監査はどうして行われるのか。
介護保険関係事業を行うものにとって、行政機関による監査と聞くとびっくりするものですよね。
今回は、この行政機関によって事業所がどうして監査が行われるのかをできるだけ分かりやすく説明したいと思います。
1.監査とは介護保険法に基づき事実確認をすること
監査とは、介護保険施設等監査指針に基づき介護保険施設等において以下の事項等に違反や恐れがある場合、介護保険法第76条に基づき、報告、帳簿書類等の物件の提示を求め、関係者の出頭、質問を行うことにより情報を収集するとともに、現地に立ち入って検査を行い、事実確認を確認する行為です。
一応、「監査とは~」と前提を書きましたが、何か難しいことが書いてありますね。
簡単にいうと監査を行う行政機関が事業者に対し、事業を行ううえで「法令違反や不正等あるのではないか」と行政機関は、事業者側を疑っているのです。
そして行政機関として、その事実を把握、確認するために行われる検査・事実確認のことを「監査」と呼ぶのです。
つまり、監査は運営指導(行政指導)とは異なり、行政処分(不利益処分)を行う前提としての行政機関による検査・事実確認なのです。
行政機関が、例えば指定取消等の行政処分(不利益処分)を行う場合、不正等の事実にかかる証拠保全の観点から、法76条等に規定する立入検査の権限を行使し、当該事実関係を行い、その事実の内容を確定させることが必要です。
つまり、行政機関が主体となる検査を介護保険施設等に立入ることにより監査を行い、そこで初めて事実を把握、そして内容を確定することができるということです。
そしてこの監査が行政機関によって行われた場合、監査による事実確認の内容の把握、検討が行われ、その結果により行政機関より事業者に対し、行政処分(不利益処分)が下される場合があります。
2.監査に引っかかる原因
監査に引っかかる理由は様々であるが、以下の情報を踏まえて指定基準違反又は人格尊重義務違反の確認について必要があると認める場合に立入検査等により行われます。
- 通報・苦情・相談等に基づく情報
- 市町村が高齢者虐待法に基づき虐待を認定した場合
- 高齢者虐待等により利用者等の生命又は身体の安全に危害を及ぼしているとの情報
- 国民健康保険団体連合会、地域包括支援センターへの苦情
- 国民健康保険団体連合会、保険者からの通報情報
- 介護給付費適正化システムの分析から特異傾向を示す介護保険施設等
- 介護サービス事業者が介護サービス情報の報告を拒否する場合
- 運営指導において著しい指定基準違反及び人格尊重義務違反がある場合
3.監査に引っかかる具体的例
前述では監査について簡単に説明しましたが、そもそも監査の内容は何となく分かったが、事業者としたら「何をやったら引っかかるのか」を、具体例を交えて書いてみたいと思います。
筆者は適正な事業所運営が行われていることを切に願っておりますがとは言え、実際に監査に引っかかることを心配されている事業所の方々は、以下の①~④の代表的な具体例を当てはめてみて、自分の事業所が該当するのか考えてみては如何であろうか。
①人員、施設設備、運営基準に従っていない状況が著しいと認められる場合
各種法令・基準は多岐に渡ることから法令や基準の解釈が誤っており、これを改善しなければならない場合がある事業所としてこの誤りが一部分であれば運営指導の範疇に収まるものとも思える。しかし、当該事業所において以下の事例の場合が該当します。
- 法令や基準の解釈の誤りが数多く見受けられる場合
- 法令や基準の解釈の誤りが事業所として長期間に渡る場合
- 法令や基準の解釈の単なる誤りと言えず改善指導では改善が期待できない場合
- 確認文書の不備等により確認項目が確認できない場合
- 虚偽報告や虚偽答弁が疑われる場合
②介護報酬請求について不正又は不正の疑いがある場合
- 報酬基準等の単なる解釈誤りではなく架空請求の場合
- 報酬基準に照らし請求する根拠のない請求がある場合
③不正手段により指定等を受けていると認められる場合
- 新規又は更新申請時の申請書の内容と指定時以降の実態が相違する場合
- 新規又は更新申請時の申請について故意に事実を異なる記載をした場合
- 勤務実態の無い者を勤務するようにして指定を受けた場合
④利用者や入居者に対し高齢者虐待等がある又はその疑いがある場合
運営指導の過程において、利用者の生命又は身体の安全に危害を及ぼしている可能性がある場合は、行政機関は運営指導を中止し、直ちに監査に変更のうえ、事実関係を確認します。
- 運営指導の過程において高齢者虐待の事実が判明した場合
- 運営指導の過程において不当な身体的拘束等が行われている場合
(1)監査での検査・事実確認が求められる事項
行政機関によるが監査実施にあたり事業者は以下の事項の対応が求められます。
- 事業者に対し報告若しくは帳簿書類の提出若しくは提示を命じる
- 行政機関への出頭を求める
- 事業所の職員や関係者に質問する
- 事業所等に立入り、その設備若しくは帳簿書類その他の物件の検査
4.監査に引っかかると行政機関から通知が届く
前項では、監査に引っかかる具体例を挙げてみたが、これに該当した場合、実際に事業所には行政機関による監査が実施されたことによる効果は、実際にどのようなことが起こり得るのだろうか。
(1)監査の実施後に通知される事項
人間の不安は、先の見通しや事実が見えないということに非常に不安を感じるものです。
では、実際に自分の事業所が実際に監査に引っかかったと仮定した場合、次は事業所に対して行政機関はどのようなことを言ってくる可能性があるのでしょうか。
行政機関は、指定基準違反又は人格尊重義務違反が認められた場合には、行政機関は、介護保険法第5章に掲げる「勧告、命令等」、「指定の取消し等」、「設備の使用制限等」、「変更命令」、「業務運営の勧告、命令等」、「許可の取消し等」の規定に基づき行政上の措置を取るものとします。
なお、上記のうち、「設備の使用制限等」、「変更命令」、「業務運営の勧告、命令等」、「許可の取消し等」について、介護老人保健施設又は介護医療院について適用される事項であるので、ここでは割愛します。
監査の結果については、文書により通知されることとなります。また、改善を要すると認められた事項については、その旨を通知し期限を定めて行政機関に報告することとなります。
①勧告
介護保険施設等に指定基準違反等の事実が確認された場合、当該介護保険施設等に対し、期限を定めて、文書により基準の遵守等の措置をとるべきことを勧告することができるほか、当該期限内にこれに従わなかったときは、その旨を公表することができるものです。
なお、勧告した場合は、当該介護保険施設等に対し、期限内に文書によりとった措置について報告を求めることです。
②命令
介護保険施設等が正当な理由がなくて、その勧告に係る措置をとらなかったときは、当該介護保険施設等に対し、期限を定めて、その勧告に係る措置をとるべきことを命令することができるほか、命令をした場合には、その旨を公示しなければならないのです。
なお、命令した場合は、当該介護保険施設等に対し、期限内に文書によりとった措置について報告を求めます。
③指定の取消し等
行政機関は、指定基準違反等又は人格尊重義務違反の内容等が、介護保険法第77条第1項各号、第78条の10各号、第84条第1項各号、第92条第1項各号、第115条の9第1項各号、第115条の19各号及び第115条の29各号並びに第18年旧介護保険法第114条第1項各号のいずれかに該当する場合においては、当該介護保険施設等に係る指定を取り消し、又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力の停止(以下「指定の取消等」という)をすることができます。
5.監査に引っかかり事業者が行政処分の前に弁明できる可能性がある
行政機関による監査が実施された結果について、その行政処分等の内容は、文書により通知されることとなります。
行政処分等が事業者にとって不利益な処分である場合は以下の機会が付与されることとなります。
①聴聞
監査の結果、当該介護保険施設等が、命令又は指定の取消等若しくは許可の取消等の処分(以下「取消処分等」という)に該当すると認められる場合は、行政機関は取消処分等となる予定者に対して、行政手続法第13条第1項一号により、聴聞の機会が付与されることになっています。
6.監査に引っかかった事業者側の行政処分の手続き
行政処分が決定した後、その行政処分の内容に応じ経済上の措置を命じられた場合、事業者側は以下の手続きを行う必要があります。
①経済上の措置
行政機関が事業者に対し取消処分等(命令を除く)を行った場合、当該介護保険施設等が介護保険法第22条第3項に規定する偽り、その他不正の行為により介護報酬の支払いを受けている場合には、その支払った額につき、その返還させるべき額を不正利得とし、当該支払いに関係する保険者に対し、当該不正利得の返還要請がなされます。
②返還金の徴収方法
上記①の不正利得については、原則として介護保険法22条第3項の規定により、当該返還が必要となる額に100分の40を乗じて得た額を、保険者に対して併せて返還することとなります。