障害福祉サービス事業者の「申請」の行政法上の位置づけを確認する

障害者総合支援制度

障害者総合支援法や児童福祉法における事業所を開設する場合、行政機関への指定申請が必要です。この指定申請により必要書類等を申請、そのうえで事業所が開設可能となります。

この申請は、行政法上では「許可」、「認可」、又は何にあたるのでしょうか。

実は、介護保険法でも同様の論点を取り上げましたが、非常に大切な論点なので、ここでは、主に障害者総合支援法における手続きを再確認したいと思います(児童福祉法における指定申請は、障害者総合支援法における指定申請とほぼ同じなので、今回は障害者総合支援法に論点を絞り説明します)。

障害者介護サービスにおける指定申請について

 障害者総合支援法(以下「法」という)における事業所を開設する場合、次の根拠により事業者としての指定申請が必要となります。

(指定障害福祉サービス事業者の指定)

○障害者総合支援法第36条第1項

第29条第1項の指定障害福祉サービス事業者の指定は、厚生労働省令で定めるところにより、障害福祉サービス事業を行う者の申請により、障害福祉サービスの種類及び障害福祉サービス事業を行う事業所ごとに行う。

 上記のとおり、「厚生労働省令」で定めるところにより、障害福祉サービス事業を行う者の「申請」により、その障害福祉サービスの種類及び障害福祉サービス事業を行う事業所ごとに行うことにより、指定申請を受けて事業を行うことができるのです。

 前述の厚生労働省令で定める要件を満たす申請を行政機関に行った場合に、事業所の指定を受けることができるのですが、以下に参考までに、厚生労働省令のうち「居宅介護、重度訪問介護、同行援護又は行動援護に係る指定の申請等」について一部を抜粋します。

(居宅介護、重度訪問介護、同行援護又は行動援護に係る指定の申請等)

○障害者総合支援法施行規則第34条の7

 法第36条第1項の規定に基づき居宅介護、重度訪問介護、同行援護又は行動援護に係る指定障害福祉サービス事業者の指定を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書又は書類を、当該指定に係る事業所の所在地を管轄する都道府県知事に提出しなければならない。

一 事業所
二 申請者の名称及び主たる事務所の所在地並びにその代表者の氏名、生年月日、住所及び職名
三 当該申請に係る事業の開始の予定年月日
四 申請者の登記事項証明書又は条令等
五 事業所の平面図

以下、各号については省略します。

 つまり、居宅介護、重度訪問介護、同行援護又は行動援護に係る指定を受けようとする者は、この施行規則第34条の7に該当する書類を揃えて行政機関に申請することに事業所の指定を受けることができるのです。

 では、この書類を揃えて行政機関に申請すれば、必ず事業所の指定を受けることができるのでしょうか。

それは違います。

 仮に、これらの事業所開設に係る指定申請があっても、法第36条第3項に該当する場合は、その指定をしてはならないのです。

 では、次の項目は、その指定申請ができない場合を取上げたいと思います。

障害者総合支援法における事業所の指定申請ができない場合について

 原則として、法第36条第1項に該当する申請について、事業を行う者が申請を行い、障害福祉サービスの種類及び障害福祉サービス事業所ごとに行うことにより事業所を開設することができます。

ただし、以下の法36条第3項の各号のいずれかに該当する場合には、「指定をしてはならない」ものとしています。

○障害者総合支援法第36条第3項

 都道府県知事は、第1項の申請があった場合において、次の各号(省略)のいずれかに該当するときは、指定障害福祉サービス事業者の指定をしてはならない。

 では、申請しても、その指定に関する申請が認められないケースはどのようなケースでしょうか。参考までに上記各号で指定をしてならない者の一部を以下に記載します(法律をそのまま記載すると長くなるのであくまでの概略です。)。

一 申請者が都道府県の条令で定める者でないとき。
二 人員基準を満たしていないとき。
三 申請者が設備・運営に関する基準に従い適正な事業運営ができないと認められるとき。
四 申請者が禁固刑以上に処され執行を終わり、執行を受けることがなくなるまでの者。
五 申請者が介護保険、保険医療、福祉関係法にて罰金刑に処され執行を終えた者。
五の二 申請者が労働関係法にて罰金刑に処され執行を終えた者。
五の三 申請者が、社会保険•労働保険の保険料等について滞納している者。
六 申請者が指定取消を受け取消日から起算し5年を経過しない者。

以下、各号については省略します。

 この法36条第1項では事業を行う者は、障害福祉サービスの種類及び障害福祉サービス事業を行う事業所ごとに申請を行うこと、そして同条第3項において、申請があった場合でも指定をしてはならない場合が例示されています。

 では、次の項目では、この「申請」という言葉に着目します。

行政手続法における「申請」という言葉の趣旨を確認する

 この「申請」という言葉を、有斐閣の法律用語辞典(第5版)で調べると、このように記載されています。

申請・・・広く一般に行政庁に対して一定の行為を求めること。

 次に、この「申請」と言う言葉が、行政手続法ではどのような趣旨で使われているのかを調べてみましょう。

○行政手続法第2条第3項

申請」 法令に基づき、行政庁の許可認可免許 その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。

 上記の行政手続法第2条第3項における定義の中で、「申請」は上記のとおり説明されているのです。

 これを分かりやすく言い換えるならば、申請とは「法令に基づき許認可等を求める行為」であり、行政庁は、この行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきものであるといえるでしょう。

申請は許認可等のどの意味になるのか、また行政法の講学上の分類との整合性

 指定障害福祉サービス事業を行う者の「申請」により、障害福祉サービスの種類及び障害福祉サービス事業を行う事業所ごとに行うことにより、行政機関から事業所の指定を受け、事業を行うことができることは確認することができました。

 また、この「申請」は、行政手続法における「申請」であり、「法令に基づき許認可等を求める行為」であることも確認することができました。

 では、次にこの行政手続法第2条第3項では「申請」について法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為とあるが、この障害者支援サービス事業を行うにあたる「申請」は、この前述の①「許可」、②「認可」、③「免許」、④「その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分」の、いずれに当たるのでしょうか。

 これについて、以下、有斐閣法律用語辞典(第5版)を参考に用語の意味をと申請の実態を照らし合わせてみましょう。

①「許可

行政法上は、法令等による特定の行為の一般的禁止を特定の場合に解除し、適法にこれをすることができるようにする行政行為をいう。

(具体例)飲食店営業の許可、自動車運転の免許

②「認可

第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成させる行為。認可を受けないでした行為は無効である。

(具体例)学校法人の設立、鉄道運賃の決定

③「免許

一般的には許されない特定の行為を特定の者が行えるようにする行政処分。講学上の「許可」の意味で用いられる場合や権利能力、行為能力等を新たに設定する講学上の「特許」の意味で用いられる場合があり、一定していない。

 この上記の①~③を見ると、行政法の講学上の「許可」、「認可」、「免許」等の意味と用語の使われ方が、必ずしも一致しないことが分かります。

 そして障害者総合支援法において、障害福祉サービス事業者を行う者の「申請」によるが、この「申請」は、この①~③に当てはまらないことが分かります。

では、この④「その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分」についてはどうでしょうか。この障害福祉サービス事業の指定申請を受け、事業所を開設し運営開始することは、申請者にとって事業を通じて明らかに利益を受けることであり、この「自己に対し何らかの利益を付与する処分」に、この場合に該当すると思います。

 今回、このように障害福祉サービス事業の指定申請が、行政手続法第2条第3項の文言、上記の①~④のいずれに当てはまるのか、そのうえで行政法の講学上の分類と行政手続法との分類の整合性を探ってみました。

障害居宅サービス事業の指定申請について行政手続法上の届出に該当する可能性

 ここでは、行政手続法上の「申請」と「届出」を比較のうえ、障害福祉サービス事業の指定申請が、行政手続法における届出に該当する可能性があるかを検討したいと思います。

○行政手続法第2条第3項

申請」 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。

○行政手続法第37条

 「届出」が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合には、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。

 そもそも、法第36条第1項では、「~障害福祉サービス事業を行う者の申請により~」としている。法律の文言でいうのであれば、あくまでも「申請」であり「届出」ではないことが分かります。

 次に、この申請の文言について、行政手続法第2条第3項の「申請」ではなく、講学上の「届出」として、行政手続法第37条の「届出」とする余地はあるのでしょうか。

 この「届出」とは、上記のとおり「形式上の要件に適合」し、かつ「提出先機関の事務所に到達」したことにより、届出としての義務が履行されたものとされているのです。

 しかし、障害福祉サービス事業の指定申請を受けるということは、その指定申請を受けることを通じて事業開始し、申請者が事業を通じて利益を受けることができることは明白です。よって、これは行政手続法第2条第3項における「自己に対し何らかの利益を付与する処分」に該当すると思われます。

結果として、この障害福祉サービス事業の指定申請における「申請」とは、「届出」ではなく、やはり「許認可等」に該当するのだと思います。

まとめ

 今回、この申請たる一連の手続きは、行政法上では「許可」、「認可」、又は何にあたるのだろうかという問合せを受けたことが、この調べものの全ての始まりでした。

 確かに、日頃業務から考えると、その用語の意味や分類は、決して重要なことではないかも知れません。

しかし、障害者総合支援法や児童福祉法、行政手続法を読み込み、そして行政法の講学上の分類や意味合いを確認することは、今後行政機関との交渉においての根拠や裏付けとして、役立つものだと思います。

 ぜひ、このブログを、障害者総合支援法に関する手続きや行政手続きに関与する事業者の方々、そして行政担当者の皆様にもお目通しいただけますと幸いです。

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