介護報酬における加算について考える

介護保険制度

私も高齢者施設運営事業や介護保険事業に関わるようになってから、早いもので17年となります。

介護保険制度は、当然制度事業ですので行政機関に必要な届出を行い、そのうえで事業所を開設、事業を開始することになります。介護事業は前述のとおり制度事業であることからも、その事業所の収益の対価たる介護報酬を意識することは当然でしょう。

 介護報酬を大きく分類すると「基本報酬部分」と「加算部分」に分けることができます。今回は、この「加算部分」について着目し、介護報酬全体との関わりについても語ってみたいと思います。

介護報酬における「加算」とは

以前より、私は基本報酬に一定の要件のもとで算定することができる「加算部分」について、非常に興味を持ちながら、現在までその動向を見てきました。

 そもそも「加算」という言葉自体に着目すると、「(加)えて基本報酬に(算)定」という言葉から派生しています。これは行政サイドが「ある一定の目的を達成するために政策誘導を行う場合に加算を設定する」場合に、基本報酬に加えて加算が設定される場合が多いのです。

一般的に言えば、基本報酬に、一定の条件のもと、加えて算定することができるわけですから、加算を算定することは事業所にとって収入が増加することに繋がるはずです。よって、事業所も介護保険制度における加算の動向を注視することになるはずなのです。

加算は何でも算定すれば良いのか

 では、基本報酬に加えて加算を算定することは、事業所にとって介護報酬が増えることなのだから、「何でもかんでも算定して介護報酬を増やす」ということが最善策と言えるのでしょうか。

 それは違います。そもそも何も条件もなく加算を算定することができるはずがありません。それでは加算を設定している意味がありません。

前項でも述べましたが、そもそも基本報酬に対して加算を設定することは、行政サイドは「政策誘導」の意味合いがあるのです。この「政策誘導」とは、行政サイドがある目的(政策)を達成するために、基本報酬に加えて加算を設定(誘導)することです。よって、加算を算定するためには必ず加算を算定するための「算定要件」が存在するはずです。

 事業所として、この算定要件を満たしたうえで、介護サービスを利用者に対し提供した場合に、初めて当該加算を算定することができるのです。

 そうであるのであれば、事業所として加算を算定するにあたり、以下の①~⑥の事項をしっかりと検討しなければなりません。

①加算の算定要件をクリアすることができるのか。
②加算によって得る介護報酬の利益と算定要件をクリアするための費用の比較検討。
③加算算定より増収効果が見込める加算なのか。
④加算を算定するための運営体制の安定度、記録を適切に残せるか。
⑤利用者の自己負担金額の増加による顧客への説明、同意。
⑥行政機関への届出。

 上記の要件を、しっかりと検討したうえで初めて加算を算定すべきであり、「何でもかんでも加算を算定する」ことは、事業所にとって介護報酬の増収とはならず、返って事業所としての利益を減少させ、最悪の事態としては事業所をコンプライアンスのリスクに晒すこととなってしまうのです。

加算算定のデメリット

 加算を算定するということは、事業所にとって介護報酬増収の効果があることから利点もあります。では加算算定におけるデメリットは存在しないのでしょうか。

 前項でも一部デメリットを言及していますが、加算算定にあたり以下の①~⑥のデメリットも生じますので、加算算定にあたっては事業所として充分な検討が必要です。

①算定要件をクリアするために費用負担が必要。
②加算を算定するにあたり事業所に記録を残す体制の整備。
③加算算定における顧客への説明、同意。
④行政機関への届出。
⑤運営指導において加算の算定状況を厳しくチェックされる。
⑥利用者の自己負担金額増による顧客減少。

 私が感じている加算を算定するうえでの最大のデメリットは、⑤の「運営指導において加算の算定状況を厳しくチェックされる」ということであると思います。

 加算は、「(加)えて基本報酬に(算)定」するという言葉のとおり、そもそも事業所として行政機関に届出した指定基準(人員基準・設備基準・運営基準)を満たしていることは当然として、そのうえで加算を算定しているわけですから、運営指導において厳しくチェックされるのは当然なのです。

政策誘導という加算を重ねた弊害

 次に政策誘導の観点から、介護報酬に加算してきた弊害について私の見解の述べたいと思います。

この加算というものは、永久に存在するものではなく、政策誘導目的を成し遂げた時に、その役割を終え、介護報酬の基本報酬に組み込まれていくことが一般的です(例えば、令和3年度介護報酬改定における「リハビリテーションマネジメント加算 Ⅰ」などが該当します)。

 このように政策誘導の目的を成し遂げることができた加算については、目的を達したことにより、基本に組み込まれるので良いのではという議論もある。しかし、この加算についてはこのような形となることは「非常にまれ」であり、その殆どは目的を成し遂げることができない状況にある。

 これは、どういうことかと言えば、介護保険が始まって以来、政策誘導という言葉のもと、様々な加算が増え続けているという状況にあるのだ。

 では、ここでは以下のとおり、同じ介護サービス類型において「介護報酬の加算の数」、「サービスコードの数」を、具体例を挙げながら「平成12年時点」と「令和2年時点」を示してみます。

【加算種類の変化】

★訪問介護
(H12)3種類 →(R2)20種類

★介護老人福祉施設
(H12)8種類 →(R2)54種類

【サービスコードの数】

★居宅サービス
(H12)1,176 →(R2)11,658

★施設系
(H12)571 →(R2)7,800

◎サービスコードの全ての合計
(H12)1,745 →(R2)24,905

※「介護報酬改定資料から読む介護事業の方向性」(日本橋出版)より抜粋

上記のとおり、同じ介護サービス類型において比較すると、約20年間で、加算の種類の増加数もすごいが、このサービスコードの全ての合計の増加数を見て欲しいのです。

 その数、なんと20年間で「+23,160」も増えているのです。

行政サイドも、政策誘導とは言え、これだけの数の加算やサービスコードについて、どのように感じているのでしょうか。また、行政サイド、特に運営指導を行う行政機関の担当者は、これらの加算や算定要件等について、その趣旨を理解し、運営指導に当たっているのでしょうか。

もっと、言いますが「そもそも本当に必要な加算なのでしょうか」。

加算の今後

 介護保険制度が始まって以来、介護報酬において、様々の加算が設定されており、その数が膨大な数となっていることはご理解されたかと思います。

 今後の政策誘導の名のもと介護報酬における加算は増加していくものと思います。反面、加算の目的を達成した以外にも、以下の条件に該当した場合については、その個別の加算の在り方自体について、行政サイドは検討していくことが必要でしょう。

 ①「加算が算定されていない」、もしくは「ほとんど加算が算定されていない」加算。

 ②加算の算定要件が厳しすぎる加算(要件の変更が必要)。

 ③政策誘導の趣旨に合致しない加算。

まとめ

 今回は、介護報酬における加算についてブログを書いてみました。これだけ正面から介護報酬における加算を切り口にしたブログはあまり無かったのではないでしょうか。

 私は、ブログの中でも申し上げましたが、事業所として「介護報酬の増収を図ることのみに着目し、ただ加算を算定することはあまり良い結果を生まない」のだと思います。

 あくまでも加算を算定するうえで判断の大前提は、「事業所として当該加算を算定するという政策誘導を含めた趣旨を理解し、その目的を事業所として達成する」という意思が必要だと思います。

 そのうえで、事業者としては、加算の算定要件や加算による介護報酬の内容を検討していくことこそが本筋なのだと、私は思います。

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