令和5年12月19日付けで、令和6年度介護報酬改定に関する審議報告が発出、令和6年度介護報酬改定についても、1月下旬には具体的な単位数や加算の状況がいよいよ明らかになります。事業者としても、介護報酬改定の方向性が明らかになり、経営上、どうしてもその点を注視せざるを得ないことは理解することができます。
しかしながら、介護事業を含む様々な事業を行ううえで「コンプライアンス体制」を整備することこそが、事業を安定的に継続するうえで一番重要なことなのだと私は思います。
その証拠に、前回の令和3年度介護報酬では、以下の事項について、運営基準改正が行われました。
★指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(令和3年厚生労働省令第9号)
全ての介護サービス事業者を対象に利用者の人権の擁護、虐待の防止等の観点から、虐待の発生又はその再発を防止するための委員会の開催、指針の整備、研修の実施、担当者を定めることが義務づけられました(但し、施行日から令和6年3月31日まで経過措置あり)。
今回のブログでは、社会保障審議会介護給付費分科会において、「改定の方向性」として取り上げられた、以下の2点について、特に取上げたいと思います。
①「高齢者虐待防止の推進」
②「身体的拘束等の適正化の推進」
このブログを通じて、事業所として上記①②に対する運営体制が整っているのか、今一度、確認をしましょう。こうして審議会でも改定の方向性として取り上げられているということは、これを受けて運営基準や介護報酬に影響があり、かつその変更された箇所というのは、必ず運営指導において注視される箇所です。
高齢者虐待防止の推進
前述のとおり、養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止については、令和3年度介護報酬改定において、全ての介護サービス事業者を対象に、高齢者虐待防止措置(虐待の発生又はその発生を防止するための委員会の設置、指針の整備、研修の実施、担当者を定めること)を義務付け、3年間の経過措置期間を経て、令和6年4月より義務化します。
しかしながら、令和5年度に行った調査によると、高齢者虐待防止措置に関する体制整備の状況は、「実施済み」及び「令和5年度内に実施予定」をあわせて、いずれの項目も概ね9割前後となっています。
しかし、これはサービス種別によっても異なり、下記【図1】のとおり、居宅系サービスのうち福祉用具貸与、特定福祉用具販売、居宅療養管理指導についてはいまだ8割に達していない実状があります。
【図1】
出典:令和5年11月27日 第232回社会保障審議会介護給付費分科会資料6 P10より引用
上記【図1】より、利用者の人権の擁護、虐待の防止等をより一層推進する観点から、運営基準における高齢者虐待防止措置がとられていない場合は、基本報酬を減算することとなると思われます。
ただし、「福祉用具貸与・特定福祉用具販売、居宅療養管理指導」については、令和8年度末までの期間については減算の対象としない取扱いとします(経過措置期間を2年間付与)。
身体的拘束等の適正化の推進
介護保険法施行時に、「施設系サービスを中心」に身体的拘束等の原則禁止や身体的拘束等を行う場合の記録に関する規定を運営基準に設け、平成18年度には身体拘束廃止未実施減算(5単位/日減算)を新設、平成30年度に身体的拘束等の適正化のための措置(委員会の開催、指針の整備、研修の実施)に関する規定の新設と減算率の見直し(10%/日減算)等を行っている状況にあります。
このことから、現行の運営基準ではサービス種別ごとに、身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定の有無と、身体的拘束等の適正化のための措置の規定の有無が異なっているものの、【図2】のとおり、令和5年度に行った調査では身体的拘束等の適正化のための措置の取組は、施設系・居住系サービスや短期入所・多機能系サービスを中心に、全てのサービス種別で一定程度進んでいます。
【図2】
出典:令和5年11月27日 第232回社会保障審議会介護給付費分科会資料6 P13より引用
また、【図3】のとおり、身体的拘束等の適正化を更に推進する観点から、既に身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定があるサービス種別(短期入所・多機能系サービス)について、1年間の経過措置を設けた上で身体的拘束等の適正化のための措置を義務づける。
加えて、身体的拘束等を行う場合の記録や、身体的拘束等の適正化のための措置が行われていない場合に、基本報酬を減算する。
【図3】
出典:令和5年11月27日 第232回社会保障審議会介護給付費分科会資料6 P15より引用
つまり、以下に示すサービス種別①~④については、令和6年度介護報酬改定後、新たに「身体的拘束等の適正化のための措置に関する規定」、「身体拘束廃止未実施減算」を受けるということです。
①(介護予防)短期入所生活介護
②(介護予防)短期入所療養介護
③(介護予防)小規模多機能型居宅介護
④看護小規模多機能型居宅介護
また、【図3】を引き続き、ご覧いただくと身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定のないサービス種別(訪問・通所系サービス等)⑤~⑱について、令和6年度介護報酬改定後、新たに身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定に対応する必要があります。
⑤訪問介護
⑥通所介護
⑦居宅介護支援
⑧(介護予防)訪問入浴介護
⑨(介護予防)訪問看護
⑩(介護予防)訪問リハビリテーション
⑪(介護予防)居宅療養管理指導
⑫(介護予防)通所リハビリテーション
⑬(介護予防)福祉用具貸与
⑭(介護予防)特定福祉用具販売
⑮定期巡回・随時対応介護看護
⑯夜間対応型訪問介護
⑰地域密着型通所介護
⑱(介護予防)認知症対応型通所介護
施設・事業所の指定取消等処分の件数(人格尊重義務違反)
国としても以下【図4】のとおり、平成12年度より「身体拘束ゼロ作戦推進会議の開催」に始まり、都道府県や市町村、施設においても身体拘束ゼロへの取組みを行ってきてきます。
【図4】
出典:令和5年11月27日 第232回社会保障審議会介護給付費分科会資料6 P26より引用
また、高齢者虐待についても【図5】のとおり、冒頭でも述べましたが運営基準改正における虐待防止規定を創設し、その取組をおこなってきてきます。
【図5】
出典:令和5年11月27日 第232回社会保障審議会介護給付費分科会資料6 P24より引用
しかしながら、【図6】のとおり、施設・事業所の指定取消等処分の件数(人格尊重義務違反)を確認すると、結果として残念ながら、各年度一定件数の人格尊重義務違反を理由とした施設・事業所の指定取消等処分が発生していることが分かります。
【図6】
出典:令和5年11月27日 第232回社会保障審議会介護給付費分科会資料6 P17より引用
まとめ
今回のブログでは、改定方向性の中で「高齢者虐待防止の推進」、そして「身体的拘束の適正化の推進」について取上げられていましたので、注意喚起の意味でも掘り下げて取上げました。
特に【図3】に挙げましたが、身体的拘束の取扱いについて、サービス種別により取扱いの変更がありますので、以下に再掲します。ご確認のほど、よろしくお願いします。
★令和6年度介護報酬改定の後、新たに「身体的拘束等の適正化のための措置に関する規定」、「身体拘束廃止未実施減算」を受けるサービス種別。
①(介護予防)短期入所生活介護
②(介護予防)短期入所療養介護
③(介護予防)小規模多機能型居宅介
④看護小規模多機能型居宅介護
★令和6年度介護報酬改定の後、新たに「身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定」を受けるサービス種別。
⑤訪問介護
⑥通所介護
⑦居宅介護支援
⑧(介護予防)訪問入浴介護
⑨(介護予防)訪問看護
⑩(介護予防)訪問リハビリテーション
⑪(介護予防)居宅療養管理指導
⑫(介護予防)通所リハビリテーション
⑬(介護予防)福祉用具貸与
⑭(介護予防)特定福祉用具販売
⑮定期巡回・随時対応介護看護
⑯夜間対応型訪問介護
⑰地域密着型通所介護
⑱(介護予防)認知症対応型通所介護
今回もブログをお読みいただき、ありがとうございました。次回以降のブログもお楽しみに。