有料老人ホームを開設するためには、行政機関と老人福祉法における事前協議や設置届等の届出を行い、事業を開始することが必要です。
今回、この老人福祉法に基づく有料老人ホーム事業者に対する行政処分が北海道旭川市でなされましたので、運営事業者は実際にどのような処分内容により行政処分が命じられたのか、その論点を明確にしていきたいと思います。
処分の理由となる事実
行政処分の理由を以下に記載しますが、やはり入居者に対する「身体的虐待」や特別立入検査に対して旭川市の職員に対し「虚偽の答弁」を行ったことが大きな原因であると言えます。
そして今回その事実が確認できたことから、老人福祉法第29条第15項により施設運営にかかる改善措置命令が出されることとなりました。
- 高齢者虐待の防止のための具体的措置を講ずること(高齢者虐待)
- 法令遵守を徹底すること(法令遵守)
やはり高齢者の生活を支える有料老人ホーム運営において、その入居者の尊厳を尊重していないような運営は、当然このような形で施設運営を改善するように行政処分が下されることとなるのです。
行政処分の内容に対する効果の範囲を確認する
今回の有料老人ホームについては老人福祉法に基づく行政処分ということになりますが、介護保険法の居宅サービス事業との行政処分の差異は以下の3点に現れるのではないかと私は考えます。
- 老人福祉法第29条各号における有料老人ホームは、行政手続法は届出による。よって、基本的に改善命令を発することが多く、いきなり同法第29条16項における運営停止に至ることは多くはないのではないか。
- 今回、この運営事業者の住宅型有料老人ホームには、当該運営事業者の運営における訪問介護事業所を始めとする居宅サービス事業所が併設されていなかった。よって、連鎖する形での不適切事例が発生しなかったこと。
- 確かに、老人福祉法第29条第16項において、「入居者の保護のために特に必要があると認めるときは、当該設置者に対して、その事業の制限又は停止を命ずることができる」とあります。しかし、仮に、入居者が生活する場となっている有料老人ホーム等の運営停止ということとなると、現在居住している方々の「新たな生活の場所を確保」しなければならないという責任が運営事業者並びに行政機関に生じることからも困難があったのではないかということ。
行政処分を受けた内容を確認する
今回の有料老人ホームでは、旭川市が老人福祉法の規定に基づき、令和5年4月18日付けで行政処分として改善措置命令を命じていますが、その具体的な内容は以下のとおりです。
やはり、行政処分を受けた理由については、繰り返しにはなりますが、「高齢者虐待」と「虚偽答弁」大きな理由であると思われます。
事業種別
住宅型有料老人ホーム
処分内容
行政処分(改善命令)
身体的虐待を行った(高齢者虐待)
- 住宅型有料老人ホーム(以下「当該施設」という。)の一部の入居者に対し、部屋の外から自転車のワイヤーロックのようなもので、廊下の手すりと居室のドアの取っ手を施錠し、中から自由に出られないような状態にし、身体的虐待(「緊急やむを得ない」場合以外に身体拘束・抑制を行う)を行った。
- 当該施設の一部の入居者に対し、無理矢理口の中に食べ物を入れるなど、本人の利益にならない強制による行為をし、高齢者を乱暴に扱った。
特別立入検査に対し、虚偽の答弁を行った。
当該施設の一部の職員は、特別立入検査中に旭川市福祉保健部指導監査課の職員からの質問に対し、次の内容について虚偽の答弁を行った。
- 当該施設の入居者に対し、部屋の外からワイヤーロックで、廊下の手すりとドアの取っ手を施錠し、中から自由に出られないような状態にしたにもかかわらず、「そのような事実はない」と答弁していること。
- 当該施設の入居者に対し、無理矢理口の中に食べ物を入れたにもかかわらず、「していない」と答弁していること。
今回の行政処分に対する法的根拠
今回の旭川市が有料老人ホームの運営事業者に対する行政処分の法的根拠は以下のとおりです。
- 老人福祉法第29条第15項
都道府県知事は、有料老人ホームの設置者が第6項から第11項までの規定に違反したと認めるとき、入居者の処遇に関し不当な行為をし、又はその運営に関し入居者の利益を害する行為をしたと認めるとき、その他入居者の保護のため必要があると認めるときは、当該設置者に対して、その改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。