障害福祉サービス事業者の連座制と業務管理体制について

障害者総合支援制度

令和5年9月に、厚生労働大臣が記者会見を行い、そこで大手運営事業者に対し、障害者総合支援法に基づく特別監査に乗り出すということが報道されました。

この厚生労働大臣による特別監査が実施される根拠は、障害者総合支援法等に定められた業務管理体制の整備等に関する条項によるものでしょう。

 指定障害福祉サービス事業者等に対する管理業務体制の整備とその届出の義務付けは、平成24年4月から実施されています。

実は、障害者総合支援法及び児童福祉法に定められた管理業務体制の整備とその届出が義務付けについてはきっかけとなる事件がありました。それは、平成19年に指定介護保険サービスにおいて発生した「コムスン事件」です。この事件が発生したことに伴い、介護保険法及び老人福祉法の一部が改正され、管理業務体制の整備とその届出が義務付けられ、介護保険法及び老人福祉法では、平成21年5月に施行されました。

今回の、障害者支援制度についてのブログを始めるにあたり、今回の厚生労働大臣による特別監査の実施に伴い、以下の項目を取り上げ、①~③の内容について、数回に渡りブログを連載したいと思います。

①指定障害福祉サービス事業者等における連座制と業務管理体制成立の背景について【本記事】
②特別監査実施に伴う指定取り消しと連座制の適用について
③今回の大手運営事業者に対する特別監査実施に伴う連座制適用の可能性について

コムスン事件の経過を確認する

 今回、指定障害福祉サービス事業者に対する特別監査が実施されますが、この指定障害福祉サービス事業者等に対する管理業務体制の整備とその届出の義務付けは、前述のとおり平成24年4月から実施されています。

 そしてこの指定障害福祉サービス事業者等に対する管理業務体制の整備とその届出の義務付けられたきっかけこそ平成19年に指定介護保険サービスにおいて発生した「コムスン事件」なのです。

 では、この「コムスン事件」を振り返ることにより、なぜ管理業務体制の整備とその届出が義務付けられたのか、また「連座制の一部見直し」や「休止・廃止届が事前届出制」が導入されたのかの理解を助けることができるのです。また、当該制度導入の背景や制度趣旨も併せて確認することができると思います。

 よって、本項では、平成19年において発生した「コムスン事件」について、当該事件を以下①~⑧のとおり、時系列で事件の概要、そして行政指導等に至るまでの状況を確認してみましょう。

【コムスン事件発生からの時系列の確認】

① ㈱コムスンが運営する事業所は、東京都への指定申請において管理者やサービス提供責任者の不在等の人員基準違反があるとして、介護保険法により都内事業所に対して、約50箇所の監査が実施される。この監査により事業所における人員基準等に違反があることが判明し、不正が発覚した。

② この不正の内容について、この指定申請時において記載があった訪問介護員等について、事業所開設時点より雇用実態が確認できなかったことが判明する。

③ この不正問題を受け、厚生労働省は㈱コムスンが全国に展開している事業所に対し、虚偽申請を行っていないか速やかに監査するよう都道府県に通知する。

④ 指定介護サービス事業者に対する「連座制」は、平成18年介護保険法改正により定められた。この監査により㈱コムスンが全国に展開している事業所に対する連座制の適用がなされる可能性が生じた。㈱コムスンは、この「連座制による厳罰化を回避する手段」として、監査により不正を指摘された事業所について自主廃業するという手段を用い行政処分を逃れようとした。つまり、㈱コムスンは監査対象となっている指定介護サービス事業所について、「行政処分を受ける前」に事業所を廃止することにより、行政処分の回避を図ったのだ。

⑤ この㈱コムスンの対応に対し、厚生労働省は㈱コムスンに対し指定介護サービス事業所の新規指定、事業所の更新について、平成20年4月~平成23年12月までの間、これを認めないとする行政処分を通知する。

⑥ この厚生労働省の行政処分の通知を受け、㈱コムスンの親会社であるグッドウィルグループは、「単なる名義変更」、「行政処分逃れ」とも取れる行動を取る。つまり㈱コムスンの全事業をグループ内の他の企業への事業譲渡を決定する。

⑦ この㈱コムスンの動きに対し、厚生労働省は行政指導として、「同一のグループ内の他の企業への事業譲渡は到底国民や利用者への理解は得られない」として、グループ内の他の企業に対する事業譲渡について、撤回を求める行政指導を行う。

⑧ ㈱コムスンは、この厚生労働省からの行政指導を受け、平成20年4月以降を目途に、事業を外部の企業へ事業譲渡を表明する。

 上記のとおり、このコムスン事件発生からの時系列を確認することを通じて、㈱コムスンの企業行動や厚生労働省の判断を理解することができたと思います。次項では、それぞれの項目をカテゴリーに分類して、その流れを確認したいと思います。

コムスン事件を確認することから分かる「3つの流れ」

 前項の①~⑧について、コムスン事件の発生から時系列での確認を行うと、「3つの流れ」があることが分かります。以下に箇条書きで書き出してみたので確認しましょう。

【3つの流れ】

・不正発覚から都道府県による監査の実施(①~③)
・㈱コムスンが監査を受け行政処分からどのように回避するか(④、⑥)
・厚生労働省による行政処分通知、行政指導そして事業譲渡受入れ(⑤、⑦、⑧)

 上記①~③について、㈱コムスンが運営する事業所による不正発覚に伴う都道府県による監査の実施ということで、これはコンプライアンスの意識が低い事業者によって発生する事例が時々見受けられます。

もちろん、このコムスン事件のきっかけともいえる①~③も大きな問題なのですが、それ以上に大きな問題、かつ社会的影響が大きかったのは、上記④、⑥の行動を取ってしまった㈱コムスンの企業行動です。

㈱コムスンによる④、⑥の企業行動は、いかにして行政処分から逃れるため、また行政処分を逃れつつ、いかに事業継続を行うのかという目的のためのみに企業行動しており、全く善意のかけらも無い、あり得ない考え方であると思います。

言い換えるのであれば、㈱コムスンは、この運営する事業所の監査に伴い、いかにして介護保険法の申請や老人福祉法の届出等の「法のスキマ」を突いて、「行政処分から逃れるか」という行動を取ったということなのです。

 そして、これら㈱コムスンが行った「法のスキマ」を突く行為を防止する制度こそ、平成21年5月に施行された介護保険法及び老人福祉法の一部改正であり、その法改正の中心となる仕組みこそが、この管理業務体制の整備とその届出が義務付けなのです。

 よって、私はこのコムスン事件を理解することなく、なぜ、この管理業務体制の整備とその届出が義務付けられたのかを理解することは困難であると私は考えます。

業務管理体制の整備に係る制度趣旨について確認する

障害者総合支援法及び児童福祉法では、事業者に対し事業者の不正事案を防止し、事業運営の適正化を図るために、法令遵守等の業務管理体制整備の義務付け、事業者の本部等に対する立入検査権の創設、不正事業者による処分逃れ対策等が定められています。

 ○障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)

 第六款 業務管理体制の整備等

第51条の2 第1項(業務管理体制の整備等)

指定事業者等は、第42条第3項に規定する義務の履行が確保されるよう、厚生労働省令で定める基準に従い、業務管理体制を整備しなければならない。

 〇児童福祉法

 第三款 業務管理体制の整備等

第21条の5の26 第1項(業務管理体制の整備等)

指定障害児事業者等は、第21条の5の18第3項に規定する義務の履行が確保されるよう、厚生労働省令で定める基準に従い、業務管理体制を整備しなければならない。

 指定介護サービス事業者に対し、前述のコムスン事件以前には、国・都道府県・市区町村では事業者の不正行為等に対する立入検査権限が無かったのです。これは事業者の組織的な不正行為への関与を確認する術が無い状況だったということです。

 このコムスン事件を受け、指定介護サービス事業者等に対して平成21年5月より介護保険法及び老人福祉法の一部が改正され、管理業務体制の整備とその届出の義務付けが義務付けられました。

これを受けるような形で平成24年4月からは障害者総合支援法及び児童福祉法においても、指定障害福祉サービス事業者等に対する管理業務体制の整備とその届出が義務付けられたのです。

その制度趣旨は、指定介護サービス事業者に対するものと同様、指定障害福祉サービス事業者等に対し、不正事案を防止し事業運営の適正化を図ることであり、具体的には【図1】、【図2】のとおり、法令遵守等の業務管理体制整備の義務付け、事業者の本部等に対する立入検査権の創設、不正事業者による処分逃れ対策等が定められています。

【図1】

出典:令和3年度障害福祉関係指導監督等支援事業(都道府県・指定都市・中核市職員向け研修)より引用

【図2】

出典:令和3年度障害福祉関係指導監督等支援事業(都道府県・指定都市・中核市職員向け研修)より引用

 ここまで業務管理体制の整備についての制度趣旨を確認してきました。次項では、この業務管理体制の整備における監督体制と整備基準について確認したいと思います。

業務管理体制の整備の監督体制について確認する

 障害者総合支援法及び児童福祉法においては、指定障害福祉サービス事業者等に対する管理業務体制の整備とその届出が義務付けられています。では、この業務管理体制の整備と監督体制を以下【図3】のとおり、確認したいと思います。

 業務管理体制の監督権者は、以下のとおり、国、市町村、中核市、指定都市、都道府県となることが分かります。

【図3】

出典:令和3年度障害福祉関係指導監督等支援事業(都道府県・指定都市・中核市職員向け研修)より引用

 この業務管理体制の監督権者の届出・報告先は非常に分かりにくく、また間違えやすいのです。その理由は、これは指定事業所の数が増加していくと場合によっては届出・報告先が変化するからです。とは言っても参考までに業務管理体制の監督権者の区分における「概ね目安」を以下に示します。

【業務管理体制の監督権者の区分における概ね目安】

 ①国   指定事業所等が2以上の都道府県に所在する事業者
 ②市町村 「特定相談支援事業、障害児相談支援事業のみ」を行う事業所であり、指定事業所が同一市町村内に所在する事業者
 ③中核市 指定事業所等が同一中核市内に所在する事業者(指定障害児入所施設除く)
 ④指定都市 全ての事業所等が同一指定都市内に所在する事業者
 ⑤都道府県 上記①~④以外の事業者 

 せっかくの業務管理体制の届出・報告を行おうとしても届出・報告先を間違えていれば二度手間となってしまいます。特に、指定事業所の数が市町村等の行政区域外に拡大していく場合には注意が必要です。

業務管理体制の整備の整備基準について確認する

この業務管理体制を整備するにあたり、事業者自らの事業規模に見合った合理的な体制を整備する必要があり、その整備基準を以下のとおり示します。その整備基準は事業者の規模や法人種別等により異なります。具体的には障害福祉サービス事業者は、事業所数に応じて以下の3点が義務付けられています(【図3】参照)。

・【小規模事業者:20事業所未満】法令遵守責任者の選任

・【中規模事業者:20事業所以上100事業所未満】法令遵守責任者+法令遵守マニュアルの整備

・【大規模事業者:100事業所以上】法令遵守責任者+法令遵守マニュアルの整備+法令遵守に係る監査の実施

【図3】

出典:令和3年度障害福祉関係指導監督等支援事業(都道府県・指定都市・中核市職員向け研修)より引用

本部等への立入検査の実施機関と目的について

 今回、この「指定障害福祉サービス事業者等における連座制と業務管理体制成立の背景について」というブログを書いたきっかけがあります。

それは、現在、厚生労働大臣より障害者総合支援法に基づく特別監査が実施されることとなりました。当該事業者は、東海・関東地方を中心に12都県、約120箇所もの事業所を運営している大手運営会社です。

この特別監査の検査実施機関は、厚生労働大臣となります(図2の区分①に該当)。その理由は、この監査対象となっている運営事業者が、東海・関東地方を中心に12都県、約120箇所もの事業所を運営しており、この場合は以下に該当します。

 ○障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)

 第六款 業務管理体制の整備等

第51条の2 第2項第4号(業務管理体制の整備等)

当該指定に係る事業所若しくは施設が二以上の都道府県の区域に所在する指定事業所等(のぞみの園の設置者を除く。第四項、次条第二項及び第三項並びに第51条の4第五項において同じ。)又はのぞみの園の設置者 厚生労働大臣

○「障害福祉サービス事業者業務管理体制確認検査指針」 3検査実施機関 5

当該指定事業所等が、二以上の都道府県の区域に所在する障害福祉サービス事業者、のぞみの園及び指定発達支援医療機関の設置者

上記より、今回の特別検査の検査実施機関については「国(厚生労働大臣)」であり、業務管理体制の整備状況や、事業者の本部に立入検査を行うことにより、当該事案への組織的関与の有無を確認します。

この事業者の本部への立入検査の目的・立入検査の視点は以下のとおりとなります。

○立入検査の目的
・指定取消事案などに対する不正行為の未然防止こと
・障害者支援制度の健全かつ適正な運営の確保を図ること

○立入検査の視点
・事業者の規模等に応じた適切な業務管理体制が整備されているか
・指定事業所の指定取消処分相当事案発覚の場合の組織的な不正行為の有無

→連座制適用の判断を行う

 「障害福祉サービス事業者業務管理体制確認検査方針」においても、検査等の実施に当たっての基本的考え方が示されています(抜粋)。

 ・検査等に求められるのは、障害福祉サービス事業者の規模・法人種別等に応じた適切な業務管理体制が整備されているかについて、的確な検証を行うこと。

 ・指定事業所等の指定取消処分相当の事案が発覚した場合における立入検査(以下「特別検査」という)は、法律に定められた正当な権限の行使であるが、事業所等の指定権限を有する指導監督部局(以下「指導監督部局」という)及び関係する都道府県、市町村の指導監督部局とも十分連携し、効率的かつ効果的な検証方法の選択に努めなければならない。

まとめ

 今回は、障害者総合支援法に基づく特別監査が実施されるという報道を受け、コムスン事件を振り返りながら、指定障害福祉サービス事業者等における連座制と業務管理体制成立の背景についての確認を通して、「本部等への立入検査の実施機関と目的について」までの流れを確認してみました。

今回のブログは、連座制と業務管理体制が成立した背景を確認でしたが、次回のブログ以降では、「特別監査実施に伴う指定取り消しと連座制の適用」について、そして今回の運営事業所に対する「特別監査実施に伴う連座制適用の可能性」について、今後どのように進捗していくのか意識しながらブログを書き進めたいと思います。

障害者総合支援法及び児童福祉法に基づく事業は「制度ビジネス」です。つまり、その源泉は公金(税金)であり、考えようによっては、行政機関による実地指導や監査が実施されることは至極当然なのです。そうであるならば予め、このようなリスクを織込みながらビジネスを進めることは事業者として必須です。

本日もブログをお読みいただき、ありがとうございました。

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