令和5年9月27日付の日本経済新聞によると「食材費過大徴収で監査」という記事が掲載されました。内容は監査対象となっている運営事業者が、東海・関東地方を中心に12都県、約120箇所もの事業所を運営している大手運営会社だったのです。
このような形で、厚生労働大臣が記者会見を行い、障害者総合支援法に基づく特別監査(特別検査)に乗り出すということですが、私が知り得る限りで、このような形での記者会見は平成18年に発生したコムスン事件以来なのではないでしょうか。
これを受け、私はこのブログにおいて、以下の①、②とブログを書き進めてきました。
①指定障害福祉サービス事業者等における連座制と業務管理体制成立の背景について
③指定障害福祉サービス事業所の不正に対し「連座制」が適用されるか考える【本記事】
そして、今回は③として、大手運営事業者における実際の不正の状況や監査の状況を踏まえ、今後、この事業者の不正に対し「連座制」が適用されるかについてブログにおいて、検討したいと思います。
実際には、報道等の限られた情報の中ではありますが、早速今回の大手運営事業者の不正の状況や監査の状況を確認しながら、話を進めていくこととします。
当該事業者の不正の内容と指定権者による監査の状況を確認する
この不正を行った事業者は、愛知県をはじめ東海・関東地方を中心に12都県、約120箇所もの事業所を運営している大手運営会社です。
事業者が運営する指定共同生活援助(グループホーム)では、食材料費については、厚生労働省令(平成18年厚労171)第210条の4第1項において、利用者より「食材費」の実費を受け取ることができるのが原則です。
しかしながら、当該大手運営事業者が運営する指定共同生活援助(グループホーム)において、定期的に施設の帳簿を確認している岡崎市より、令和4年5月ごろ「市内にあるグループホームが利用者の食材料費について、水増しして徴収している疑いがある」旨、愛知県に情報提供がありました。
前述のとおり、指定共同生活援助(グループホーム)では、利用者より「食材費」の実費のみを受け取ることはできますが、上記の状況を受け、愛知県では令和5年12月より、当該運営事業者の本社や愛知県内の施設に対しての監査を実施しました。
この監査の結果において判明したのは、「利用者より食材費(実費)を超える金額を徴収していることが確認された」のです。
これを受け、厚生労働省においても本年6月に、当該運営大手運営事業所の施設が存在する地方公共団体に対し、その実態を調査するように通知を発出しました。
こうした中で、川崎市に所在する施設について監査を実施したところ、やはりこの施設では、令和4年5月までの1年4カ月に渡り、利用者の食材料費は本来であれば月7,500円程度であるにも関わらず、利用者から約24,000円の食材料費を徴収していたことが判明しました。
この利用者に対する過大に請求した食材料費は、合計430万円余りにものぼり、この超過徴収分については、令和5年1月に当該運営大手事業者に対し、川崎市の指導を受け、全額利用者に返還したとのことです(このブログの事実関係については「2023年9月21日付 NHK NEWS WEB記事を参考に記述しました」。
〇指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準
第210条の4 第3項(利用者負担額等の受領)
指定共同生活援助事業者は、前2項の支払を受ける額のほか、指定共同生活援助において提供される便宜に要する費用のうち、次の各号に掲げる費用の支払を支給決定障害者から受けることができる。
一 食材料費
当該大手運営事業者の不正内容についての論点整理について
この当該大手運営事業者における不正は、指定障害福祉サービス事業を行ううえで、厚生労働省令210条の4 第3項第1号において利用者から受けることができる費用は、「食材費」として明確に定められている。よって、これを上回る食材料費を水増しして請求していたことについては、明らかに事業所として運営基準違反である。
そして、単に利用者に対する食材料費の水増しに止まらず、これは利用者に対する「経済的虐待」に該当するものと思われます。
つまり、この当該大手運営事業者は、利用者に対する虐待の防止の取組みはどのようになっていたのかも気になるところです。
〇指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準
第213条準用(40条の2)(虐待の防止)
【準用のため読み替える。「指定居宅介護事業者」⇒「指定共同生活援助事業者」】
指定居宅介護事業者は、虐待の発生又はその再発を防止するため、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
一 当該指定居宅介護事業者における虐待の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。
二 当該指定居宅介護事業所において、従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること。
三 前二号に掲げる措置を適切に実施するための担当者を置くこと。
今回の不正に対する連座制の適用について
前項では不正内容についての論点整理より、今回の不正は「運営基準違反(食材料費の水増し請求)」、「障害者への虐待(経済的虐待)」であると思われます。
今回監査が実施され、不正が明らかとなった事業所に対しては、過去の不正の事例を勘案すると、指定取消をはじめとする行政処分が下される可能性が高いものと思われます。
次に連座制の適用の可能性の可否です。連座制が適用されるには、この不正が、「事業所単位の不正」であるのか、また会社が主導した「組織的関与の有無」があるのかを明確にする必要があります。
この「組織的関与の有無」について、明確にするため、今回厚生労働大臣が記者会見を行ったうえ、障害者総合支援法に基づく業務管理体制における特別監査(特別検査)が実施されることになったのです。この指定障害福祉サービス事業者等に対する管理業務体制の整備とその届出の義務付けは、平成24年4月から実施されており、この厚生労働大臣による特別監査を実施する根拠となります。
ここで、当該大手運営事業者による「組織的関与の有無」が明らかになった場合、間違いなく「連座制が適用」こととなります。
○「障害福祉サービス事業者業務管理体制確認検査指針」 3検査実施機関 5国
「当該指定事業所等が、二以上の都道府県の区域に所在する障害福祉サービス事業者、のぞみの園及び指定発達支援医療機関の設置者」
上記より、今回の特別検査の検査実施機関については「国」であり、業務管理体制の整備状況や、事業者の本部に立入検査を行うことにより、当該事案への組織的関与の有無を確認します。この事業者の本部への立入検査の目的・立入検査の視点は以下のとおりとなります。
○立入検査の目的
・指定取消事案などに対する不正行為の未然防止こと
・障害者支援制度の健全かつ適正な運営の確保を図ること
○立入検査の視点
・事業者の規模等に応じた適切な業務管理体制が整備されているか
・指定事業所の指定取消処分相当事案発覚の場合の組織的な不正行為の有無
→連座制適用の判断を行う。
【図1】
出典:令和3年度障害福祉関係指導監督等支援事業(都道府県・指定都市・中核市職員向け研修)より引用
【図1】のとおり、「連座制」の適用にあたっては、「◎の範囲内において」連座制が適用されることになります。これにより「同一類型の事業所についての新規指定拒否、並びに指定更新の拒否を受けること」になるのです。
まとめ
今回は、指定障害福祉サービス事業者の不正に対し「連座制」が適用されるのかをブログにて書いてみました。
当初は、この不正案件を書けば良いと考えていましたが、それが大きな間違いであると書いている途中で気づいたのです。その理由は、単に不正案件、特に今回は「連座制」が適用されるような、利用者の方々はじめ、社会的に大きな影響を与えるような不正案件であったのです。
その「連座制」を適用するのにあたり、必要なアプローチがあるはずです。
そのひとつが「指定障害福祉サービス事業者等における連座制と業務管理体制成立の背景について」でした。これは、介護保険法及び老人福祉法の一部改正に至る大きな影響を与えた「コムスン事件」に言及しなければ、「業務管理体制の整備」や「連座制の修正」という論点がなぜ出てきたのかを説明することができません。
また、「特別監査実施に伴う指定取消と連座制の適用について」を検討するのであれば、法48条の「監査」、法51条の3の「特別監査(特別検査)」との関係、そして何よりも連座制を適用するための判断根拠となる「組織的関与の有無」について言及する必要があるのです。
上記の大きな2つの論点を論じたからこそ、この「指定障害福祉サービス事業所の不正に対し「連座制」が適用されるか考える」を論じることができるのです。
実際、このように指定障害福祉サービス事業者の不正に対し、行政処分の可能性を踏まえつつ、不正事例を扱ったブログは、日本では初めてではないでしょうか。
さて、弊社では、様々な事業者の方々から行政処分についてのご相談を受けることが非常に多いのです。これに対し私たちは、運営されている事業所の状況や過去の運営指導や監査の状況を伺いながら、しっかりとした対応策をお答えするようにしています。
今回の事例を踏まえ、今私たちが事業者の方にアドバイスを求められたのであれば、次のように回答します。
行政機関に対し、誠実に対応し「虚偽報告や虚偽答弁を行わないこと」です。
仮に、運営されている事業所において、運営指導や実地指導、監査対応をはじめ、様々な行政対応に困るようなケースがございましたら、ぜひ弊社にご相談ください。
過去に様々な類型の運営指導や監査の行政対応を経験しておりますので、ご期待に沿うことが可能です。