リハビリテーション・口腔・栄養の取組の一体化はより強化される

介護報酬改定

自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスを推進していくために様々な施策が講じられています。これを実現していくための情報収集をPDCAサイクルの推進を行うメルクマールがLIFE(Long-term care Information system For Evidence)なのでしょう。

また、このメルクマールを達成するための中心な具体策こそが「リハビリテーション・口腔・栄養」なのだと思います。

【図1】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料3  P8より引用

今回は、令和5年度9月15日に開催された社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)における「口腔・栄養(自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進)」の資料を見ながら、その方向性を見ていきたいと思います。

なぜ私が介護報酬を通じ、この「口腔・栄養」について確認をしていくことにしたのかと言えば、次のとおりです。

すでに介護事業に関わっている方々はご存じだと思いますが、厚生労働省が政策誘導を行う場合、介護報酬によって誘導することが常道だからです。

特に、この介護給付費分科会において議論される事項は、政策実現を図るため重要な事項であるはずだからです。

今回は、「口腔・栄養」の施策や方向性について、この介護報酬の変遷を見ながら介護報酬改定の方向性を確認したいと思います。

令和6年度同時報酬改定に向けた意見交換会、関連する課題・検討の視点を確認する

 令和6年度の介護報酬改定は、診療報酬改定との同時改定となります。よって「口腔・栄養」について介護報酬改定のみではなく診療報酬改定についても考えていくことが必要です。

 本項では、令和5年3月15日に開催された「令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第1回)」の資料より以下を抜粋します。

【表1】

出典:令和5年3月15日 令和6年度の同時報酬改定に向けた意見交換会(第1回)資料4より抜粋

 この同時報酬改定に向けた意見交換会における「リハビリテーション・口腔・栄養」についての主な意見を以下に示します。

【表2】

出典:令和5年6月28日 社会保障審議会介護給付費分科会(第218回)資料8  P29より引用

 この同時報酬改定に向けた意見交換会における意見の中では、「リハビリテーション・口腔・栄養の一体的な取組み」が求められています。具体的には以下のとおりです。

 ・多職種連携により速やかに評価・介入を行える体制の構築。
 ・リハビリテーション・口腔・栄養に係る一体的な計画書の多職種による計画作成。
 ・上記計画書の医療での活用。
 ・目標共有は理解できるが誰が中心となり、全体の進捗管理を行うかが重要。

 次項では、介護報酬改定における「口腔・栄養」関連の加算の推移とLIFEの変遷を確認し、両者の連携状況を確認したいと思います。

介護報酬改定における「口腔・栄養」関連の加算の推移とLIFEの変遷を確認する

介護報酬における「口腔・栄養」関連加算の推移を見ると、平成30年の介護報酬改定から大きな流れが始まったものと思えます。

この時点で新設・見直しされた加算を以下に、①施設系サービスと②施設系サービス以外とに分類して挙げてみたいと思います。

 ①施設系サービス

●平成30年度介護報酬改定

 ・口腔衛生管理加算(見直し)110単位/月→90単位/月
 ・低栄養リスク改善加算(新設)300単位/月
 ・栄養マネジメント加算の要件緩和 ※常勤管理栄養士1名以上の配置要件緩和
 ・再入所時栄養連携加算(新設)400単位/回 ※1回限り
 ・療養食加算(見直し)18単位/日→6単位/日

 ●令和3年度介護報酬改定

 ・栄養マネジメント加算(基本サービスに包括化) ※3年間の経過措置あり
 ・低栄養リスク改善加算(配置)
 ・栄養マネジメント強化加算(新設)11単位/日
 ・経口維持加算(Ⅰ)(Ⅱ)(要件緩和)
 ・再入所時栄養連携加算(要件見直し)200単位/回 ※1回限り

 ①施設系サービス以外

●平成30年度介護報酬改定

 ・口腔衛生管理加算(新設)30単位/月
 ・栄養改善加算の要件緩和 ※常勤管理栄養士1名以上の配置要件緩和
 ・栄養スクリーニング加算(新設)5単位/回 ※6月に1回を限度

 ●令和3年度介護報酬改定

 ・口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅰ)(新設)20単位/
 ・口腔・栄養スクリーニング加算(Ⅱ)(新設)5単位/回
 ・口腔機能向上加算(Ⅱ)(新設)160単位/月 ※原則3月以内、月2回を限度
 ・栄養アセスメント加算(新設)50単位/日
 ・栄養改善加算(要件見直し)150単位/回→200単位/回

 ※原則3月以内、月2回まで

  ・栄養管理体制加算(新設)30単位/月

冒頭でも、自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスを推進していくための情報収集とPDCAサイクルの推進を行うメルクマールがLIFEであり、このメルクマールを達成するための具体策が「リハビリテーション・口腔・栄養」だと述べました。

次に、平成30年度介護報酬改定における「口腔・栄養」関連の加算の推移と、【図2】に示すLIFEの変遷を比較すると、その推移と変遷との間に「時期的に」連携している動きが見られます。

【図2】

出典:令和5年8月30日 社会保障審議会介護給付費分科会(第222回)資料5  P9より引用

 では、次項では現時点、全サービスにおける「口腔・栄養」関連の加算についての加算を確認します。

全サービスにおける「口腔・栄養」関連の加算について確認する

 本項では、平成30年度、及び令和3年度介護報酬改定における全サービスの口腔・栄養関連の加算について確認します。

 これらの「口腔・栄養」関連の加算の状況を確認することにより、LIFEというメルクマールを達成するための具体策である「リハビリテーション・口腔・栄養」であることが再認識することができるはずです。また、令和6年度介護報酬改定において、この点を意識した加算が他のサービス類型においても導入される可能性が高いものと思います。

 まずは【図3】において「口腔」関連の加算を確認します。

【図3】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料3  P4より引用

 次に【図4】において「栄養」関連の加算を確認します。

【図4】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料3  P5より引用

 前項を踏まえ、【図3】と【図4】を確認するとひとつの流れが確認することができます。それは介護報酬における口腔・栄養関連の加算は平成30年介護報酬改定から流れが始まり、その始まりは、主に「施設系サービス」から始まり、令和3年度介護報酬改定では、「他の施設系サービス以外」に派生しているように見えるのです。

特に、施設系サービスでは以下の①と②加算項目が「基本サービス費に包括化」されています。

 ①口腔衛生管理体制加算 【図3】
 ②栄養マネジメント加算 【図4】 ※未実施減算▲14単位/日

(令和6年3月31日まで経過措置あり)

 「基本サービス費に包括化」ということは、加算が基本報酬に組み込まれるということです。このような状況になるという場合、一般的に以下のような理由が考えられます。

 ア 事業者の加算の算定割合が高い割合となった(概ね80%以上)。

 イ 当初加算の算定要件を基本報酬に組み込むことにより事業継続の必須要件とする。

 今回の施設系サービスでは、上記①と②加算項目について「基本サービス費に包括化」されていますが、その理由は、今回のケースでは「イ」にあたるのでしょう。

 施設系サービスについて、こうした加算を基本サービス費に包括化していくということは、自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスを推進していくために「口腔・栄養」関連の取組みに重きを置いている何よりもの証拠でしょう。

 今後、この「口腔・栄養」関連の取組みは、施設系サービス以外の類型にも、追従するような形で組み込まれていくことは間違いないでしょう。

施設・通所・居宅サービスにおける加算の算定状況について確認する

 前項まで、「口腔・栄養」関連の加算の算定状況を確認しました。自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスを推進していくために「口腔・栄養」関連の取組みが重要視されていることも理解できました。

では、次に現時点において、この「口腔・栄養」関連の加算が、施設系サービスをはじめ様々な類型において、いったいどのくらい実際に算定されているのかを確認したいと思います。

【表3】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料3  P6より引用

 【表3】のとおり、施設系サービスにおいて比較的算定率が高い加算は以下のとおりです。

 ・経口維持加算Ⅰ
 ・経口維持加算Ⅱ
 ・療養食加算
 ・栄養マネジメント加算

 上記のうち、「療養食加算」について算定割合が特に高く、介護老人保健施設において、その算定割合は「93.2%」に達している。

【表4】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料3  P7より引用

 【表4】のとおり、通所系・居宅系サービスにおいて比較的算定率が高い加算は以下のとおりです。

 ・口腔衛生管理体制加算(居宅系サービス)

 通所系サービスについての「口腔・栄養」関連の加算の算定率は、10%以下がほとんどであり、算定率がわずか1%にも満たない加算項目が数多く存在しています。

これは、通所系サービスの事業者にとって、「加算算定要件のハードルが高い」、若しくは「加算算定を算定するにあたっての手間と報酬が割に合わない」かのいずれかなのだと思われます。

 たとえ「口腔・栄養」関連の取組みが、自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスを推進していくために重要視されているといえど、加算があまりにも算定しにくい状況では、政策誘導にもならないことは明白です。

 この点は、今後令和6年度介護報酬改定においては調整が必要なのでしょう。

次に、居宅系サービスにおける「口腔衛生管理体制加算」については20%~45%程度算定されているものの、やはり他の項目についての加算の算定率は10%以下がほとんどです。

 また、居宅系サービスについては、この「口腔・栄養」関連の加算設定は、令和6年度介護報酬改定において、今後、加算の算定が検討されていくのだと思います。

まとめ

 冒頭にも申し上げましたが、自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスを推進していくために様々な施策が講じられています。

これを実現していくための情報収集をPDCAサイクルの推進を行うメルクマールがLIFEであり、このメルクマールを達成するための中心な具体策こそが「リハビリテーション・口腔・栄養」なのだと思います。

 今回のブログでは、現時点までの「口腔・栄養」関連の加算を確認し、令和6年度介護報酬改定の「口腔・栄養」関連の加算の方向性等も確認しました。

前述しましたが、たとえ「口腔・栄養」関連の取組みが、自立支援・重度化防止を重視した質の高い介護サービスを推進していくために重要視されているといえど、加算があまりにも算定しにくい状況では、政策誘導にもならないのです。

よって、この点は今後の介護報酬分科会の中でも議論されていくものだと思います。

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