事業者が行政処分を受けた事由を確認してみよう

行政処分(返戻・指定取消・連座制)

 事業所運営していくうえで、介護保険法や各基準における人員基準、設備基準、運営基準を満たし、かつ適切な事業運営を行うことは当然です。

しかし、運営事業者側からすると、「どのような事由により行政処分が下されるのか」という点を、はっきりと把握していないと常に不安を抱くこととなります。

いわゆる「幽霊の正体見たり枯れ尾花」です。

今回は、以下の報告書を参考にしながら、「どのような事由により、事業者は行政処分が下されるのか」という点に着目して、ブログを書いてみたいと思います。

①「介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の実態及び処分基準例の案に関する調査研究事業報告書」(平成29年3月 株式会社日本総合研究所)

 ②「介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の標準的手法に関する調査研究事業」(平成30年3月 株式会社日本総合研究所)

①の調査研究が行われた目的・調査内容について

 介護サービス事業者の増加、サービス提供方法の多様化、指導監査業務の事務・権限について一部移譲等に伴い、指導監査手法の効率化が重要となっています。また、社会保障審議会介護給付費部会等においても、「自治体間で指導監査内容に不整合が見られること」が指摘されています。

 こうしたことから行政処分等の適切な実施や標準化を目的として、行政処分等の実態及び処分基準例の案に関する提案を取りまとめたことが、その目的となります。

 平成25年度~平成27年度の行政処分事例(約1,340事業所)について、「違反内容」、「処分事由」、「サービスの種類等による傾向等」の分析を行っており、また予防給付の事業所分については除外しています。各年度の調査対象は以下のとおりです(総計844件)。

 ・平成25年度 317件
 ・平成26年度 255件
 ・平成27年度 272件

行政処分を受けた事由について

 平成27年度の行政処分事例、行政処分事由について、以下【図1】のとおりです。

【図1】

出典:「介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の実態及び処分基準例の案に関する調査研究事業報告書」P5より引用

 【図1】において、「行政処分事由」で一番多いのが不正請求であり、次いで運営基準違反、人員基準違反と続きます。

 ・不正請求172件(32.3%)
 ・運営基準違反70件(13.2%)
 ・人員基準違反68件(12.8%)
 ・虚偽報告65件(12.2%)

  確かに、上記「運営基準違反」と「人員基準違反」について、この資料から、その割合が多いことが分かります。そして、この二つの違反は、通常の運営指導をその状態(つまり違反状態のまま)のまま運営指導を受けたのであれば、運営指導を行う行政機関側も「当然気づくはず」です。

よって、運営指導が実施される以前の段階では、この「運営基準違反」と「人員基準違反」の違反件数は、もっと多いのではないかと思われます。しかし、この行政処分の段階でこの件数となっているのは、ひとつの理由として、運営指導が実施された段階で行政機関より事業者に対し、通常「行政指導」や「勧告」により改善を促されることが優先されるからです。

 つまり、この行政処分の段階で、事業者側が「運営基準違反」と「人員基準違反」に問われるということは、この「行政指導」や「勧告」に従わなかった、若しくは、実際に「虚偽報告」や「虚偽答弁」が関係しているのではないかと考えます。

行政処分を受けた事由の詳細について着目する

 以下に、各行政処分を受けた事由ごとに、詳細な内容を記載していきたいと思います。

①不正請求

  【図2】のとおり、詳細は見ると、サービス提供がない、いわゆる「架空請求」が最も多く、次いで「減算規定に該当しているが減算していない場合」や、加算の算定要件を満たしていないのに加算請求している事例が目立つ。

【図2】

出典:「介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の実態及び処分基準例の案に関する調査研究事業報告書」P5より引用

②運営基準違反

  【図3】のとおり、「サービス計画書の不備」、「その他の書類不備」が多く、また「管理者が従業員及び業務の管理をしていない」、「無資格者をサービス提供責任者として任命している」などの「管理者・サービス提供責任者の責務違反」なども目立っています。

【図3】

出典:「介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の実態及び処分基準例の案に関する調査研究事業報告書」P6より引用

③人員基準違反

  【図4】のとおり、「管理者・サービス提供責任者が常勤・専従の要件を満たしていない」など、介護職員や看護職員について、必要な人員数を満たしていない事例がありました。

【図4】

出典:「介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の実態及び処分基準例の案に関する調査研究事業報告書」P6より引用

④虚偽報告・虚偽答弁

  【図5】のとおり、虚偽報告の内容としては、サービス提供報告書、勤務簿、給与台帳など、「書類の偽造」が多いのが特徴です。

【図5】

出典:「介護保険法に基づく介護サービス事業者に対する行政処分等の実態及び処分基準例の案に関する調査研究事業報告書」P6より引用

 ⑤人格尊重義務違反

 虐待など、人格尊重義務違反は19件あり、身体拘束、叩く・殴るなどの暴力、暴言などの「身体的・心理的虐待」が14件、入居者の金銭や貴金属類、保険金は窃取するなどの経済的虐待が3件ありました。

なお、平成28年度の処分事由と、その件数を参考までに以下に記載します。

 ・身体的・心理的虐待 23件
 ・経済的虐待 5件
 ・その他(人格尊重義務違反) 1件

 ⑥不正の手段による指定(虚偽申請)

 不正の手段による指定(虚偽申請)は30件あり、勤務する予定がない者の氏名を申請書類に記載したケースが最も多かった。また、事業活動を行わない所在地での届出、定款の偽造、人事異動発令の偽造などもありました。

なお、平成28年度の処分事由と、その件数を参考までに以下に記載します。

 ・職員について 40件
 ・場所について 3件
 ・その他(虚偽申請) 2件

 ⑦その他

 他の事業者による不正請求を幇助するなどの「不正又は著しく不当な行為」の事例が13件あったほか、高齢者虐待防止法などの違反、処分に反して「新規利用者の受け入れていた」事例もありました。

なお、平成28年度の処分事由と、その件数を参考までに以下に記載します。

 ・一体的に運営している事業所の違反 47件
 ・介護保険法以外の違反 8件
 ・その他(法令違反) 15件

運営指導、監査を含め行政対応を誤ると大ケガする

 前項では、①~⑦の行政処分を受けた事由の詳細を取上げた。

すでに前述したが、通常、②の「運営基準違反」と③の「人員基準違反」については、その前段の運営指導の段階で行政機関より事業者に対し、通常「行政指導」や「勧告」により改善を促されること普通なのです。

それにも関わらず行政処分を科されるということは、事業者側が以下のいずれかの対応を採ったものと推測されます。

 ・「行政指導」や「勧告」の内容に従わなかった。
 ・「虚偽報告」や「虚偽答弁」を行った。

 このような事業者側が運営指導に対する対応を誤らなければ、いきなり行政処分を前提とした「監査」が実施される可能性が高いのは、以下のいずれかの事由となるものと思われます。

 ・不正請求
 ・虚偽報告・虚偽答弁
 ・人格尊重義務違反
 ・不正の手段による指定(虚偽申請)

 では、これらの事由に該当しなければ、いきなり事業所に対し監査が実施される可能性は低いのかも知れません。ただ、この事由を回避するという考え方ではなく、次の原則としっかりと守るようにしましょう。

 行政機関に対し、誠実に対応し「虚偽報告や虚偽答弁を行わないこと」です。

まとめ

 今回は、運営事業者側からすると、「どのような事由により行政処分が下されるのか」という点を、はっきりと把握するということが目的でした。

資料に基づき、このブログを書いてみましたが如何でしたか。この「行政処分を受けた事由の詳細」に着目することによって、事業所を運営するうえで注意すべきことが明確になったのではないでしょうか。

さて、弊社では、様々な事業者の方々から行政処分についてのご相談を受けることが非常に多いです。これに対し私たちは、運営されている事業所の状況や過去の運営指導や監査の状況を伺いながら、しっかりとした対応策をお答えするようにしています。

現在、運営されている事業所において、運営指導や監査対応をはじめ、行政対応に困るようなケースがございましたら、ぜひ弊社にご相談ください。

過去に様々な類型の運営指導や監査の行政対応を経験しておりますので、ご期待に沿うことが可能です。

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