実際に、行政機関により事業所に対し監査が実施され、行政処分が下されるとなった場合、事業所にとって不利益処分が下される場合がほとんどです。
では、事業所が具体的にどのような事業所運営を行った場合、監査が実施され、その事実確認に基づき行政処分が下されるのかを各項にて例示したいと思います。
「指定取消」「指定の全部の効力停止」「指定の一部の効力の停止」に該当する事例
ここでは、介護保険法第77条第1項各号のうち、監査に関係する事項につき、主な具体例を例示します。
つまり、事業所として以下の項目が生じている場合、この事実を行政機関が把握した場合には「監査が実施」され、かつ「行政処分」を下される可能性が高いということとなります。
自分の運営する事業所がこのような状況に陥っていないか、今一度確認をしましょう。
【監査が実施される具体的事例】※例示
- 事業所指定に係る人員基準違反である場合
- 設備及び運営に関する基準に従って適正な事業運営ができない場合
- 利用者の人格を尊重するとともに法令遵守義務に従わない場合
- 不正請求の存在する場合
- 報告又は帳簿書類の提出、提示を命じられてこれに従わず、虚偽の報告をした場合
- 行政機関からの出頭に応ぜず、質問に答弁せず、虚偽の答弁をした場合
- 行政機関からの検査を拒み、妨げ、忌避した場合
- 事業所指定にあたり、不正手段により指定を受けた場合
- 事業者がサービス提供に関し不正又は著しく不当な行為をした場合
行政機関により下される行政処分の効果
事業所に対して執り行った監査、そして監査を通じての事実把握に基づき、上記【監査が実施される具体的事例】が事業所に生じていた場合、行政機関は事業者に対し行政処分を下すこととなります。
また、行政機関により事業所に対して行政処分が下されるにあたり、その効果についての用語を以下のとおり確認しておきましょう。
【用語の確認】
- 「指定取消」・・・事業所として指定の取消を受けること
- 「指定の効力の全部停止」・・・一定期間、指定により認められている介護保険サービスを全て提供することができなくなること。
- 「指定の効力の一部停止」・・・一定期間、指定により認められている介護保険サービスの一部が提供することができなくなること(具体的には利用者の新規受入れができない等が該当します)。
上記のような行政処分を下されると事業所としてはどのような効果が生じるのか。
それは、この行政処分を受けた場合、指定事業者として利用者に対し介護保険を利用したサービス提供を行うことができなくなります(「指定の効力の一部停止」に伴う従来からの利用者は除く)。
つまり、事業者はこの行政処分を受けた場合、利用者に対し介護保険を利用したサービス提供を行うことができなくなり、「全て利用者の自費サービス」によるサービス提供ということとなります。
これは現実的ではありませんので、事業所の利用者には介護保険を利用することができる、恐らく他の事業所に移っていただくこととなるのでしょう。
都道府県知事は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該指定居宅サービス事業者に係る第41条第1項本文の指定を取り消し、又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる。
【法的根拠】※抜粋介護保険法第77条(指定の取消し等)
指定取消では終わらない介護報酬の返還請求!
指定取消は、改善の余地が無い、若しくは著しい不正があった場合に下される行政処分であり、事業者が介護サービスの提供を行うこと自体、不適切と判断された場合に行われるものです。
事業所にとって、指定取消ということは上記のように介護サービス事業を継続していくこと自体が出ないと行政機関に判断されたこととなりますが、例えば、この指定取消の原因となった行為が事業所の指定時点より生じていたと事実確認がなされた場合には、当該指定時点に遡って指定取消処分が行われる場合があるのです。
これに合わせる形で、当該時点に遡って介護報酬の返還請求が行われます。
加えて、事業所の不正請求の内容が特に悪質な場合、介護保険法第22条第3項に基づき「返還させるべき額に40/100を乗じて得た額を徴収することができる」という規定が定められています。
つまり、以下の介護報酬の返還金額が以下のとおりとなるということです。
介護報酬の返還金額(例)
5,000万円(介護報酬の返還金額)+2,000万円(追徴額)=7,000万円
指定取消・効力の停止処分のあった介護保険施設・事業所等の数内訳(サービス別)
以下の【図1】により令和3年度のサービス別の行政処分の状況が示されています。このことから言えるのは、指定訪問事業所について行政処分が他の介護サービスと比較し、突出していることが分かります。
【図1】出典:厚生労働省 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料(令和5年3月)
指定取消・効力の停止処分のあった介護保険施設・事業所等の内訳(年度別)
以下の【図2】において、行政処分の件数は平成26年度より平成29年度にかけて増加しているが、平成30年度以降は減少基調にあります。
しかし、令和2年度及び令和3年度については、行政処分が少ない件数になっているひとつの理由は、新型コロナウイルス感染症が蔓延したことに伴う運営指導の実施件数が低調であったことも挙げられるでしょう。
そうであるとすれば、今後、従来のとおり行政機関による実地指導や監査が執り行われるのであれば、令和5年度以降、行政処分の件数も増加して可能性があるのではないでしょうか。
【図2】
出典:厚生労働省 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料(令和5年3月)