものと思われます。
【表2】
出典:令和6年11月13日 財政制度分科会 社会保障(財務省)資料P96より引用
利用者に対する囲い込み等への対応
住宅型有料老人ホームやサ高住(非特定施設)については、介護報酬について特別養護老人ホームや特定施設(介護付き)等の「包括報酬」と比較し、関連法人が外付けで介護サービスを行う「出来高払い」により、多くの介護報酬を得ることができるような仕組みとなっています。
こうしたことから、結果として【表3】のとおり、「利用者に対する囲い込み・過剰サービスの原因」になっています。
また、関連法人が外付けで介護サービスを行う「出来高払い」の施設は、「家賃等が安い傾向にあり、結果、安い入居者負担で利用者を囲い込み、関連法人による外付けサービスを活用し、介護報酬で利益を上げるビジネスモデルが成立している可能性があります。
こうしたことから、今後、住宅型有料老人ホームやサ高住(非特定施設)における利用者の囲い込みに対して、訪問介護の同一建物減算に止まらず、外付けで介護サービスを活用する場合にも、「出来高払い」ではなく、「包括報酬」により、利用上限とする形で介護報酬の仕組みを見直すべきという議論も出されています。
【表3】
出典:令和6年11月13日 財政制度分科会 社会保障(財務省)資料P103より引用
軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への移行
今後の介護保険制度の方向性として、要介護者の中でも専門的なサービスをより必要とする重度者に給付を重点化していくとともに、生活援助等は地域の実情に応じて効率的に提供していくことが求められます。
よって、軽度者(要介護1・2)に対する訪問介護・通所介護についても地域支援事業への移行を目指し、段階的にでも、生活援助型サービスをはじめ、地域の実情に合わせた多様な主体による効果的・効率的なサービス提供に移行していくものと思われます。
【表4】
出典:令和6年11月13日 財政制度分科会 社会保障(財務省)資料P105より引用
ケアマネジメントの利用者負担の導入
居宅介護支援については介護保険制度創設以来、利用者に負担を求めない取扱いとされてきました。
しかしながら、この取扱いは利用者側からケアマネージャーの業務の質へのチェックが働きにくい構造となっている状況にあるといえます。
こうしたことから、公正・中立なケアマネジメントを確保する観点から、質を評価する手法の確立や報酬への反映をあわせ、「居宅介護支援に利用者負担を導入」する方向性が検討されているのです。
【表5】
出典:令和6年11月13日 財政制度分科会 社会保障(財務省)資料P104より引用
利用者負担の見直し
介護保険の利用者負担については、昨年に介護保険の自己負担額「2割負担」の対象者の範囲拡大の議論は行われたものの見送りとなりました。
こうした影響は、実は「介護保険料の上昇」と言う形で影響が生じているのです。よって、今後所得だけではなく金融資産の保有状態等の反映の在り方、負担割合の在り方を検討したうえで、介護保険の自己負担額「2割負担」の対象者の範囲拡大について実現すべきとされています。
また、医療保険と同様に、「利用者負担を原則2割」とすることや、現役世代並み所得(3割)等の判断基準を見直すことについても検討すべきとされています。
【表6】
出典:令和6年11月13日 財政制度分科会 社会保障(財務省)資料P100より引用
まとめ
今回、令和6年11月13日に開催された財政制度分科会で「社会保障」における「介護」ついて議論された内容を取上げました。特に、今後の介護保険制度・介護報酬改定に影響があり、かつ介護事業者に影響が大きい部分について資料を交え、個別項目の確認を行いました。
これらの個別項目は、今回の改定で先送りとなった事項が含まれており、今後「介護保険の給付の適正化」の趣旨から確実に実行されていくものと思われます。事業者としては、これらの内容をしっかりと把握し、今後の事業運営に活かしていくことが必要です。
介護保険制度としての構成は、「保険料(税金)と公費」により成り立っています。今後、介護保険給付を受ける人が増加していくことは明確であることからも、「介護保険の給付の適正化」が強化されていくことになります。
このテーマにつきましては、引き続き情報収集を行って参りますので、引き続き、ご覧頂けますと幸いです。
最後まで、ブログをお読みいただき、誠にありがとうございました。