訪問系介護サービス含めた外国人介護人材受入れの在り方は変わるのか

介護保険制度

 令和4年11月22日に設置された「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」が令和5年5月11日に取りまとめた中間報告書では、技能実習制度と特定技能制度が直面する様々な課題を解決した上で、国際的にも理解を得られる制度を目指すとされました。また中間報告書で示された方向性に沿って、具体的な制度設計の議論が行われ今秋をめどに最終報告書が取りまとめられます。

 今回は、令和5年7月24日に開催された「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」(以下「検討会」という)の内容を踏まえ、ブログを書き進めたいと思います。

なぜ、今回このテーマでブログを書こうとしたのか

介護業界の方々とお話をしていて、現場で働いている介護職の慢性的な人手不足という話は日々伺います。このような中で必要な介護サービスを安心して受けられるように介護人材を確保することは重要課題であり、外国人介護人材の確保・定着及び受入環境の整備を図ることが必要なのだと思います。

まず、現在の児童福祉法、障害者総合支援法、老人福祉法・介護保険法等における、外国人人材の受入対象となっている施設は、次の【表1】のとおりです。

【表1】

出典:令和5年7月24日「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」資料より抜粋

今回、この検討会が開催された中で、訪問系サービスについて議論されたことがきっかけか、次回の介護報酬改定では「訪問系サービスでも外国人介護人材の活用が拡大化されるかもしれない」というような話を耳にするようなことがありました。

 確かに、外国人介護人材について介護現場からは外国人介護人材の業務拡大を望む意見がある反面、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」においては、技能実習制度及び特定技能制度の在り方について議論が行われています。

しかし、中間報告書においては以下のような検討の方向性も示されています。

・人材育成の観点から、外国人が修得する主たる技能等について、技能実習制度廃止後の新たな制度から特定技能制度への移行を見据えた上で、体系的な能力を身につける観点に立って幅広い業務に従事することができる制度とする方向で検討。

・外国人材のキャリアアップを進めていくため、習得された技能について、日本国内だけではなく、母国での活躍につながるような方策を採れないかについて検討。

 ただ、このような大きな検討課題が残っているにもかかわらず、次回介護報酬改定というような「極めて早いタイミングで本当に訪問系サービスでも外国人介護人材の活用が拡大化されるのか」という疑問を私は持ったのです。

 このブログでは、この検討会の資料と議事録を見ながら、訪問系サービスの外国人介護人材の活用の可能性や他の論点について、確認しながらブログを書いてみたいと思います。

検討会で議論された論点について

 この検討会では、検討事項として、以下の「3つの論点」が取り上げられました。

その各論点における検討会での委員からの意見を確認しながら、これらの論点が、今後どのようになっていくかを確認していきたいと思います。

また、次項以下、当該論点を踏まえ、今回の検討会での委員からの主な意見の要旨を纏めてみました。この委員の発言内容の要旨に目を通してみると、今後の検討会の今後の方向性のようなものが見えてきます。

そのうえで、「項目7.」では、検討会における各委員からの意見等を踏まえ、私なりの【現時点での予測】について書いてみたいと思います。

【論点】

①訪問系介護サービスへの外国人介護人材の従事について
②事業所開設における外国人介護人材受入可能のための経過期間について
③外国人介護人材の人員配置基準の算定について

訪問系介護サービスへの外国人介護人材の従事について

 現時点【表2】のとおり、技能実習としての「介護」、特定技能としての「介護」における外国人の方々について、現時点では訪問系介護サービスは認められていません。今後、この仕組みをどのように考えていくのかということが議論の俎上に上がりました。

【表2】

出典:令和5年7月24日「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」資料より抜粋

【検討会における委員からの意見】

 ・訪問系サービスの従事は「1対1」が基本となる。そうすると適切な指導体制、人権擁護、在留資格の管理が困難ではないか。

 ・「有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者住宅」であれば1対1の介護にはならないので対象施設に含めることができるのではないか。

 ・訪問介護をしながら新しく入ってきた人材を育てるのは大変難しい。特に外国人として言葉の意思疎通に手間が掛かるのではないか。

 ・指導担当者と同行による実習であれば問題がないが現時点では認めるのは厳しい。

 ・ホームヘルパー2級の受験資格も技能実習生等には無く、報酬請求も難しい。よって、現実的には議論する状況に無い。

 ・訪問入浴について「3人でサービス提供していくというルールになっている」。よって緩和の方向性で検討できないか。

 ・介護福祉士を取得している外国人人材で訪問介護に従事している者の雇用や指導体制等を踏まえて検討するのが良いのではないか。

 ・住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅での介護サービス提供は原則「1対1」となりますので時期が早いかと思います。

 ・訪問系サービスで集合住宅の部分については、ハードルを下げるのではなく、「適切な線引き」が必要ではないか。

事業所開設における外国人介護人材受入可能のための経過期間について

 「事業所開設後3年要件について」、【表3】のとおり、技能実習としての「介護」では、経営が安定している事業所について対象をするということで、設立後3年を経過している事業所を対象としています。この要件をどのように考えていくのかが俎上に上がりました。

【表3】

出典:令和5年7月24日「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」資料より抜粋

【検討会における委員からの意見】

・3年経過しなくとも指導体制が確立できれば必要ないのではないか。
・経営の安定や教育体制の確保があれば「事業所単位」ではなく「法人単位」で良いのではないか。
・年数より、実習施設として相応しい要件を満たしているのかが重要ではないか。
・事業所は開設3年未満であっても法人において受け入れている場合には可能と検討してはどうか。
・法人単位で3年以上運営しているのであれば、もう少し期間を短くしても良いのではないか。

外国人介護人材の人員配置基準の算定について

 技能実習としての「介護」等の人員配置基準ですが、【表4】のとおり、技能実習としての「介護」、EPAにつきましては「就労開始6ヶ月を経過したものについてのみ人員配置の基準に算定する」という扱いになっていますが、今後、どのように考えていくのかという点が、俎上に上がりました。

【表4】

出典:令和5年7月24日「外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会」資料より抜粋

【検討会における委員からの意見】

・日本語のレベルや、介護技能の経験の有無をどのように考えるのか。
・来日して研修があり、その6ヶ月にも給与が発生している。入職後直ぐの算定ではどうか。
・それぞれの制度の趣旨を踏まえると安易に配置基準の参入要件を緩和すべきではないのではないか。
・そもそも日本人で施設配置基準の人員配置を満たしていることが前提条件ではないか。
・現状のN4要件を維持するのであれば初日から配置要件を認めても良いのではないか。
・現在、経験の無い外国人であっても「認知症介護基礎研修」従事後に配置基準に算定できる。

検討会で議論された論点についての「現時点での予測」

この項目では、前述までの各論点、検討会における各委員からの意見を踏まえ、私なりの以下のとおり、【現時点での予測】について検討したいと思います。

【現時点での予測】

 ①訪問系介護サービスへの外国人介護人材の従事について

・すでに「介護付き有料老人ホーム」では介護人材の介護サービス提供が認めらえていることから、「住宅型有料老人ホーム」や「サービス付き高齢者住宅」の、いわゆる「集合住宅」は認められる実現可能性が高いのではないか。

・「訪問入浴介護」は、サービス提供が「3人」であることから認められる実現可能性が高いのではないか。

・他の訪問系サービス(訪問介護)は、「1対1」のサービス提供体制ということから、実現は困難ではないか。

 ②事業所開設における外国人介護人材受入可能のための経過期間について

 ・「事業所単位」ではなく「法人単位」で検討することとし、経営の安定や教育体制の確保という担保があるのであれば、「年限の撤廃」若しくは「年限の短縮」という実現可能性があるのではないか。

 ③外国人介護人材の人員配置基準の算定について

 ・現時点、この人員配置基準の算定緩和は困難ではないか。ひとつの理由としては、コミュニケーションスキルや介護技術が未熟な人材を人員配置に組み込むことは、他の介護職員の業務負担に大きな負担を与える恐れがある。

まとめ

 今回のブログを書くきっかけは、訪問系サービスについて外国人人材の介護サービス提供が、次回の介護報酬改定から始まるのではというような「噂」でした。

実際に検討会でのそれぞれの委員の方の発言を、議事録を通じ丁寧に読むと、その考えや方向性が、改めて見えてくることが分かりました。

やはり、直ぐに情報に飛びつくのではなく、話の大きな流れをしっかり確認したうえで、物事を判断していくことは非常に重要であると本事例から学びました。

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