【税理士が解説】有料老人ホーム等での医療費控除の対応を適切に行っていますか

介護保険制度

私が有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(以下、「有料老人ホーム等」という)の施設長をしていた時、確定申告の時期になると必ず入居者やご家族様から問合せがありました。

その内容は、「病院などの医療費について確定申告で医療費控除の適用対象になるのは分かるのですが、介護保険については医療控除の適用対象にならないのですか?」という質問です。

施設長はじめ、施設運営に関わっている皆さんは、この入居者やご家族様からの質問に対して、しっかりと対応できたでしょうか?

今回のブログでは、税理士であり、かつ施設長であった私が、そのような場合、どのような回答をしていたのかをお伝えします。

なお、今回は厳密さより「分かりやすさを優先」しましたので厳密さが欠ける側面がありますので、詳細につきましては確定申告資料をご確認ください。

有料老人ホーム等ではどのような項目が医療費控除の適用対象となり得るのか

 まず、有料老人ホーム等では、有料老人ホームを運営する事業者をはじめ、居宅サービス事業者、クリニック、調剤薬局等により、様々なサービスが提供されている事実があります。

 ここでは、説明のためモデルとして「住宅型有料老人ホームで訪問介護事業所が併設されているモデル」を想定し、医療費控除の適用対象となり得る、主なサービスの一部分を抜粋します。

 

 【住宅型有料老人ホームに訪問介護事業所が併設されている場合】

 ①医療保険:医療系サービスに該当するもの

例 病院での治療、歯科の治療、訪問診療、訪問歯科診療、訪問看護等

 ②介護保険:居宅療養管理指導

  例 クリニック、歯科、調剤薬局等

 ③訪問介護(身体介護)※訪問診療を受けている場合

 ④介護福祉士等の喀痰吸引等の対価 ※自己負担額の10%

介護付き有料老人ホームの場合の医療費控除の取扱いはどうなるのか

 前項では、有料老人ホーム等と言っても、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅において、医療保険による医療系サービスや介護保険による訪問介護(居宅サービスを)利用した場合を想定して医療費控除の適用対象を述べてみました。

 この項目では、有料老人ホームのうち「介護付き有料老人ホーム」の場合の医療費控除の取扱いを見てみましょう。

 介護付き有料老人ホームでは、こうしたサービス体制による介護サービスの提供、並びに介護報酬体系より、医療費控除の適用対象となり得る主なサービスの一部分を抜粋すると、以下のとおりとなります。

 【介護付き有料老人ホームの場合】

 ①医療保険:医療系サービスに該当するもの

例 病院での治療、歯科の治療、訪問診療、訪問歯科診療、訪問看護等

 ②介護保険:居宅療養管理指導

  例 クリニック、歯科、調剤薬局等

 ③介護福祉士等の喀痰吸引等の対価 ※自己負担額の10%

 前項と比較すると分かりますが、介護付き有料老人ホームの場合、介護サービス(特定施設入居者生活介護)に医療費控除の適用が無いのです。

 では、なぜ医療費控除において、このような取扱いとなっているのでしょうか。次項では、住宅型有料老人ホームと介護付き有料老人ホームの医療費控除の考え方での違いについて、介護サービスの提供形態の視点から見てみたいと思います。

医療費控除適用の差異(住宅型有料老人ホームと介護付き有料老人ホームの比較)

 前項では、介護付き有料老人ホームの医療費控除の適用対象となり得るサービスの一部を抜粋してみました。

本項では、住宅型有料老人ホームと介護付き有料老人ホームの医療費控除の適用対象となり得るサービスで、その「差異」に着目して話を進めたいと思います。

すでにお気づきの方々もいらっしゃると思いますが、一番の大きな違いには「介護サービス部分」について医療費控除の適用対象となるか否かということに尽きます。

なぜ、このような差異が生じているのか。その要因を調べるために医療費控除の内容を詳細に見ても分からないと思います。この差異の要因について、実は税理士が考えるより介護事業に関わる方々の方が、その要因を把握しやすいのではないかと思います。

その要因を把握するにあたり、まず介護付き有料老人ホームでの介護サービス提供のあり方を確認してみましょう。

介護付き有料老人ホームでは、入居者に対する介護サービスは「特定施設入居者生活介護」により提供されます。この介護サービスは施設に所属する直接処遇職員より身体介助や生活援助が一体的にサービス提供行われ、かつ介護報酬も包括的な報酬形態となっています。

 次に、住宅型有料老人ホームで訪問介護事業所が併設されている場合、介護サービス提供はケアプランに基づき、訪問介護サービスが提供される場合が多いのだと思います。この訪問介護事業者が利用者に提供するサービスには主に「身体介護」と「生活援助」があります。

住宅型有料老人ホームに訪問介護事業所が併設されている場合を確認すると、医療費控除の対象となり得る主なサービスの一部分において「③訪問介護(身体介護)※訪問診療を受けている場合」との記載があります。

 つまり、この訪問介護サービスについては、介護サービスの提供が「身体介護」と「生活援助」に分類されており、この「身体介護についてのみ医療費控除の対象となり得る」のです。

 ここで上記のとおり「なり得る」と論じているのは、以下の要件をクリアしていなければ、たとえ身体介護であっても医療費控除の対象とはならないということです。その要件とは・・・。

 ・訪問介護サービス利用者が「訪問診療」を受けていること。

 つまり、ここでは訪問介護における身体介護のサービスを受ける前提として、「医療系サービスと併せて利用するとき」という要件があり、当該要件(この場合「訪問診療」)を受けていることにより、この要件がクリアされ、初めて当該サービスが医療費控除の適用対象となるのです。

施設長や事業所の管理者として最も大切なこと

今回のブログの題名は、「入居者に対する医療費控除の対応を適切に行っていますか」となっていると思いますが、その理由をお話します。

このような書き方となっているのは、施設長や事業所の管理者で、この医療費控除の適用範囲について全く見当が付かないせいか、以下のような回答を入居者やご家族様にしている事例を聞いたことがあるからです。

①明らかに医療費控除の適用対象となり得るサービス提供であるにもかかわらず「医療費控除の適用ではない」と回答してしまっている事例。

②医療費控除の適用対象であるにもかかわらず領収書を発行していない事例。

この医療費控除の適用対象の可否については、入居者が確定申告を行い、そのうえで税務署の判断によります。税理士である私でさえも法令集を調べながら、この医療費控除に関するブログの書いているのが現実です。

そうであるなら、上記①②のような対応をすることは大きな間違いですし、ましてや施設長や事業所の管理者が「このサービスは医療費控除の適用対象です」と回答するのは、対応を誤っていると思います。

実は、そういった対応ではなく、施設長や事業所の管理者として入居者やそのご家族様に行わなければならないことは、「サービス提供に対する領収書をしっかり発行すること」です。

医療費控除の適用対象か否かという以前に、サービス提供を行ったのであれば必ず領収証を発行しましょう。

簡単な分類で医療控除の適用の可否を見てみよう

 前項まで、医療費控除の適用対象の可否について文言で表し、また要件等についても、その根拠を税理士として丁寧に書いてみました。

 ゆえに、現場の施設長や事業所の管理者の方からすると、「もっと端的に医療費控除の適用対象の可否を知りたい」というニーズもあることと思います。

 ここでは、「住宅型有料老人ホーム」、「サービス付き高齢者向け住宅」、「介護付き有料老人ホーム」に分類し、医療費控除の適用の可否を「○×」で、以下のとおり示します。

【訪問介護(身体介護)を利用者、かつ訪問診療を受診している場合】

・住宅型老人ホーム・・○
・サービス付き高齢者住宅・・○
・介護付き有料老人ホーム・・✕

【介護福祉士等による喀痰吸引等の対価の場合】※自己負担額の10%

・住宅型老人ホーム・・○
・サービス付き高齢者住宅・・○
・介護付き有料老人ホーム・・○

まとめ

施設における施設長や事業所における管理者の方々で、この医療費控除の適用対象の可否をしっかりと把握されている方はあまり多くないと思います。

そう言った意味で、今回はこの「医療費控除の対応を適切に行っていますか」というテーマでブログを書いてみました。なお、この医療費控除や高額介護サービス費等については、税理士・行政書士である私が、外部向けに「医療費控除・高額介護サービス費等を理解しよう!」という研修を開催しております。

今回は、老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、加えて訪問介護について説明しましたが、上記研修では、他の居宅サービス、施設系サービスについても、その適用の可否や背景を丁寧に解説しております。

機会があれば、是非上記研修を受講してみることをお勧めします。

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