特別監査に伴う指定取消と連座制の適用について

障害者総合支援制度

令和5年9月に、厚生労働大臣が記者会見を行い、そこで大手運営事業者に対し、障害者総合支援法に基づく特別監査に乗り出すということが報道されました。正直、厚生労働大臣自らが報道陣に対し「特別監査を実施」するという場を設けたことは、私が知り得る限りではコムスン事件以来ではないかと思います。

 指定障害福祉サービス事業者等に対する管理業務体制の整備とその届出の義務付けは、平成24年4月から実施されており、この厚生労働大臣による特別監査が実施される根拠は、障害者総合支援法に定められた業務管理体制を確認するための特別監査(特別検査)です。

この特別監査の実施に伴い、当該指定障害福祉サービス事業者に対する業務管理体制の「特別監査」が実施されることを通じて、行政処分としての事業所の「指定取消」と、加えて「連座制」が適用される可能性が出てきました。

今回のブログでは、その前提として、業務管理体制の特別監査、行政処分に伴う事業所の指定取消と、連座制の適用について、手続きや制度の概略を確認したいと思います。

また、次回のブログでは、今回、大手運営事業者に対しての特別監査が実施される訳ですが、具体的な内容とその経過や、今後の行政処分の方向性や連座制適用の可否について検討したいと思います。

今回の記事は3部構成になっております。

是非、1つ前の記事もご覧ください。

①指定障害福祉サービス事業者等における連座制と業務管理体制成立の背景について

②特別監査実施に伴う指定取消と連座制の適用について【本記事】

③指定障害福祉サービス事業所の不正に対し「連座制」が適用されるか考える

業務管理体制における「特別監査」と監査指針による「監査」との関係を確認する

 前述のとおり、厚生労働大臣は大手運営事業者に対し、障害者総合支援法に基づく特別監査に乗り出すということを発表しました。この厚生労働大臣のいう「特別監査」とは、障害者総合支援法に定められた業務管理体制を確認するための特別監査(特別検査)となります。

 この特別検査についての根拠や内容は、「障害福祉サービス事業者業務管理体制確認検査指針」にあいて以下のとおり定められています。

〇障害福祉サービス事業者業務管理体制確認検査指針

5検査等 1検査 (2)特別検査

指定事業所等の指定取消処分相当事案が発生した場合に、当該障害福祉サービス事業者に対し実施するものとする。

〇障害福祉サービス事業者業務管理体制確認検査指針

5検査等 2検査等実施方法 (4)特別検査の実施

 ①指定事業所等の指定取消相当の事案が発覚した場合に、当該障害福祉サービス事業者及び指定事業所等への立ち入り、業務管理体制の整備状況を検証するとともに、当該事案への組織的関与の有無を検証する。

 ②「行政上の措置等」に定める措置には至らないで改善を要する事項については、別紙様式3により文書により通知するものとし、改善の状況等について、期限を付して報告を求める。

 ③障害福祉サービス事業者が行政上の措置にかかる命令に違反したときは、当該違反の内容を指定事業所等の権限を有する関係都道府県又は市町村に通知するとともに、他の事業所等の指定・更新の拒否に該当する旨、あわせて通知するものとする。

 このような事象となる以前、すでに本年6月には、厚生労働省より当該大手運営事業者の運営する施設が所在する地方公共団体に対し実態調査を実施するように通知がなされており、調査が進められています。

 このように見ると、今回の「監査の流れ」には以下のとおり、大きく2つあることが分かります。

【監査の流れの2つ】

 ①障害者総合支援法第48条に基づく「監査」 ※指定障害福祉サービス事業者等監査指針による。

 ②障害者総合支援法第51条の3に基づく「特別検査」 ※障害福祉サービス事業者業務管理体制確認検査指針による。

〇障害者総合支援法

第48条第1項(報告)※上記①の根拠

都道府県又は市町村は、必要があると認めるときは、指定障害福祉サービス事業者若しくは指定障害福祉サービス事業者であった者若しくは当該指定に係るサービス事業所の従業者であった者(以下この項において「指定障害福祉サービス事業者であった者等」という。)に対し、報告若しくは帳簿書類等その他の物件の提出若しくは提示を命じ、指定障害福祉サービス事業者であった者等に対し出頭を求め、又は当該職員に関係者に対して質問させ、若しくは当該指定障害福祉サービス事業者の当該指定に係るサービス事業所、事務所その他当該指定障害福祉サービスの事業所に関係のある場所に立ち入り、その設備若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる。

〇障害者総合支援法

第53条の3 第1項 ※上記②の根拠

前条第2項の規定による届出を受けた厚生労働大臣等は、当該届出をした指定事業者等における同条第1項の規定による業務管理体制の整備に関して必要があると認めるときは、当該指定事業者等に対し、報告若しくは帳簿書類その他の物件の提出若しくは提示を命じ、当該指定事業者等若しくは当該指定事業者等の従業者に対し出頭を求め、又は当該職員に関係者に対して質問させ、若しくは当該指定事業者等の当該指定に係る事業所若しくは施設、事務所その他の指定障害福祉サービス等の提供に関係のある場所に立ち入り、その設備若しくは帳簿書類その他の物件を検査させることができる。

前述の前段の厚生労働大臣が大手運営事業者に対し障害者総合支援法に基づく「特別監査(特別検査)」に乗り出すという発言にあたる監査は、上記【監査の流れの2つ】うち、②にあたるものです。

そして事業所に対し、行政処分の可否を判断するために行うための「監査」とは、①にあたるものです。

 よって、上記2つの監査流れを踏まえると、次のように言えると思います。

まず、当該指定障害福祉サービス事業者の指定権者である都道府県又は市町村に対し、障害者総合支援法(以下「法」という)第48条を根拠として当該事業者に対しての行政処分の可否を判断する前提としての監査実施(①にあたる)を国(厚生労働省)が要請したこと。

 次に、その指定権者による当該事業者に対する監査の報告結果について、重大性があるとして国(厚生労働省)が判断したことから、業務管理体制の監督権者である国(厚生労働省)による特別監査(特別検査)実施(②にあたる)されたということなのです。

業務管理体制の「特別監査」の流れを確認する

 今回の大手運営事業者に対する業務管理体制による特別監査(特別検査)が実施されるということですが、そもそも法48条第1項に基づき、指定障害福祉サービス事業者の指定権者として、都道府県又は市町村は行政処分の可否の判断を行うための監査を実施し、単独で指定取消等の行政処分を下すことが可能なはずです。

 では、なぜ今回は指定権者である都道府県又は市町村は、単独で行政処分を行うのではなく、当該大手運営事業者の業務管理体制における監督権者の国(厚生労働省)における「特別監査(特別検査)」実施との連携を取ったのでしょうか。

 それは、今回の大手運営事業者は、東海・関東地方を中心に12都県、約120箇所もの事業所を運営していること、そして業務管理体制における監督権者は国(厚生労働省)であり、これは単に指定事業所等の指定取消相当の事案が発覚したということに止まらず、社会的影響の大きさや、この大手運営事業者の本部を含めた「組織的関与の有無」を検証することが必須であったからなのでしょう。

 特に、この「組織的関与の有無」について、明らかに組織的関与が存在した場合、当該大手運営事業者に対しての「連座制の適用」がなされる可能性があります。

 では、以下【図1】のとおり、今後、国(厚生労働大臣)による「特別監査」が実施され、どのような流れで行政手続法における各手続きと、指定取消等の行政処分、加えて事業者としての連座制の適用までの流れを確認したいと思います。

【図1】

出典:令和3年度障害福祉関係指導監督等支援事業(都道府県・指定都市・中核市職員向け研修)より引用

 今回の大手運営事業者の不正については、広域的かつ重大性という視点からも、「組織的関与の有無」が厳しく確認されることでしょうし、組織的関与が判明した場合には「連座制の適用」がなされるでしょう。

 次項では、この「連座制」についての確認をしたいと思います。

この「連座制」とは何か

 指定障害福祉サービス事業者が指定権者により、指定取消処分されたという行政処分は時々聞くことがありました。しかし、この「連座制」という言葉はあまり聞くことが無いのではないでしょうか。

 「連座制」とは、以下【図2】のとおり、事業所等の指定取消処分が、その事業者等の同一サービス類型(障害福祉サービス(療養介護を除く。)、障害者支援施設、地域相談支援、計画相談支援、障害児通所支援及び障害児相談支援をいう。)内の他事業所等の指定又は更新の拒否に繋がる仕組みです。

【図2】

出典:令和3年度障害福祉関係指導監督等支援事業(都道府県・指定都市・中核市職員向け研修)より引用

この「連座制」を簡単に言うと、あるX社が運営するA事業所について、指定取消処分等の行政処分を受けることとなった場合、X社が新規指定を受けることの拒否、X社が運営するB事業所について指定更新の拒否を受けることを言います。

 実は、この「連座制」が制度として定められたのは介護保険制度においてでした。この旧「連座制」は平成18年に導入されましたが、この当初定められた連座制がコムスン事件を引き起こしたひとつの要因であったのではないかと私は思います。

なぜなら、この平成18年度に導入された旧「連座制」は、仮に「1つの事業所が指定取消となってしまうと、一律、新規指定不可はもとより、現に運営する事業所についても指定更新が認められないという厳罰化」でした。このことから旧「連座制」を適用されることは、どのような理由があるにせよ実質的に事業が継続することができないというものでした。

この旧「連座制」については、事業者に対する過大な影響の大きさ、そして本部を含めた「組織的関与の有無」について勘案されることとなり、平成21年5月に介護保険法及び老人福祉法の一部改正により、業務管理体制の整備と併せて。現行の「連座制」が適用されました。

 よって、障害者支援法及び児童福祉法における「連座制」についても、上記介護保険法及び老人福祉法の一部改正を受けた後の、現行の「連座制」の仕組みと同様の制度が適用されることとなります。

 「連座制」の適用にあたっては、【図2】における「◎の範囲内において」連座制が適用されることになります。これにより「同一類型の事業所についての新規指定拒否、並びに指定更新の拒否を受けること」となります。

連座制が適用される場合の「組織的関与の有無」とは何か

障害者総合支援法及び児童福祉法における連座制が適用される場合、その前提として「組織的関与の有無」が重視されるのです。

では、この指定取消処分の理由となった事実の「組織的関与の有無」とはどのようなものなのかを【図2】より確認します。

【図2】

出典:令和3年度障害福祉関係指導監督等支援事業(都道府県・指定都市・中核市職員向け研修)より引用

 上記【図2】のとおり、「組織的関与」とは、「事業者の役員等からのメール、電話による指示などに基づくもの」であり、これが組織的関与とされた場合には、「指定取消処分の理由となった事実について組織的関与があった旨を指定権者へ通知する」ことになります。

つまり、これが「連座制の適用」ということになります。

 そして、この「指定権者への通知」によって生じる効果は、以下の2つとなります。

「連座制の適用」 同一類型の事業所の、他の指定事業者等の指定権者にも通知されることによって、当該同一類型の事業所についての新規指定拒否、並びに指定更新の拒否を受けることとなります。

「役員等の欠格事由に該当」 通知を受けた指定権者は、各都道府県知事に当該事業者の役員等の氏名等を通知することにより、当該役員等は欠格事由に該当します。これにより、今後、当該役員は事業所の新規指定について、これを5年間受けることができなくなります。

結果、この「組織的関与の有無」から、「連座制の適用」と「役員等の欠格事由に該当」という事業者にとって非常に重い行政処分が生じることになるのです。

まとめ

 今回は、障害者総合支援法に基づく特別監査が実施されるという報道を受け、特別監査実施に伴う指定取消と連座制の適用について、その制度や仕組みを確認してみました。

このような業務管理体制における特別監査(特別検査)が実施されるというような大きな不正が発生しなければ、このような指定取消や連座制についての記事をブログで書くことはなかったでしょう。

ただ、障害者総合支援法及び児童福祉法に基づく事業は、当然制度ビジネスなのです。そうであるならば、事業者として、この制度や仕組みをよく理解しておくことは非常に重要であると思います。

このような「連座制」が適用されるような不正事例をしっかりと理解することにより、逆に適切な事業運営を行ううえでの「大きなヒント」となることでしょう。

次回のブログでは、いよいよ、今回の不正を行った事業者の事例を具体的にあてはめながら書いてみたいと思います。

本日もブログをお読みいただき、ありがとうございました。

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