高齢者虐待を疑われると監査になる確率が高い?高齢者虐待の定義についても解説

運営指導、監査、立入検査

よく事業者の方々から「監査になる確率が高い要因は何でしょうか」と尋ねられる場合があります。
そのような場合、私は迷わずに「施設内や事業所において高齢者虐待を疑われるような事象が生じているとき」と回答します。

事業者の方からは「そのようなことは分かっている」というような表情を向けられることもありますが、反面、日頃の忙しい介護サービス提供の中で、当然のことが当然のようにできていないことは多いのです。

今回は、監査となる確率が圧倒的に高い高齢者虐待を捉えてブログを書きたいと思います。

高齢者虐待を疑われてしまうような事象

運営指導において、介護サービスの実施状況指導については、介護サービスの質の確認、つまり実際の介護サービスが法令等に基づいて適正に行われ、利用者や入居者(以下「利用者等」という)の尊厳が守られたサービスが行われているかの確認を行います。

また、実際に事業所や施設において、利用者等の生活実態について確認されることとなりますが、利用者等の尊厳が守られているか、つまり利用者等の人権が侵害されていないか、虐待や身体拘束等が疑われる事案がないかということが確認されることとなります。

ここでは、運営指導において虐待が疑われてしまう可能性がある利用者等の状況で主な事項を以下【表1】に示します。

【表1】

状況 具体例
身体的状況
  • 四肢をヒモ等で縛られていないか。
  • 身体や衣類から異臭がしないか。
態度の状況
  • 従業者の姿を見て、怯えたり怖がったりしていないか。
  • 無力感、諦めといった様子がないか。
服装の状況
  • つなぎ服等を着せられていないか。
  • ミトンを着用させられていないか。
  • 服装が汚れたり、乱れたりしていないか。
移動の状況
  • 椅子や車いすにヒモ等で体幹等を縛られていないか。
  • 椅子や車いすから立ち上がれないようテーブル等に固定されていないか。
ベッド周辺の状況
  • ベッドに体幹等をヒモ等で縛られていないか。
  • ベッドが四方柵で囲まれていないか。
  • 利用者等が日中もベッド上で過ごさせられていないか。
  • ナースコールが使えないようになっていないか。
食事の状況
  • 主食と副食を混ぜて食事提供を行っていないか。
  • 機械的な食事介助を行っていないか。
居室内の状況
  • 入口を日中施錠されていないか。
  • 居室等に隔離されていないか。
  • 居室外側に鍵やストッパー等が設置されていないか。
従業員の状況
  • 利用者等に冷淡な態度や無関心でないか。
  • 利用者等に乱暴な言葉遣いをしていないか。
  • 利用者等に命令口調、訴えを否定していないか。

高齢者虐待の定義

「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「高齢者虐待防止法」という)では、高齢者の養護者、養介護施設従事者等による虐待の防止について規定されています。
また、介護保険法等において高齢者虐待は、人格尊重義務違反に該当し、状況によっては指定取消等の行政処分を受ける可能性があります。
このような場合、行政機関は基本的に監査を実施、事実確認を行ったうえで行政処分の必要性の可否を判断することとなります。

要介護施設従事者による高齢者虐待の定義は以下【表2】のとおりとなります。

【表2】

虐待の状況 具体例
身体的虐待 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じる恐れがある暴行を加えること。
介護・世話の放棄・放任 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
心理的虐待 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
性的虐待 高齢者に猥褻な行為をすること又は高齢者をして猥褻な行為をさせること。
経済的虐待 高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。

どのような形で監査となる場合が多いのか

前述のとおり、高齢者虐待を疑われてしまうような事象や定義を述べました。

多くの事業所や施設では、このあたりを理解して運営を行っていると思いますが、この高齢者虐待に関係する通報により、実際に監査となり、私自身が経験した具体的な事例を以下【表3】として示したいと思います。

【表3】

具体例 通報者
身体拘束が適切に行われていない。 職員(在職中)
食事の提供内容に不満である。 入居者(入居中)
入居者に対し暴力を加えている。 家族(退去済)
認知症の入居者に他害行為を加えている。 職員(退職予定)
入居者の金銭を不適切に管理している。 職員(退職者)

これは高齢者虐待に関係する通報により監査となった具体例の一部ですが、やはり行政機関に対し何らかの「通報者」があり、その実態を把握するために行政機関は監査を実施している事例が多いことが分かります。

どうして高齢者虐待を疑われると監査となるのか

高齢者虐待を疑われると監査となる確率が高くなるのは当然です。人間が生活していくうえで尊厳を保持する非常に重要だからです。
そのうえで高齢者に対する虐待を防止することは極めて重要であり、高齢者の権利利益の養護に資する目的からも高齢者虐待防止法が制定されています。

また、高齢者虐待防止法の制度趣旨を踏まえ、以下のとおり老人福祉施設指導監査指針並びに介護保険施設等監査指針にも、高齢者虐待の疑いがある場合について、行政機関が監査により事実確認を行うことが定められています。

【高齢者虐待の防止法】

市町村長は、養護者による高齢者虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、~(省略)~高齢者の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該高齢者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる。

【老人福祉施設指導監査指針】

  • 特別監査

特別監査は、次のいずれかに該当する場合に行うものとする。
高齢者虐待の疑いが また、当該監査において問題点等を発見した場合には、原則によらず必要の都度、一般監査を行うこととする。

【介護保険施設等監査指針】

  • 監査対象となる介護保険施設等の選定基準

市町村が、高齢者虐待防止法に基づき虐待を認定した場合又は高齢者虐待等により利用者等の生命又は身体の安全に危害を及ぼしている疑いがあると認められる情報

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