監査に引っかかった場合の介護報酬の計算方法や端数処理、返戻手続きを理解していますか?

行政処分(返戻・指定取消・連座制)

現在、私の会社でも令和6年度介護報酬改定の業務をお手伝いすることが多いのです。そうした中で重要事項説明書の作成・修正において、介護報酬の単位数(基本報酬・加算部分)の求め方や端数処理、そして介護報酬金額の求め方や端数処理を理解していない事業者の方々を目にすることが多く、驚いています。

なぜ、介護保険に関する仕事に従事しているのに知らない(興味がない)のか伺うと、だいたい以下の2つの回答が多いのです。

 ①現場をやっているから知らない。
 ②介護報酬を算定するソフトに入力するから知らない。

しかし、事業を行ううえで、また介護事業者として、その本業たる介護報酬の算定方法が朧気であるなんていうことはあり得ないと思います。そういった意味で、今回は、介護報酬を算定するにあたっての「端数処理」の振り返りと、このような事態が生じ、実際に介護報酬の算定が必要(顧客への説明等)となるのは、介護報酬の返戻が生じた時であると思います。

今回のこの点を捉えて、後半では過誤申立、「通常過誤」、「同月過誤」について説明したいと思います。

介護報酬の計算方法の基本

介護報酬の算定にあたっては、それぞれの介護サービスにおける単位数があります。これを基本として導きます。

 それぞれの介護サービスの報酬には大きく分類し、以下のとおり「包括報酬」と「出来高報酬」による基本報酬部分が存在します。

そして加えて「加算部分」、「減算部分」が算定されています。大雑把にいうと、この基本報酬部分と加算部分を加えて介護報酬の単位数を求める場合の端数処理は、「四捨五入」となります。つまり以下のとおりです。

 そしてこの介護報酬の単位数を求める場合の端数は、都度「四捨五入」として計算を行い、絶えず「整数値」に割合を乗じ、計算を行うことを忘れてはなりません。

①介護報酬の単位数を求める場合の端数処理・・・1単位以下の端数は「四捨五入」

次に上記「介護報酬の単位数」を求めたものに、介護サービス種類・地域区分に応じた「1単位あたりの単価」を乗じて介護報酬の全体の金額(介護保険負担金額+自己負担金額)を求めます。この場合の1円未満の端数処理が出た場合は、「切り捨て」となります。

②介護報酬の全体の金額を求める場合の端数処理・・・1円未満の端数は「切り捨て」

これで、介護報酬の全体の金額は求められたわけですが、この介護報酬の全体の金額には、前述のとおり「介護保険負担金額」と「自己負担金額」が存在しますので、この部分の求め方を確認してみます。

ア 介護保険の全体の金額×0.9(介護保険金額:自己負担金額が1割の場合)

③介護保険負担金額を求める場合の端数処理・・・1円未満の端数は「切り捨て」

何よりも、ここで注意すべきは、アの計算方法のとおり、「介護保険金額」を先に求めるということが大切です。

 最後に、介護保険における自己負担金額の求め方です。

イ 介護保険の全体の金額-ア=自己負担金額

④自己負担金額を求める場合の端数処理・・・上記③時点で整数値なので端数処理無し

介護報酬を求めるにあたっての端数処理をまとめる

 上記1では、介護報酬の計算方法の基本として、算定方法と端数処理を表したが、ここで、「端数処理」のみを纏めて記載します。

①介護報酬の単位数を求める場合の端数処理・・・1単位未満の端数は「四捨五入」

              ↓

②介護報酬の全体の金額を求める場合の端数処理・・・1円未満の端数は「切り捨て」

              ↓

③介護保険負担金額を求める場合の端数処理・・・1円未満の端数は「切り捨て」

              ↓

自己負担金額を求める場合の端数処理・・・上記③時点で整数値なので端数処理無し

 上記①~④の通りの端数処理となります。この端数処理の手順を守らないと、それぞれの時点における金額に差異が生じてしまいますので注意が必要となります。

過誤申立とは?

運営指導や監査を受けて、自主検査を行い、必要に応じて過誤申立てを行う場合があります。

この場合、国保連に対し事業所から送付済みの介護保険給付費請求データの取下げを行いますがこの申立てを過誤申立と言います。つまり、返戻を行うために事業者は国保連に対し過誤申立手続きを行い、事業所側が受け取った介護保険給付費を各保険者に返還することが必要なのです。

 ここで注意しなければならないのは、この過誤申立手続きは、この介護保険給付費についての請求を「取消」するのみの行為なので、併せて事業所は修正後の介護保険給付費について再請求をすることが必要な場合があるということです。

同月過誤と通常過誤との違いは?

 実は、過誤申立には以下の2種類が存在するのです。

 ①通常過誤
 ②同月過誤

上記の①の通常過誤とは以下の内容を指します。

「国保連での過誤処理を行った翌月以降に事業所の介護保険給付費の再請求を行う方法」です。

つまり、過誤処理を行った月と介護保険給付費の再請求を行う月がズレますので、当然相殺処理をすることはできません。

 また、②の同月過誤とは以下の内容を指します。

「国保連での過誤処理と事業所の介護保険給付費の再請求を同月に行う方法」です。

つまり、国保連での取下げと介護保険給付費の再請求を同じ月に処理を行うことができることから同月過誤という名称となっています。この同月処理によることで相殺可能になるという仕組みになっているのです。

過誤申立には、上記の①②の2種類があるのですが、一般的には「通常過誤」が原則であると言われています。つまり、行政機関(保険者)によっては過誤申立の手続きを行った場合、特に指定等が無い場合、「通常過誤」により処理することが必要となります。

 ここで、以下に「通常過誤」と「同月過誤」の相違点をまとめます。

ア 同じ点・・・どちらも介護保険給付費についての請求を取下げる行為

イ 違う点・・・介護保険給付費について同月過誤は相殺が可能、通常過誤は相殺ができない。つまり、「取下げのタイミング」が違うこと

通常過誤と同月過誤の流れ、単位の動きについて確認する

 通常過誤や同月過誤と言っても「時間の流れ」や「単位の動き」が非常に分かりにくいと思います。

よって、以下のとおり、具体例を提示します。

①通常過誤

ア 時間の流れ(4月を通常過誤)

ⅰ 4月10日請求分については通常過誤不可(5月に行う)

※理由⇒国保連審査が未決のため

ⅱ 保険者に「通常過誤」の申立書を提出(5月15日頃)

ⅱ 保険者から国保連へ通常過誤データの提供(5月20日頃)

ⅲ 国保連で過誤処理(5月下旬)

ⅳ 国保連より過誤決定通知が届く

ⅳ 過誤決定通知に基づき事業所が再請求を行う(6月10日頃)

イ 単位の動き

【前提】

4月請求分:請求取下げ単位数1000単位、正しい請求単位数1500単位の場合

【単位の動き】

ⅰ 5月: ▲1000単位

ⅱ 7月:   1500単位

②同月過誤

ア 時間の流れ(4月を同月過誤)

ⅰ 保険者に「同月過誤」の申立書を提出(4月締切日)

ⅱ 保険者から国保連へ同月過誤データの提供(5月初旬)

ⅲ 事業所が再請求を行う(5月10日頃)★通知がないので要注意!

ⅳ 国保連での過誤処理と請求審査手続き(5月中)

イ 単位の動き

【前提】

4月請求分:請求取下げ単位数1000単位、正しい請求単位数1500単位の場合

【単位の動き】

ⅰ 4月請求:  0単位(同月過誤申立のため、4月分は5月審査へ)

ⅱ 6月支払:  500単位(1500単位-1000単位)

事業者にとっての通常過誤と同月過誤のメリットとデメリットとは何か?

 監査等で返戻となる場合、事業所にとって「通常過誤」と「同月過誤」のどちらを採用するのかは、「資金繰り」や「事業所としての手間」を考えるうえで、非常に重要なマネジメントです。

ここで通常過誤と同月過誤のメリットとデメリットを以下に示し、実際に事業所が返戻を行わなければならない場合、その金額の大きさやタイミングに応じて、対応することが非常に重要です。

①通常過誤のメリットとデメリット

【メリット】

・再請求のタイミングで国保連から過誤決定通知書が届くので請求忘れが起こりにくい

・過誤申立と再請求(過誤決定通知書受領後)のタイミングが異なり時間的余裕がある

・過誤の原則的な方法である

【デメリット】

・介護保険給付費の過誤と再請求月がズレることから相殺はできない

・当月審査で請求した請求は通常過誤での取下げはできない

・相殺ができないが故に事業所のキャッシュ変化が大きくなる

②同月過誤のメリットとデメリット

【メリット】

・介護保険給付費を同月処理で相殺できる

・相殺できるが故に事業所のキャッシュ変化を抑えることが可能

・当月審査で請求した請求はでも取下げができる

【デメリット】

・再請求のタイミングを間違えると相殺ができなくなる恐れがある

・再請求のタイミングで国保連から過誤決定通知書から届かない

・手続き期間が非常にタイトである

・行政機関(保険者)によって取扱わない場合がある

 上記のとおり、同じ返戻手続きであっても、通常過誤を採用するのか、また同月過誤を採用するのか、おのおのの特性を把握し、事業所としてしっかり対応したいものです。

まとめ

自分の顧問先で事業所が介護保険事業を行うということは、介護サービスを提供して介護報酬を得ることです。この介護報酬を請求するために事業所は、国保連に請求し、そのうえで請求した月の翌々月に介護報酬は事業所に支払われる形となっています。

 基本的な請求の流れは、事業所としてそれこそ毎月行っている手続きなので、分からないことはないと思います。反面、これが運営指導や監査を原因として事業所が介護報酬を返戻しなければならないとなると、この返戻は頻繁に起こるものではないので迷うことが多いのです。

 今回も、介護保険事業を行ううえで、介護報酬の求め方、端数処理、過誤申立に至るまで、介護保険にかかる「お金の処理方法」に拘り、ブログを書いてみました。

このブログをお読みになられた事業者の方は、介護ソフト頼りではなく、是非ご自分の手で介護報酬を求める手順を確認しておくことをお勧めします。

介護保険を利用する者からすると、介護保険を生業とする事業者が、介護報酬の求め方も分からないということであれば、当然信頼を得ることができないことは明白です。

今回のブログをお読みいただき、誠にありがとうございました。次回のブログもお楽しみに。

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