特養の指導監査と介護保険施設等に対する監査について

運営指導、監査、立入検査

以前より介護保険施設等において運営指導(旧「実地指導」)が行われると、事業所の職員が「監査が来ました」と言う職員がおり、その都度「運営指導は監査ではなく、あくまでも行政機関による個別指導です」と伝えるようにしていました。

しかし、その発言をしていた職員は以前、特別養護老人ホーム(以下「特養」という)に勤務していたのです。
この特養の長に対して実施される行政機関(都道府県等)による検査は、指導監査と呼ばれ「一般監査」と「特別監査」が存在するのです。

そう言った意味では、この職員が言っていることは現時点で勤務している施設での用語の使い方は間違っているとも言えるのですが、これらに関わる法律や用語の使い方で分かりにくい面があるのも事実です。

よって、今回は、このような用語の使い方や分かりにくさが、なぜ起こっているのかを説明します。

特養の指導監査とは何か

特養の指導監査の目的は、養護老人ホーム又は特別養護老人ホーム(以下「老人福祉施設」という)の長に対し、適正な施設運営を図ることであり、行政機関(都道府県等)が実施する検査です。
この指導監査は「老人福祉施設指導監査指針」に基づき実施され、「一般監査」と「特別監査」が存在し、施設関係者より関係書類等を基に行政機関が説明を求め、面談方式で行われる検査です。

【老人福祉法】

  • 老人福祉法第18条第2項

都道府県知事は、前条第1項の基準(施設の基準)を維持するため、養護老人ホーム又は特別養護老人ホームの長に対して、必要と認める事項の報告を求め、又は当該職員に、関係者に対して質問させ、若しくはその施設に立ち入り、設備、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。

【老人福祉施設指導監査指針】

  • 一般監査 

一般監査は、原則として3年に1回は、実地に全対象老人福祉施設に対し、別紙「確認項目及び確認文書」に基づき行うこととする。
ただし、施設の人員、設備及び運営に関して疑義が生じ詳細を確認する必要があると認めるときは、この限りではない。

  • 特別監査 

特別監査は、次のいずれかに該当する場合に行うものとする。

  1. 施設運営に不正又は著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
  2. 最低基準違反があると疑うに足りる理由があるとき
  3. 高齢者虐待の疑いが また、当該監査において問題点等を発見した場合には、原則によらず必要の都度、一般監査を行うこととする。
  4. 一般監査によっても是正の改善がみられないとき
  5. 正当な理由がなく、一般監査を拒否したとき

介護保険施設等に対する監査とは何か

介護保険施設等に対する監査とは、介護保険施設等監査指針に基づき施設等において以下の事例等に違反や恐れがある場合、介護保険法第76条に基づき、報告、帳簿書類等の物件の提示を求め、関係者の出頭、質問を行うことにより情報を収集するとともに、現地に立ち入って検査を行い、事実確認を確認する行為です。

そしてこの監査が行政機関によって行われた場合、監査による事実確認の内容の把握、検討が行われ、その結果により行政機関より事業者に対し、行政処分が下される場合があります。

【介護保険法】

  • 介護保険法第76条第1項

都道府県知事又は市町村長は、居宅介護サービス費の支給に関して必要があると認めるときは、指定居宅サービス事業者若しくは指定居宅サービス事業者であった者等に対し、報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、指定居宅サービス事業者若しくは当該指定に係る事業所の従業者若しくは指定居宅サービス事業者であった者等に対し出頭を求め、又は当該職員に関係者に対して質問させ、若しくは当該指定居宅サービス事業者の当該指定に係る事業所、事務所その他指定居宅サービス事業者の事業に関係のある場所に立入り、その設備若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる

【介護保険施設等監査指針】

  • 監査対象となる介護保険施設等の選定基準

監査は、下記に示す情報を踏まえて、指定基準違反等又は人格尊重義務違反等の確認について必要があると認める場合に立入検査等により行う

  1. 通報・苦情・相談等に基づく情報
  2. 市町村が高齢者虐待法に基づき虐待を認定した場合又は高齢者虐待等により利用者等の生命又は身体の安全に危害を及ぼしているとの情報
  3. 国民健康保険団体連合会、地域包括支援センターへ寄せられる苦情
  4. 国民健康保険団体連合会、保険者からの通報情報
  5. 介護給付費適正化システムの分析から特異傾向を示す介護保険施設等
  6. 介護サービス事業者が介護サービス情報の報告を拒否等に関する情報

介護保険施設等に対する監査は特養の指導監査に該当する部分はあるのか

この議論の前提として介護保険施設等に対する監査は介護保険法を根拠として、そして特養の指導監査は老人福祉法や老人福祉施設指導監査指針を根拠としていることからも、完全に一致することは無いものと思われます。

また、老人福祉施設指導監査指針における一般監査の内容を見ると、言葉としては「監査」という用語を用いているものの、その監査の性質は指導、つまり介護保険法及び介護保険施設等指導指針における介護保険施設に対する運営指導の趣旨と非常に近いものと思われるのです。

こうしたことから、前述の議論内容を基に上記を、次のような【表1】としての位置づけで、概ね分類できると考えられます。

【表1】

指導的意味合い 監査的意味合い
特別養護老人ホーム等
(老人福祉法、老人福祉施設指導監査指針)
一般監査 特別監査
介護保険施設等
(介護保険法、介護保険施設等指導指針)
運営指導 監査

同じ「監査」という言葉であるのに、なぜ分かりにくい状況となっているのか(考察)

前項でも述べましたが、そもそも介護保険施設等と特養等に対する監査は根拠法や根拠となる指針が異なるのであるから、完全に一致することは無いでしょう。
とするならば、制度趣旨が異なるのであるから両者の相関関係を追い求めることは意味が無いものとも思えます。

しかし、以下の内容が「老人福祉施設指導監査指針」には容認事項として記載されているのです。

【老人福祉施設指導監査指針】

  • 一般監査 ※抜粋

~(前略)~

なお、介護保険法に基づく指定介護老人福祉施設又は指定地域密着型介護老人福祉施設である特別養護老人ホーム、指定特定施設入居者生活介護事業所又は指定地域密着型特定施設入居者生活介護事業所である養護老人ホームに対する一般監査は、介護保険施設等指導指針に基づく指導と併せて行うことができる

これは以下の施設について、老人福祉施設指導監査指針における「一般監査」は、介護保険施設等指導指針における「指導(つまり「運営指導」のこと」と併せて行うことができると記載されているのです。

【施設の分類】

  • 指定介護老人福祉施設
  • 指定地域密着型介護老人福祉施設
  • 指定特定施設入居者生活介護事業所
  • 指定地域密着型特定施設入居者生活介護事業所

上記の例で言えば、指定介護老人福祉施設(特養)については、老人福祉施設指導監査指針の「一般監査」と、介護保険施設等指導指針における「運営指導」を併せて行うことができるということなのです。

このような取扱いが容認されているとすると、根拠規定の違いや用語の使い方の違いから、「監査」という意味の採り方が分かりにくい状況となっている、ひとつの理由なのだと私は思います。

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