介護施設の運営指導と監査は何が違うのか

運営指導、監査、立入検査

介護保険制度において、各介護保険制度に関わる事業者は、利用者の尊厳を守り、かつ質の高いサービスを求められています。

また、国、都道府県及び市町村等(以下、行政機関という)は、指導により介護施設等が適正なサービスを行うことができるよう支援し、介護給付等対象サービスの取扱い及び介護報酬の請求に関する周知徹底を図り、サービスの質の確保や保険給付の適正化が果たされるように努めなければなりません。

介護保険制度において、行政指導と監査の権限が法律により明確に分けられていることや、社会福祉法人制度等とは異なり、行政機関に介護保険施設等の運営法人自体の許認可権限を有してはいないのです。

つまり、介護保険施設等の運営法人が介護サービスを行い、介護報酬を請求できるという「指定」をしているに過ぎないのです。

このことから行政機関は、当該事業者に課された責任を果たしているのかを確認する仕組みのとして実施される制度として用意されているものが以下の運営指導や監査ということとなります。

では、早速、運営指導や実地指導、そして監査とは何かを、まず確認しましょう

介護施設の運営指導と監査の違い

運営指導は、都道府県又は市町村が主体となり、都道府県又は市町村がその指定、許可の権限を持つ全ての介護保険施設等を対象に、計画的、かつ個別に原則実地により行われます。

この運営指導は原則、介護保険施設等の関係者から関係書類等により説明を求めながら面談形式で行われます。

つまり、運営指導は介護保険法第23条又は第24条に基づく権限により、行政機関が情報収集するため介護保険施設等から提出された関係資料等に基づき、当該施設等の事業の運営状況や法令等への適合状況について説明を受け、内容確認を行うものです。

監査とは、介護保険施設等監査指針に基づき、介護保険施設等において、主に以下のような問題点が生じている恐れがある場合、介護保険法第76条等に基づき、報告、帳簿書類等の物件の提示を求め、関係者の出頭、質問を行うことにより情報収集するとともに、現地に立入り検査を行い、事実関係を確認する行為です。

  • 人員基準違反
  • 運営基準違反
  • 不正請求
  • 高齢者虐待等

これは前述の介護保険法第76条等基づき行われた情報収集のみでは、法令や基準等への適合状況を確認したとは言えないため、具体的問題点を指摘して改善を求める勧告又は行政処分を行うためには、行政機関が行う検査による事実関係が必要となるのです。

つまり、この「行政機関による勧告や行政処分を行うことを前提とした事実確認の一連の手続き」こそ、監査と言われる手続きです。

運営指導と実地指導

事業者側として、この運営指導とは、以前より行政機関によって執り行われていた実施指導であり、その呼び名が変わったとして考えていただいて問題ありません。

呼び名が変わった以外で言うのであれば、この行政機関による指導方法の一部が事業所に赴く実地によることなく、オンラインによることができるようになった点です。

よって、その指導の内容は実質的に変化が無いことを覚えておきましょう。

(1)実地指導から運営指導と名称が変更となった理由と根拠

この運営指導は前述のとおり、令和4年2月以前まで実地指導と呼ばれる行政指導でした。
しかし、令和4年3月に厚生労働省老健局総務課介護保険指導室より「介護保険施設等運営指導マニュアル」が発出され、この際に前述のとおり行政指導の名称が変更となりました。

この名称の変更理由は、行政機関による行政指導の方法を一部変更することが可能であるという余地が生まれたことが影響しています。
そもそも実地指導も運営指導においても、行政機関が指導する指導項目は以下3項目となります。

  • 介護サービスの実施状況指導
  • 最低基準等運営体制指導
  • 報酬請求指導

介護保険施設等運営指導マニュアルが発出される以前は、上記3項目についての指導が「事業所の現地」にて行政機関が実地にて指導を行うことを実地指導と言いました。

ところが、当該運営指導マニュアルにおいても、上記3項目のうち「最低基準等運営体制指導」と「報酬請求指導」については、オンラインでの実施がすることが可能と明記されており、全ての運営指導を事業所で実地にて行うことが可能ということになったことから、その名称が運営指導という名称に変更となったのです。

なお、「介護サービスの実施状況指導」については、行政機関が事業所に実際に赴き実地で確認することに変更はありません。

(2)運営指導には集団指導と運営指導の2つの指導がある

この行政機関による運営の指導には、集団指導と運営指導があります。これらの指導の位置付けは行政手続法第32条に基づく行政指導であり行政機関が一定の行政目的を
実現するために、その任務又は所掌事務の範囲内において一定の作為又は不作為を求める行為です。

ずいぶんと難しい言い方ですが、簡単に言うと運営指導は相手側(事業所側)の協力によって行われるものであり、この運営指導自体には決して強制力があるものではないということなのです。

このことは、手続法第32条第2項の規定によっても定められており、この運営指導(行政指導)に従うか否かは相手側(事業所側)の自由であって、相手側(事業所側)の判断の任意性を損なわせてはならないのです。

また、この運営指導(行政指導)に従わなかったことのみをもって、相手側(事業者側)に対し、行政機関は不利益な取扱いを行ってはならないのです。

①集団指導

集団指導については、事業所が所在する地方公共団体において概ね年1回程度行われる集合研修ということになります。

この集合研修については、あらかじめ(概ね2カ月前程度)各事業所宛てに当該研修を開催する旨、文書での通知がなされます。

また、昨今ではオンラインによる動画配信による集団指導を実施している地方公共団体も存在します。

集団指導の主な目的は、介護保険制度の仕組みや考え方を中心に、介護保険制度の改正、人員・施設設備・運営基準の改正、報酬基準の改定については誤った基準の解釈により不適切なサービスや介護報酬の不正請求を起こさないよう、その重要性や間違えやすいポイントを周知するものです。

②運営指導

運営指導については、介護施設等ごとに運営体制や介護報酬請求の実績状況等を、原則現地で確認するものです。
この運営指導は原則、あらかじめ(概ね1カ月前程度)各事業所宛てに文書にて通知することとなっています。

また、この運営指導は、各事業所指定の有効期間である6年に少なくとも1回以上実施されることが原則です。
ただし、特に事業所が開設してから1年を経過する時点で運営指導を行っている地方公共団体も存在します。

その理由は、新規開設した事業所では、介護保険関係書類の作成が遅延したり、適切に介護報酬に関する業務が行えていない場合などがあり、早期の段階で行政機関が指導することにより、適切な事業所運営に寄与するということがひとつの理由です。

よってこの早期の運営指導は、運営指導の中でも新規事業所に対する個別指導としての意味合いがより強いものと考えられます。

監査とは不正が疑われる場合に行われる措置

私は、高齢者福祉や介護保険業界に約17年間業務経験があり、様々な立入検査や運営指導を約300件以上経験してきました。
その上で、事業所のスタッフと話をしていると「地方公共団体からの監査がある」と耳にすることがあるのです。

しかし、よくよく私が話を聞くと、そのほとんどが監査ではなく運営指導である場合が多いのが実情です。
では実際に監査とは、どのようなものなのでしょうか。

(1)監査の根拠と役割

監査とは、介護保険施設等監査指針に基づき介護保険施設等において以下の事項等に違反や恐れがある場合、介護保険法第76条に基づき、報告、帳簿書類等の物件の提示を求め、関係者の出頭、質問を行うことにより情報を収集するとともに、現地に立ち入って検査を行い、事実確認を確認する行為です。

検査とは、現状を何らかの基準に照らしてその適合状況を確認する行為であり、その主体は行政機関となります。
つまり、法第76条に基づく報告、物件提示、関係者の出頭、質問により、相手方に示される情報を収集するだけでは、法令や基準等への適合状況を確認したとは言えないため、具体的な問題点を指摘して改善を求める「勧告」又は「行政処分」を行うためには、行政機関が行う「検査」による事実関係の確認が必要となります。

具体的には、人員・運営基準違反や介護報酬請求における不正請求行為、高齢者虐待等の人格尊重義務違反等を想定し、行政機関により検査を行い、事実関係を確認するものです。

行政機関が、自主的な改善を促す勧告(行政指導)であっても、また指定取消等の行政処分(不利益処分)を行う場合であっても、不正等の事実にかかる「証拠保全の観点」から、法76条等に規定する立入検査の権限を行使し、当該事実関係を行い、その事実の内容を確定させることが必要なのです。

つまり、行政機関が主体となる検査を介護保険施設等に立入ることにより監査を行い、そこで初めて事実が確定することができるのです。

(2)監査を行う理由は不正の事実確認をするためだけではない

行政機関により事業所に対して監査が行われるには様々な理由があります。

例えば、運営指導の過程において運営指導を中止のうえ、監査に切り替わる場合や、外部からの行政機関への通報などである場合もあります。

行政機関が事業者に対して把握した内容が「法令違反や不正等あることが明らかである場合、もしくは疑いが生じた場合」に、その事実を把握するために行政機関は、それが事実であるか確認する必要があるため監査を実施することが必要となります。

(3)監査が行われる事実確認の例

前項でも述べたが、行政機関が把握した内容について「法令違反や不正等あることが明らかである場合、もしくは疑いが生じた場合」として、簡単にいうと事業者のことを疑っているわけです。
そのため行政機関は「その事実を把握し、確認を行うため」に監査を実施するのです。

ここで行政機関が事実を把握し確認する内容についての具体例を挙げてみたい。
たとえば、介護報酬基準等の単なる解釈の誤りではなく、架空請求であったり、請求する根拠がない請求があるような、いわゆる「介護報酬請求に不正」があるような場合です。

上記の例の論点を挙げるなら、監査における行政機関による事実確認において、単なる解釈の誤りとは言えず、これを事業者側が進んで不正請求に加担しているような外観上の証拠があるのであれば、この監査を受けて行政処分(不利益行為)を受けてしまう可能性は非常に高いものとなるでしょう。

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