指定居宅サービス事業者の指定「申請」の行政法上の意味・分類を考える

介護保険制度

仮に私たちが、介護保険法(以下「法」という。)における、介護保険事業に関する事業所を開設したいと思った時、まず行政機関において、指定居宅サービス事業所の指定を受けることが必要となります。当該行政機関に必要書類等を申請し、そのうえで初めて事業所開設が可能となります。

今回、この申請たる一連の手続きは、行政法上では「許可」、「認可」、又は何にあたるのだろうか、という問合せを私が受けました。

これを受け、今回は、この居宅サービス事業を開設する場合について例に挙げながら、その根拠等をブログとしてまとめてみたいと思います。

介護保険における事業所の開設する場合の申請について

 例えば介護保険事業に関する事業所を開設する場合には、次の根拠により居宅サービス事業者としての指定を受ける必要があります。

(指定居宅サービス事業者の指定)

○介護保険法第70条第1項

第41条第1項本文の指定は、厚生労働省令で定めるところにより、居宅サービス事業を行う者の申請により、居宅サービスの種類及び当該居宅サービスの種類に係る居宅サービス事業を行う事業所ごとに行う。

 上記のとおり、「厚生労働省令」で定めるところにより、居宅サービス事業を行う者の「申請」により、その居宅サービス事業を行う事業所ごとに行うことにより、行政機関より指定を受けて事業を行うことができるということなります。

 前述の厚生労働省令で定める要件を満たす申請を行政機関に行った場合に、事業所の指定を受けることができるのですが、以下に参考までに、厚生労働省令のうち指定訪問介護事業者に係る指定の申請等について一部を抜粋します。

(指定訪問介護事業者に係る指定の申請等)

○介護保険法施行規則第114条

 法第70条第1項の規定に基づき訪問介護に係る指定居宅サービス事業者の指定を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した申請書又は書類を、当該指定に係る事業所の所在地を管轄する都道府県知事に提出しなければならない。

一 事業所
二 申請者の名称及び主たる事務所の所在地並びにその代表者の氏名、生年月日、住所及び職名
三 当該申請に係る事業の開始の予定年月日
四 申請者の登記事項証明書又は条令等
五 事業所の平面図

以下、各号については省略します。

 つまり、訪問介護事業所を開設する者は、この法施行規則第114条に該当する書類を揃えて行政機関に申請することに事業所の指定を受けることができるということです。

 では、この書類を揃えて行政機関に申請することにより、必ず事業所の指定を受けることができるのでしょうか。それは違います。

 仮に、介護保険事業に関する事業所開設についての指定申請があったとしても、法第70条第2項に該当する場合は、その指定をしてはならないのです。

 では、次の項目は、その指定申請ができない場合を取上げてみたいと思います。

介護保険における事業所の指定申請ができない場合について

 原則として、前項の法第70条第1項に該当する申請を、居宅サービス事業を行う者の申請により、事業所ごとに行うことにより事業所を開設することができるのです。ただし、以下の法70条第2項の各号のいずれかに該当する場合には、「指定をしてはならない」ものとしています。

○介護保険法第70条第2項

 都道府県知事は、前項の申請があった場合において、次の各号(省略)のいずれかに該当するときは、第41条第1項本文の指定をしてはならない。

 では、申請があったとしても、その指定に関する申請が認められないケースはどのようなケースでしょうか。参考までに上記各号で指定をしてならない者の一部を以下に記載します(法律をそのまま記載すると長くなるのであくまでの概略です。)。

一 申請者が都道府県の条令で定める者でないとき。
二 人員基準を満たしていないとき。
三 申請者が設備・運営に関する基準に従い事業運営ができないと認められるとき。
四 申請者が禁固刑以上に処され執行を終えた者。
五 申請者が介護保険、保険医療、福祉関係法にて罰金刑に処され執行を終えた者。
五の二 申請者が労働関係法にて罰金刑に処され執行を終えた者。
五の三 申請者が、社会保険•労働保険の保険料等について滞納している者。
六 申請者が指定取消を受け取消日から起算し5年を経過しない者。

以下、各号については省略します。

 この法70条第1項では事業を行う者は事業所ごとに申請を行うこと、そして同条第2項においては、申請があった場合でも指定をしてはならない場合が例示されています。

 では、次の項目では、この「申請」という言葉に着目します。

行政手続法における「申請」という言葉の趣旨を確認する

 この「申請」という言葉について、有斐閣の法律用語辞典(第5版)において調べてみると、このように記載されています。

申請・・・広く一般に行政庁に対して一定の行為を求めること。

 次に、この「申請」と言う言葉が行政手続法ではどのような趣旨で使われているのかを調べてみると、このように記載されています。

○行政手続法第2条第3項

「申請」 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。

 上記の行政手続法第2条第3項における定義の中で、「申請」は上記のとおり説明されているのです。

 これを分かりやすく言い換えるならば、申請とは「法令に基づき許認可等を求める行為」であり、行政庁は、この行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきものであるといえるでしょう。

申請は許認可等のいずれの意味、また行政法の講学上の分類の整合性

 居宅サービス事業を行う者の「申請」により、居宅サービスの種類及び当該居宅サービスの種類に係る居宅サービス事業を行う事業所ごとに行うことにより、行政機関より事業所の指定を受けて、事業を行うことは理解できた。

 また、上記の「申請」は、行政手続法における「申請」であり、「法令に基づき許認可等を求める行為」であることも理解できた。

 では、次にこの行政手続法第2条第3項では「申請」について法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為とあるが、この介護保険の居宅サービス事業を行うにあたる「申請」は、この前述の①「許可」、②「認可」、③「免許」、④「その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分」の、果たしていずれに当たるのでしょうか。

 これについて、以下、有斐閣法律用語辞典(第5版)を参考に用語の意味をと申請の実態を照らし合わせてみましょう。

①「許可」

行政法上は、法令等による特定の行為の一般的禁止を特定の場合に解除し、適法にこれをすることができるようにする行政行為をいう。

(具体例)飲食店営業の許可、自動車運転の免許

②「認可」

第三者の行為を補充してその法律上の効力を完成させる行為。認可を受けないでした行為は無効である。

(具体例)学校法人の設立、鉄道運賃の決定

③「免許」

一般的には許されない特定の行為を特定の者が行えるようにする行政処分。講学上の「許可」の意味で用いられる場合や権利能力、行為能力等を新たに設定する講学上の「特許」の意味で用いられる場合があり、一定していない。

 この上記の①~③を見ると、行政法の講学上の「許可」、「認可」、「免許」等の意味と用語の使われ方が、必ずしも一致しないことが分かる。

 そして介護保険法において、居宅サービス事業を指定「申請」を受ける者については、この①~③に当てはまらないのだろう。

では、④「その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分」についてはどうであろうか。この居宅サービス事業の指定申請を受け、事業所を開設し運営開始することは、申請者にとって事業を通じて利益を受けることであり、この「自己に対し何らかの利益を付与する処分」に、この場合、該当するものと思われる。

 今回、このように居宅サービス事業の指定申請が、行政手続法第2条第3項の文言、上記の①~④のいずれに当てはまるのか、そのうえで行政法の講学上の分類と行政手続法との分類の整合性を探ってみたが、やはり明確に分類することはなかなか困難であることが改めて理解することができた。

居宅サービス事業の指定申請について行政手続法上の届出に該当する可能性

 ここでは、行政手続法上の「申請」と「届出」を比較のうえ、居宅サービス事業の指定申請が、行政手続法における届出に該当する可能性があるかを検討する。

○行政手続法第2条第3項

「申請」 法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう。

○行政手続法第37条

 届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合には、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。

 そもそも、法第70条第1項では、「~居宅サービス事業を行う者の申請により~」としている。法律の文言でいうのであれば、あくまでも「申請」であり「届出」ではないことが分かる。

 次に、この申請の文言について、行政手続法第2条第3項の「申請」ではなく、講学上の「届出」として、行政手続法第37条の「届出」とする余地はあるのだろうか。

 この届出とは、上記のとおり「形式上の要件に適合」し、かつ「提出先機関の事務所に到達」したことにより、届出としての義務が履行されたものとされているのです。

 しかし、居宅サービス事業の指定申請を受けるということは、その指定申請を受けることを通じて事業開始、申請者が介護保険事業を通じて利益を受けることができる。これは、やはり行政手続法第2条第3項における「自己に対し何らかの利益を付与する処分」であろう。

結果として、この「申請」は「届出」ではなく、やはり「許認可等」に該当することに整合性があるのだと思われる。

まとめ

 今回、この申請たる一連の手続きは、行政法上では「許可」、「認可」、又は何にあたるのだろうか、という問合せを受けたことが、この調べものの全ての始まりでした。

 確かに、日頃業務を動かしている者からすると用語の意味や分類は、決して重要なことではないかも知れません。

しかし、介護保険法、行政手続法を丁寧に読み込み、そして行政法の講学上の分類や意味合いを調べたことを通じて、今後行政機関との交渉において、これらの根拠や裏付けは自らの自信となると思います。

 ぜひ、介護保険の手続きや、行政手続きに関与する事業者や行政担当者の皆様にもお目通しいただけますと幸いです。

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