身体拘束についての取組みと現状について確認する

身体的拘束適正化委員会

 身体的拘束等について、平成12年(2000年)の介護保険制度が施行された時点より、「原則禁止」として明確に指定基準に規定されています。平成18年(2006年)には、介護報酬において、「身体拘束未実施減算」を新設、また平成30年度には、身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会の定期的な開催と減算率の見直し等を行い、身体拘束廃止に向けた取組みを継続的に行っています。

このブログでは、現在までの身体的拘束等への取組みを確認するとともに、現状はどのような状況なのかを確認します。

また、令和6年4月より「全ての介護サービス事業者を対象」に、利用者の人権擁護、虐待防止等の観点から、高齢者虐待防止に関する取組みが義務付けられます。

今後、高齢者の尊厳保持、人権擁護の観点からも、この身体的拘束等を無くしていく取組みは非常に重要です。そして、こうした観点より身体拘束ゼロに関する取組みがどのように行われ、そして政策的にどのように繋がっていくのかについて、資料に基づき、確認していきたいと思います。

国や地方公共団体における身体拘束ゼロへの取組みについて

国は、介護保険制度が施行された時点より、身体的拘束を行ってはならないことを基準で明確に定めています。

〇指定介護福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令39号)

(指定介護福祉施設サービスの取扱方針)

第11条 第4項

 指定介護老人福祉施設は、指定介護福祉施設サービスの提供にあたっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない。

 次に、国や地方公共団体の身体拘束ゼロへの取組みについて、【表1】により確認したいと思います。

【表1】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料5  P11より引用

 上記【表1】のとおり、国や地方都道府県については、介護保険制度が施行された平成12年や翌平成13年に身体拘束ゼロに関する取組みが開始され、以降、身体的拘束防止するための教育や仕組みが次々と開始されていることが分かります。

 そして、これを追うような形で、平成17年には「高齢者虐待の防止、高齢者に対する支援等に関する法律(平成17年法律124号)」によって、国・地方公共団体の責務等、虐待防止等について定められました。そして令和6年4月より、全ての介護サービス事業者を対象に、高齢者虐待防止に関する取組みが義務付けられます。

 これらの取組みの流れを確認すると分かるのですが、「身体的拘束ゼロの取組みのほうが先に始まり、高齢者虐待防止に関する取組みがこれを追った形になる」のですが、どうしてなのでしょうか。この点について、次項では示していきたいと思います。

養介護施設従事者等における身体的拘束等の発生状況を確認する

 では、身体的拘束ゼロの取組みが先で、高齢者防止に関する取組みが、これを追った形になることは、次の【図1】を見ると分かると思います。

【図1】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料5  P12より引用

 この【図1】は、養介護施設従事者等による身体的拘束等の発生状況を示したものです。この図から分かることは、養介護施設従事者等における虐待を受けている高齢者のうち、約2割から3割程度の高齢者が「適切な手続きを経ていない身体的拘束を受けている」ということなのです。

 つまり、身体的拘束等を行うにおいて「緊急やむを得ない場合」として認められる3要件(切迫性・非代替性・一時性)を満たさず、かつ「指針整備や体制整備、適切な手続きを経ていない」場合、これは単なる「虐待」であり、「身体的虐待」に該当するということです。

 【図1】でも明らかのとおり、実際に養介護施設従事者等における虐待を受けている高齢者が「約2割から3割程度」も存在しているということは、養介護施設従事者等が身体的拘束に対して、以下のように考えていたという推測も成り立つのではないでしょうか。

・身体的拘束等を安直に考えている

・身体的拘束等が虐待(身体的虐待)に当たらないと考えている

・「要件に該当しない」、「適切な手続きを経ていない」場合でも問題がない

 つまり、やむを得ず身体的拘束等を行うにおいて、その要件に合致し、適切な手続きを経ていない場合、それは虐待(身体的虐待)でしかないということなのです。この身体的拘束等の取扱いを厳しく定めることをしなければ、この身体拘束等自体が「高齢者虐待の温床」となり得るのです。

 こうした「高齢者虐待の温床」となり得る身体拘束等の取扱いを、先ず厳しく取組みを行うことにしたのだと思います。よって、身体拘束ゼロの取組みのほうが先に始まり、高齢者虐待防止に関する取組みがこれを追った形になったのではないかと私は考えます。

身体的拘束等の適正化の推進、要件・手続き等について確認する

 身体的拘束等の適正化を図るため、平成30年度介護報酬改定において、居住系サービス及び施設系サービスについて、身体的拘束等の適正化のための指針の整備や、身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会の定期的な開催などを義務付けるとともに、義務違反の事業者に対して基本報酬を【図2】のとおり減額することとなりました。

【図2】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料5  P10より引用

 利用者に対して身体的拘束等を行う場合、以下のとおり、「緊急やむを得ない場合」として認められる3要件(切迫性・非代替性・一時性)に加え、次の指針整備や体制整備、適切な手続きを経ることが必要です。これらについて、改めて確認しておきましょう。

①緊急やむを得ない場合として認められる3要件
以下の3つの要件全てを満たす状態であることを「身体拘束廃止委員会」等で検討し、確認のうえ、記録しておくことが必要です。

ア 「切迫性」

「切迫性」の判断を行う場合には、身体拘束を行うことにより、本人の日常生活等に与える悪影響を勘案し、それでもなお身体拘束を行うことが必要となる程度まで、利用者本人等の生命又は、身体が危険に晒される可能性が高いことを確認する必要があります。

イ 「非代替性」

「非代替性」の判断を行う場合には、いかなる場合にも、まず身体拘束を行わずに介護する全ての方法の可能性を検討し、利用者本人等の生命又は身体を保護するという観点から、他に代替手段が存在しないことを複数のスタッフで確認する必要があります。

 また、身体拘束の方法自体も、本人の状態に応じ、最も制限の少ない方法により、行わなければなりません。

ウ 「一時性」

「一時性」の判断を行う場合には、本人の状態に応じ、必要とされる最も短い拘束時間を想定する必要があります。

②指針整備や体制整備、適正な手続きを経ること
身体的拘束等の適正化を図るために以下の項目の措置を講じることが必要です。

ア 身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録すること。

イ 身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3月に1回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他従業者に周知徹底を図ること。

ウ 身体的等の適正化のための指針を整備すること。

エ 介護職員その他の従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること。

 確かに、上記①、②のとおり「緊急やむを得ない場合として認められる3要件」、「指針の整備や体制整備、適正な手続きを経ること」が合致し、利用者に対して身体的拘束等を行うのであれば問題が無いようにも思えます。

しかし、要件に合致したからといって、安易に「緊急やむを得ないもの」として身体拘束等を行うことでは、結果として単に形式的に身体的拘束等の条件に合致したという状態を作り出し、結果「身体的虐待」と何ら変わりないということになってしまうのだと思います。

 こうしたことからも、利用者に対し、身体的拘束等を実施する場合、「緊急やむを得ない」という判断は、要件・手続きに従い、慎重に判断することが必要です。

介護保険施設・事業所における身体的拘束等の適正化に関する体制整備状況について

 令和3年度老人保健健康増進等事業「介護保険施設・事業所における高齢者虐待防止に資する体制整備の状況等に関する調査研究事業報告書」によると、【図3】のとおり、基準省令により身体的拘束等が原則禁止とされている介護保険施設・事業所における身体的拘束等の適正化に関する体制整備の状況は、いずれの項目も8割~9割程度となっています。

【図3】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料5  P13より引用

【図3】のとおり、指針整備や体制整備について、かなり整備状況が進捗していることが分かります。

そのひとつの理由には、前述の【図2】のとおり、平成30年後介護報酬改定において、各種施設系サービス•居住系サービスでは、「身体的拘束廃止未実施減算」として「10%/日減算」という強烈な減算項目が設定されたことがあるのだと思います。

まとめ

 身体的拘束等については介護保険制度が施行された時点より「原則禁止」として指定基準に規定されています。

これは、高齢者の尊厳保持、人権擁護の観点からも、安直に身体的拘束を認めてしまうと結果、その身体的拘束等自体が「高齢者虐待の温床」となるからも、現在に至るまで厳しい取組みがなされてきたのだと思います。

令和6年4月には、身体等拘束に関する取組みのみならず、「全ての介護サービス事業者を対象」に、利用者の人権擁護、虐待防止等の観点から、高齢者虐待防止に関する取組みも義務付けられます。

こうした点は利用者保護の観点から、間違いなく運営指導においても詳細に確認される事項です。

 こうしたように、制度や仕組みによって介護事業者や従業者を羈束し、継続的に啓蒙することは大切なことであると思います。それは利用者に接する従業者自身が、身体等拘束の適正化に関する取組みを理解し、真の意味での高齢者の尊厳保持、人権擁護の観点を理解していくことが必要なのだと思います。

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