人の行動の自由を奪う身体的拘束等が行われた場合、刑法第220条の逮捕及び監禁の罪や状況によっては刑法第208条の暴行等に該当する可能性があります。
介護保険制度では、サービス種別に応じたそれぞれの運営基準により、対象事業について「サービスの提供にあたっては、当該利用者や入居者(以下「利用者等」という)の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等その他利用者等の行動を制限する行為を行ってはならない」と規定されています。
そう言った意味でも、運営指導において、この身体的拘束等の取り扱いについて事業所や施設として、適切な要件や手続きにより実施されているか、厳密に確認されるのです。
今回のブログでは、これらの要件や手続きについて説明したいと思います。
身体的拘束等を行う場合の要件規定のあるサービス種別について
身体的拘束等をどのサービス種別でも実施できる訳ではありません。
あくまでも「例外的」に身体拘束等を行うことができる場合の要件の規定があるのは以下のサービス種別です。
つまり、これらのサービス種別以外のサービスについては、身体的拘束等を行うことが想定されていないということなのです。
【例外的に身体拘束等を行う場合の要件の規定があるサービス種別】
- (介護予防)短期入所生活介護
- (介護予防)短期入所療養介護
- (介護予防)特定施設入居者生活介護
- 介護老人福祉施設
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- (介護予防)小規模多機能型居宅介護
- (介護予防)認知症対応型共同生活介護
- 介護小規模多機能型居宅介護
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
- 介護医療院
例外的に身体拘束的拘束等を行うことが必要な要件と手続きとは
身体的拘束等は、利用者等にとって身体的、精神的、社会的弊害をもたらし、利用者等の自立を阻害することになるのです。
これは、例外的に身体的拘束等を行う場合であったとしても、身体的拘束等を行うにあたり、その弊害が無くなるわけではないのです。
このことからも身体的拘束等は「原則禁止」ですが、前述のサービス種別については、例外的に身体拘束等を行うことが認められており、以下【表1】の3つの要件に全て該当することが必要です。
①例外的に身体拘束的拘束等を行うことが必要な要件
【表1】
身体拘束の要件 | 具体的内容 |
切迫性 | 利用者本人又は他の利用者の生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと |
非代替性 | 身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する介護方法がないこと |
一時性 | 身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること |
実際に身体的拘束等が行われている場合、管理者等より、この3つの要件を全て満たしているのか、また状況説明を行うとともに、身体拘束等に関する記録の提示が必要となります。
②例外的に身体拘束的拘束等を行うことが必要な手続き
- 身体的拘束等に関して、その態様及び時間、その際の利用者等の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録すること。
- 身体的拘束等に関して、その態様及び時間、その際の利用者等の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録(2年間保存)していること。
身体的拘束に必要な措置と身体的拘束未実施減算について
前述のとおり、身体的拘束等を行うにあたり必要な手続きとして記録しなければなりません。
また、身体的拘束等に必要な要件や手続きを満たしていたとしても、以下の身体的拘束等の適正化を図るための以下【表2】の措置を講じていなければ、「身体的拘束未実施減算」を適用することとなるのです。
【表2】
身体的拘束等の適正化を図るための措置 (身体的拘束等の実施の有無に関わらず全ての措置を講じていること) |
身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他の従業者に周知徹底を図ること |
身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること |
介護職員その他の従業者に身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること |
なお、この「身体的拘束等の適正化を図るための措置」については、身体的拘束等の実施の有無に関わらず全ての措置を講じていることが必須です。
また、以下の「身体拘束未実施減算の対象施設」と「例外的に身体拘束等を行う場合の要件の規定があるサービス種別」とは異なっているので注意が必要です。
【身体拘束廃止未実施減算の対象施設等】
- (介護予防)特定施設入居者生活介護
- 介護老人福祉施設
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- (介護予防)認知症対応型共同生活介護
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
- 介護医療院
身体的拘束未実施減算を適用する際の具体的な手続きについて
身体拘束廃止未実施減算の対象施設等に対する運営指導において、身体拘束等の実施の有無に関わらず(身体的拘束を実施している場合は、前述の2.②の記録が必要)、3.【表2】の措置が講じられていない場合には「身体的拘束未実施減算」を適用します。
具体的な手続きは以下のとおりです。
- 上記、記録がなされていない、または措置が講じられていない場合、「その事実を運営指導において発見した場合、その日が属する月を「事実が生じた月」とする。
- 速やかに「改善計画」を市町村長に提出するとともに、「事実が生じた月」かた3月後に改善計画に基づく「結果報告」を提出する。
- 「事実が生じた月」の翌月から、「改善計画」に基づく「結果報告」の提出により、改善が認められた月までの間について、利用者等全員について所定単位数から100分の10に相当する単位数を減算する。
- 市町村は、「事実が生じた月」から3月後に、「改善報告」に基づく改善状況を確認する。
- 上記により、改善が認められた場合には、改善が認められた日の属する月を「改善が認められた月」として、同月まで身体的拘束廃止未実施減算を行う。
つまり、事業者側から市町村に対し「改善報告」の提出が無い場合や、改善状況が不十分であると判断された場合には、改善が認められないものとして、引き続き改善が認められるまで身体拘束廃止未実施減算が継続されることとなってしまいます。