介護報酬改定の方向性(特定施設入居者生活介護)を確認する

介護報酬改定

 令和5年12月19日付けで、令和6年度介護報酬改定に関する審議報告が発出され、今回の介護報酬改定の方向性が明らかになってきました。今後、来年1月下旬には介護報酬改定における具体的な単位数が判明してくるものと思います。

私自身も、各所で介護報酬改定に関するセミナーを開催しながら、このブログを更新しているので、更新頻度が落ちてしまっています。この点はご容赦ください。

さて、個別論点の介護報酬改定の方向性として「訪問介護」、「居宅介護支援」とご紹介してまいりましたが、今回のブログでは、「特定施設入居者生活介護」を取上げようと思います。

「特定施設入居者生活介護」という名称は、あくまでも介護保険法における居宅サービスの種類の名称であり、これを老人福祉法の視点から称すると「介護付き有料老人ホーム」ということとなります。

特に、平成27年度介護報酬改定より、特別養護老人ホームの入居が「原則要介護3以上」ということとなりました。このことから、この特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム)は、「要介護1、2を含めた形での特別養護老人ホームの受け皿」としての役割も期待されているものと思われます。

このことから、今回の介護報酬改定においても、重介護や医療依存度の高い入居者への対応を意識した介護報酬改定となっているのではないかと考えています。こうした制度趣旨を念頭に置きながら、今回のブログでも介護報酬改定についての重要論点をとりまとめて書こうと思います。

夜間看護体制加算の評価見直し

 特定施設入居者生活介護において、加算として従来から「夜間看護体制加算」が設定されています。

この看護職員の配置体制について、その事業所により以下のような差異が見られます。

  • 常に夜勤又は宿直の看護職員を配置
  • 施設の看護師若しくは訪問看護ステーション等と連携のオンコール体制

現在の夜間看護体制加算の算定率は、事業所全体の「69.1%」となっています。そして、この算定率の内訳を見ると、以下のとおりとなっています。

  • 常に夜勤又は宿直の看護職員を配置」・・14%
  • 「施設の看護師」若しくは「訪問看護ステーション等と連携」のオンコール体制・・86%

【図1】

出典:令和5年11月16日 第231回社会保障審議会介護給付費分科会資料4  P10より引用

この①の事業所において、夜間に看護職員を配置している理由は、「常時、医療処置を要する入居者がいるため」が最も多く約84%だった。

よって、今回の介護報酬改定では、①の事業所は、②の事業所と比較し、「医療ニーズへの対応がより多くできている」ということを踏まえ、「評価に差を設ける」こととなりました。

入居継続支援加算の算定要件の見直し

 現在、入居継続支援加算は、以下の「②社会福祉士及び介護福祉士法施行規則1条各号に掲げる行為」についての、①の入居者割合の一定率を満たすことが算定要件となっています。

 ・入居継続支援加算(Ⅰ)・・・②の必要な行為の入居者割合が15%以上

 ・入居継続支援加算(Ⅱ)・・・②の必要な行為の入居者割合が5%以上~15%未満

 ・口腔内の喀痰吸引

 ・鼻腔内の喀痰吸引

 ・気管カニューレ内部の喀痰吸引

 ・胃ろう又は腸ろうによる経管栄養

 ・経鼻経管栄養

 今回の介護報酬改定においては、上記②の行為以外に、「以下③の行為」入居継続支援加算の算定要件の入居者割合に含めることとします。

 ・膀胱留置カテーテルの管理

 ・在宅酸素療法

 ・インスリン投与

生産性向上に先進的に取組む特定施設に係る人員配置基準の特例的な柔軟化

 見守り機器等のテクノロジーの複数活用及び職員間の適切な役割分担の取組等、介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減が行われている場合、見直しが行われることとなりました。

 具体的には、本項の標題のとおり「特例的な柔軟化による人員配置の見直し」となり、以下のとおりとなります。

 施設ごとに置くべき人員数について、常勤換算方法で、「要介護者である利用者の数が3(要支援者の場合は 10 )又はその端数を増すごとに 0.9 以上であること」。

 上記、「特例的な柔軟化による人員配置の見直し」の適用を受けるためには、以下イ~ホの要件を満たす必要があります。

  運用にあたり注意点

 ロの試行を行った結果、指定権者に届け出た人員配置を限度として運用する。

ロ  試行すべき内容

・テクノロジーの活用や職員間の適切な役割分担の取組の開始後、これらを少なくとも

3か月以上試行し、試行期間中においては通常の人員配置基準を遵守すること。

実際にケアを行う多職種の職員が参画する委員会において安全対策や介護サービスの質の確保、職員の負担軽減が行われていることデータ等で確認するとともに、当該データを指定権者に提出する。

ハ  安全対策の実施

 以下の安全対策を実施する必要がある。

ⅰ 職員に対する十分な休憩時間の確保等勤務・雇用条件への配慮

緊急時の体制整備(近隣在住職員を中心とした緊急参集要員の確保等)

機器の不具合の定期チェックの実施(メーカーとの連携を含む)

職員に対する必要な研修

訪室が必要な利用者に対する訪室の個別実施

ニ 試行前後の比較と確認

 試行の前後につき、以下の事項を比較と確認の必要がある。

介護職員の総業務時間に占める利用者のケアに当てる時間割合が増加していること

利用者の満足度等に係る指標において、著しい悪化が見られないこと

ⅲ 総業務時間及び当該時間に含まれる超過勤務時間が短縮していること

介護職員の心理的負担等に係る指標において、著しい悪化が見られないこと

ホ 一定期間ごと指定権者への報告

 一定期間ごと上記ニについて指定権者に報告を行う。 また、届出の人員配置より

少ない人員配置を行う場合改めて試行を行い必要な届出をする。

 つまり、事業者はこの「特例的な柔軟化による人員配置の見直し」の適用を受けるために、上記イ~ホの各要件を満たす必要があります。

 それにしても、この「特例的な柔軟化による人員配置の見直し」という用語の使い方は、本当に意味が分かりません。もう少し分かりやすく、例えば「見守り機器等活用による人員体制の省力化」等、もう少し一般の人でも分かる用語を使ってもらいたいものです。

 そして、この取組みを実施するために、当然「介護保険の利用者がありき」の話なので、適用あたり厚生労働省や指定権者が慎重なのは理解することができます。

それにしてもこのイ~ホの各要件が、事業者にとって「あまりにも荷重」であると感じます。つまり、この人員体制の省力化の果実よりも、この取組みを実施するための事業者の労力や時間的コストがあまりにも大きく、これでは結果として、この取組みが、結果、事業者がこれを行おうというモチベーションに繋がらないのではないかと危惧しています。

協力医療機関との連携体制の構築と見直し

 施設等内での対応可能な医療範囲を超えた場合、協力医療機関との連携の下で適切な対応が行われるよう、医療機関等と実効性のある連携体制を構築するため、以下のア~ウの見直しを行います。

①協力医療機関を定めるにあたり、以下の要件を満たす協力医療機関を定めるよう努めること

ⅰ 利用者の病状の急変が生じた場合等、医師又は看護職員が相談対応を行う体制を常時確保していること。

ⅱ 診療の求めがあった場合に、診療を行う体制を常時確保していること 。

1年に1回以上協力医療機関との間で利用者の病状の急変が生じた場合等の対応を確認するとともに、当該協力医療機関の名称等について当該事業所の指定を行った自治体に提出しなければならない

③利用者が協力医療機関等に入院した後、病状が軽快し、退院が可能となった場合、速やかに再入居させることができるように努めること

この「協力医療機関との連携体制の構築を見直し」について、対応する事業所は以下について理解のうえ、対応をお願いします。

 ・努力義務

 上記①と③については、あくまでも「努力義務」です。もちろん事業所として対応することは好ましいのですが、あくまでも努力義務なので、対応すべき優先順位が落ちます。

 ・義務

 上記②については、「義務」です。令和6年度4月以降に実施される運営指導でも指定権者より、事業所としてこの対応を行っているかを問われます。

 先ずは、②より対応しましょう。

まとめ

今回のブログでは、特定施設入居者生活介護について介護報酬改定における重要論点を挙げてみました。

特に今回の介護報酬改定においても、「重介護や医療依存度の高い入居者への対応を意識した介護報酬改定」となっていることが、各介護報酬の改定項目を確認すると分かります。

次回、以降も引き続き、施設系サービス、通所系サービス、居宅サービス、小多機系サービスについても、個別論点の介護報酬改定の方向性について、論点を明確にして行こうと思います。

今回もブログをお読みいただき、ありがとうございました。次回以降のブログもお楽しみに。

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