総合事業についての議論を深める

介護保険制度

昨年の社会保障審議会介護保険部会において、介護認定において要介護1、2の認定を受けている方々について、そのサービスが介護保険ではなく総合事業に組み入れられるという論点は、次回介護報酬改定では見送りとなりました。

今回はたまたま見送りになったものの、またこの論点は先々議論の俎上になること間違いないでしょう。そうであれば、過去の事象、つまり総合事業が始まった2015年当時を振り返ってみることは、私は非常に意味があると思います(3年間の経過措置あり)。

そもそも総合事業とは

この総合事業は、要支援1、2の介護予防における「訪問介護」と「通所介護」の利用は、保険によるサービス提供ではなく、事業としてサービス提供を行って行こうというものです。

実は、2015年この総合事業が開始される以前の議論で、この総合事業について「要支援1、2の全ての介護予防のサービスについて、保険から事業へ移行させたら」という話も出ていました。

しかし結果として、総合事業の想定する様々なサービスを提供する主体、つまり地域資源たるボランティアやお元気な高齢者等が提供することが可能なサービスのみに限定されたのが実情です。

なぜ介護予防訪問介護と介護予防通所介護のみが総合事業に移行されたのか

標題のとおり、2015年から介護予防訪問介護と介護予防通所介護が介護保険から総合事業に移行されたのですが、なぜ、この2つのサービスのみが移管されたのでしょう。

このような場合、具体的な事例を当てはめるとよく分かるのです。要支援1や要支援2に認定された方々は、比較的お元気な方が多いものと思われます。よってサービス内容も介護予防訪問介護であれば「家事支援」であったり、介護予防通所介護であれば「話し相手」かもしれません。このようなサービスであれば、無資格のボランティアでも行うことができることでしょう。

反面、介護予防訪問看護や介護予防訪問リハビリテーションで、利用者に対し提供するサービスを無資格のボランティアが行うことはできないことは明白です。例えば、ボランティアがサービス提供において、注射を打ったり、リハビリテーションを行うことはあり得ないですね。

よって、このような理由から介護予防サービスにおいて総合事業に移行されたのは、介護予防訪問介護と介護予防通所介護に限定されたのです。

このような場合、単に介護保険から総合事業に移行された介護予防サービスは訪問介護と通所介護のみと無機質に暗記するより、なぜあるサービスは移行することが出来て、またあるサービスは移行できなかったのか、その背景や理由を押さえておけば、無理に暗記する必要もなく、また忘れないものです。

今回は要介護1、2の総合事業への移管という話が出てきた

 前述のとおり2015年より総合事業がスタートしました。具体的には、要支援1、2の介護予防訪問介護と介護予防通所介護について総合事業に移行された訳ですが、そのサービス主体は「地域資源」、いわゆるボランティアやお元気な高齢者を活用するということでしたが、現時点も「従来相当のサービス提供」の割合が高く、当社の想定するような形とはなっていないのが実情です。

 【図1】の「介護予防・日常生活支援総合事業等の実施状況(令和2年度実施分)に関する調査」に基づき、厚生労働省において作成された資料を確認すると以下のとおりです。

 介護予防・日常生活支援総合事業の実施市町村数を見ると、訪問型サービス、通所型サービスのいずれも「従来相当のサービス」を実施している市町村が最も多いことが分かる。

●訪問型サービス・・・「従来相当のサービス」 92.3%

●通所型サービス・・・「従来相当のサービス」 92.5%

 かつ、従来相当サービス以外のサービス提供を行っている市町村は、訪問型サービスについては63.5%、通所型サービスについては69.6%にいまだ留まっていることが分かる。

 つまり、要支援1、2における総合事業でさえ、有効に地域資源を活用してサービス提供が行えている状況にはないことが【図1】から分かる。そうであるならば、要介護1、2について、これを総合事業に移行したいということは時期尚早であることは明白です。

【図1】

この要介護1、2の総合事業への移管という話の今後について

 今回、社会保障審議会介護保険部会の議論では見送りの方向性が示されたが、この話は果たして終わりなのでしょうか。

 いえ、これからが本番でしょう。今回、この話は財政等審議会で出されましたが、雑な言い方をすると「今回の改定で話が通ると思っていない、次々回介護報酬改定への布石」なのだと思います。

つまり、次々回の介護報酬改定(令和9年度)の議論では、この要介護1、2の総合事業への移行という話が本格的に出てくるのだと思います。よって、今後、要介護1、2を含めた軽介護者に対するサービス提供や財源等のあり方については、よく検討していくことが必要であると思います。

まとめ

 今回のブログでは、介護保険制度の中で総合事業が導入された経緯や成り立ちについて説明しました。

 こうした議論は、過去からの経過を踏まえ、つまり「点で考えるのではなく線として考える」ことが非常に重要です。こうした視点を持ちつつ、今後もブログを書き進めていきたいと思います。

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