実地指導や監査の流れや形態を把握することも重要であると思われます。
しかし、実際に指定居宅サービス事業者の指定取消事例を取上げ、どのような事例に該当する場合に指定取消等の行政処分を下されているか把握することが重要であると思います。
これから行政処分がくだされた事例を取上げ、これに対してその論点を明確にしていきたいと思います。
指定取消となる理由
そもそも、行政機関も介護サービス事業者に対し、監査等を通じて何でもかんでも行政処分を下したいわけではありません。しかし、以下のような事実が確認できた場合、介護保険法第77条1項各号により指定取消処分等を行うこととなります。
今回の指定取消事例では、以下の2項目の事実確認に伴い、指定取消の行政処分が下されることとなりました。
- 人格尊重義務違反(高齢者虐待)
- 不正請求(サービス提供実態が不明、出勤記録がない訪問介護員による記録等)
つまり、この具体的な事例から言えることは、介護サービス事業者側が「人格尊重義務違反」と「不正請求」として、行政機関から監査に基づきその事実を確認されたのであれば、高い確率で指定取消となるということが分かると思います。
行政処分の内容を確認する
今回の行政処分の理由を見ると訪問介護事業所においてその不適切な事例が発生していたことから当該事業所は指定取消処分となりました。
また、同住所において訪問看護事業所が同じ法人の代表社員により運営されていることからも、全部効力停止(3カ月)という連座制の適用があったと思われます。
- 訪問介護事業所については「指定取消」
- 指定訪問看護事業所については「全部効力の停止(3カ月)」
ちなみに全部効力停止とは、一定期間、指定により認められている介護保険上のサービス全ての提供ができなくなることを指します。
つまりこの期間に事業所として介護サービスを提供したとしても介護保険給付を受けることができないということとなります。
行政処分を受けた理由を確認する
今回の訪問介護事業所では行政処分として指定取消を受けているが、その具体的な原因は以下のとおりです。
- 人格尊重義務違反(高齢者虐待)
- 不正請求(サービス提供実態が不明、出勤記録がない訪問介護員による記録等)
この高齢者虐待の具体的な内容は不明であるが、一般的には身体拘束や、利用者の人権を貶めるような言動を訪問介護員が行っていたことが該当すると思われます。
また、不請求については、そもそも訪問介護は、ケアプランに基づき、利用者と訪問介護員が「1対1」で介護サービスの提供を受けることが原則です。
とするならば、そのサービス提供を行った訪問介護員の出勤記録が無かったり、また利用者に対するサービス提供実態を裏付けるような資料が無い場合は、不正請求として判定されてしまうのです。
訪問介護員が介護サービスの提供を行ったのであれば、必ずサービス提供記録にそのサービス提供時間やサービスを提供した訪問介護員の氏名を記載し、記録することが必須です。
そもそも訪問介護をはじめとする、居宅サービスについては、ケアプランに基づき利用者に対しサービス提供がなされるのが原則です。
訪問介護のサービス提供を行ったとしても、著しくケアプランの内容からかけ離れた介護サービス提供である場合についても問題がありますので十分注意しましょう。
具体的事例と行政処分の内容及び法的根拠(抜粋)
寝屋川市は、介護保険法の規定に基づき、令和5年3月31日付けで下記のとおり指定居宅サービス事業者の指定取消及び指定の全部効力の停止(3か月)を行いました。
事業種別
ア 訪問介護事業所(平成29年6月1日指定)
イ 訪問看護事業所(平成29年6月1日指定)
処分内容
ア 指定取消(令和5年3月31日)
イ 指定の全部効力の停止3か月(令和5年3月31日から令和5年6月29日まで)
行政処分の理由
①人格尊重義務違反
大東市長が利用者4人について、高齢者虐待の事実があったと認めたこと。
法的根拠
- 介護保険法第77条第1項第5号
指定居宅サービス事業者が、第74条第6項に規定する義務に違反したと認められるとき。
- 介護保険法第74条第6項
指定居宅サービス事業者は、要介護者の人格を尊重するとともに、この法律又はこの法律に基づく命令を遵守し、要介護者のため忠実にその職務を遂行しなければならない。
②不正請求
以下の理由により不正請求が認められる。
法的根拠
- 介護保険法第77条第1項第6号
居宅介護サービス費の請求に関し不正があったとき。
- 少なくとも令和4年1月から8月までの間、1人の訪問介護員が、同日同時間帯に複数の利用者にサービス提供した記録があり、誰が、いつサービスに入ったか不明でありながら、介護給付費を不正に請求し、受領したこと。
- 少なくとも令和4年1月から8月までの間、訪問介護事業所で勤務していることが勤務記録で確認できない時間帯の訪問介護員の名前でサービス提供記録を作成し、介護給付費を不正に請求し、受領したこと。
- 少なくとも令和4年1月から8月までの間、サービス提供記録にサービス提供時間又はサービス提供した訪問介護員の名前がなく、サービス提供の実態が確認できないにもかかわらず、介護給付費を不正に受領したこと。