介護経営調査委員会の数値から介護報酬改定を読む

介護報酬改定

今年の10月末には、社会保障審議会介護給付費分科会において、介護事業経営実態調査における各介護サービスの収支差率が明らかになります。この収支差率の内容により、令和6年度介護報酬改定において各サービスの報酬の概ねの動向が判明します。

さて、少し前の話とはなりますが、令和5年2月1日、介護給付費分科会において介護事業経営調査委員会が開催されましたが、その資料について今一度考えることが、今後の介護報酬改定における動向を検討するうえでも有用であると思われますので、今回これを取上げたいと思います。

「利益率」と「収支差率」の比較について

他の介護コンサルタントの方で、資料をただ説明している方もいらっしゃるが、それでは意味がないと思います。なぜなら、そもそも説明するにあたり、自分の考えがない説明は全く意味が無いと思っているからです。

さて、ここでは「令和4年度介護事業経営概況調査結果の概要」を基礎として、税理士であり、介護コンサルタントである私なりのあくまでも私見を述べたいと思います。

ここでは、まず「利益率」と「収支差率」の話をしたいと思います。

一般的に企業の損益計算表においては、いくつかの利益を示していますが、ここでは「税引き後当期純利益」を想定、「利益率」を用います(①)。

また、介護事業は介護保険収入が収入の大部分を占めています。確かに国保連を通じて請求のやり取りが行われるので入金時期に差異が生じるものの、これは現金主義と言って差し支えないと考えます。よって、介護保険収入では「収支差率」を用います(②)。

ここで会計的に違和感があるものの、僅少の差違とし①の利益率と②の収支差率との比較を以下のとおり行ってみます。

①民間企業・・・利益率 3~4% ⇒全ての企業の大まかな平均値とする

②介護サービス事業・・・収支差率 3.0% ⇒全サービス平均 令和3年度決算

※介護事業では、全サービス平均 令和2年度決算で3.9%であったので、令和3年度では前年対比▲0.9%ということになりました。

 つまり、大雑把に言うのであれば「介護報酬改定において、この①と②の数値を比較し、その差異が大きいのであれば、介護サービス事業について、介護報酬の見直しがなされる可能性が高くなる」ということとなります。

 ただ、実際には次項において各介護サービス事業の収支差率を着目しますが、実際の介護報酬改定においては、「この各介護サービス事業の収支差率が民間企業の利益率と比較して、どのようになっているのかが」ポイントになってきます。

今回の数値から言えることは、①と②の比較において、民間企業と介護事業者との「あくまでも平均値」としての話ではありますが、現時点「適正な利益水準に収斂している」とも思えます。

各介護サービス事業の収支差率に着目する

では、次に個別に介護サービス事業ごとの収支差率を見てみましょう。その理由は、前項において、「民間企業の利益率が3~4%」として、ここでは、前年対比に関係なく、令和3年度決算が、特に「収支差率が4%以上」の介護サービス事業に着目してみます。

(令和3年度決算)

介護医療院・・5.8%
訪問介護・・・6.1%
特定施設入居者生活介護・・・4.0%
居宅介護支援・・・4.0%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護・・・8.2%
認知症対応型通所介護・・・4.4%
小規模多機能型居宅介護・・・4.7%
認知症対応型共同生活介護・・・4.9%
看護小規模多機能型居宅介護・・・4.6%

皆さん、上記の各介護サービス事業を個別に見て感じることがありませんか。

つまり「政策誘導」されている介護サービス事業については概ね「収支差率が高い」ということが分かります。

具体例を挙げると、介護医療院は介護療養型医療施設等からの転換の経過期間のため、収支差率は高いのです(介護医療院についても平成30年度の介護報酬に比較すると加算、収支差率も低下傾向にありますが)。また、地域密着型サービスも、収支差率が高いのです。

では、ここで上記介護サービス事業のうち、「政策誘導に当てはまらず、収支差率が4%以上の介護サービス事業」については、そのようになるのでしょうか。

次項では、その原因となる理由を仮定し、具体的に例を取上げ、民間企業の利益率と各介護サービス事業の収支差率との比較を行ってみます。

民間企業の利益率と介護サービス事業の収支差率とを具体的に比較する

ここでは、前述2.の各介護サービス事業において、「政策誘導に当てはまらず、収支差率が4%以上の介護サービス事業」である「訪問介護」について数値を比較し、この収支差率が導かれている原因と理由を考えてみましょう。

①民間企業・・・利益率 3~4% (平均値)

②訪問介護・・・収支差率 6.1% (令和3年度決算)

こうして比較すると、訪問介護事業の収支差率②が民間企業の利益率①を大きく超過していることが明らかに分かります。

 確かに議論では、比較する民間企業の利益率には大企業も含まれており、対し介護サービス事業(訪問介護)は零細企業がほとんどであるという事実もあるでしょう。しかし、事実、上記「訪問介護」の収支差率は、民間企業の利益率を大きく超過している事実があるのです。

現在、訪問介護事業を行っていくうえで、人件費や水光熱費の高騰という周辺環境の変化もありますが、反面これだけ高い収支差率を叩き出しているという現状があるのです。

 これは、あくまでも数字上の比較という前提ではありますが、こうなると周辺環境が厳しくても、今回の介護報酬改定において訪問介護報酬の見直しは厳しい改定にならざるを得ないと予想されます。

 では、訪問介護について、なぜこれだけ収支差率が導かれているのかを、以下に私の仮説を挙げてみます。

・訪問介護で高齢者住宅に併設する事業所が「過剰なサービス提供」をしていること。

・新型コロナウイルス感染症が蔓延した関係で訪問介護のニーズが高まったこと。

いずれにせよ、これだけ民間企業の利益率を超過している収支差率を出している介護サービス事業、ここでは訪問介護を例に挙げましたが、現時点、次回の介護報酬改定では厳しい改定となるかも知れません。

よって、業界団体としても、社会保障審議会介護給付費分科会において、しっかりした取り組みが必要でしょう。

次に、一部の介護サービス事業の収支差率を除いては、すでに介護サービス事業における収支差率がある程度絞り切れているとも言え、今後は「収支差率に対する給与費割合」という論点の検討とならざるを得ないと思います。

この点について、「4.収支差率に対する給与費の割合」で言及します。

収支差率に対する給与費の割合

ここまで、「利益率と収支差率」、「各介護サービス事業の収支差率、「民間企業の利益率と介護サービス事業の収支差率とを具体的に比較する」についてみてきました。次に「収支差率に対する給与費の割合」をみたいと思います。

令和4年度概況調査における令和3年度決算において「収入に対する給与費の割合」の対前年比を見ると、ほとんどのサービスで人件費割合が増加していることが資料から分かります。

やはり、新型コロナウィルス感染症の影響、各サービスでの職員採用のコストや給料や手当の増加も大きな要因なのは理解することができます。そして人件費割合は個別の介護サービス事業者において、サービス提供態勢や施設管理の費用が異なるので、一概に比較は出来ない側面があります。いずれにせよ人件費について、事業者は相当の企業努力していることでしょう。

では、次に以下の2つのサービスを取り上げてみたい。それは、「①福祉用具貸与」と「②居宅介護支援」であり、今回の数値の比較で共通点があるからです。早速、以下の内容をご覧いただきたい。

①【福祉用具貸与】※対前年比
収支差率 +1.9%
収入に対する給与費の割合 ▲0.6%

②【居宅介護支援】※対前年比
収支差率 +1.5%
収入に対する給与費用の割合 ▲1.5%

上記サービスにおいて、数値が示す共通点は、「収支差率がプラスとなり、収入に対する給与費用の割合がマイナス」だと言うことです。

同じ数値の傾向を示すサービスは、③「訪問リハビリテーション」、④「夜間対応型訪問介護」、⑤「小規模多機能型居宅介護」ですが、③⑤はその数値が僅少であり、④は事業所数が少なく、かつ異常値とも思える数値が内包されているので、ここでは捨象します。

「②居宅介護支援」については、前回まで介護報酬改定の都度、基本報酬が切り下がり、また管理者は主任介護支援専門員である必要があり(新設の場合)、かつ経過期間を鑑みると、私はこの数値の意味合いを理解することができます。

よって居宅介護支援については、事業者側の報酬と言うより、今後利用者負担、つまり「ケアプランの費用負担」をどうするか、という論点が注目されるだろう(今回は「見送り」です)。

次に、「①福祉用具貸与」については、この数値、動向を見る限り、介護報酬改定が厳しくなるというより、「貸与対象から買い取りとなる流れ」が、間違いなく強くなるはずでしょう。

「令和5年介護事業経営実態調査の調査項目」について

ここでは、「令和5年介護事業経営実態調査」における調査項目において、重要な変更点を挙げてみよう。

⑥物価高騰対策に関する項目
⑦介護職員処遇改善支援補助金に関する項目
⑧特別損益に関する項目

⑥⑦は、現在の周辺環境を踏まえ、その説明の必要はないと思うので、ここでは割愛します。

しかし、⑧について、特別利益の実態を把握するため、「本部から事業所への繰入」が調査項目として追加されています。また、特別損失のうち本部への繰入額についても本来除外すべきものを適切に除外することが求められているのです。

 これは、今後、各介護サービス事業者が法人本部との内部取引を明確化し、事業単位の適切な利益把握と、これが従業員へ適切に還元されているかを把握することに他ならないのです。

ついに、単に収支差率や人件費割合という話ではなく、その数値の中身をより厳密に見ていくのだという財務省、厚生労働省等の決心が、この調査項目の変更点に現れているのだと、私は考えます。

まとめ

 今回の話は、少し前に開催された介護給付費分科会において介護事業経営調査委員会における資料を基に話を進めてみました。

 特に、介護サービス事業者の「収支差率」、そして民間企業の「利益率」の比較をしてみました。

今後、10月末には社会保障審議会介護給付費分科会で「介護事業経営実態調査における各介護サービスの収支差率」が明らかになります。この収支差率の内容で令和6年度介護報酬改定において各サービスの報酬の概ねの動向が見えてきます。

また、その時点で、また具体的な数値を当てはめて、令和6年度介護報酬改定の動向をみたいと思います。

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