地方分権より生まれるべくして生まれた「ローカルルール」

介護報酬改定

平成12年4月に地方分権一括法(正式には「地域の自主性及び自立性を高めるための関係法律の整備に関する法律」)が制定されました。これにより「国と地方の役割の明確化」、「機関委任事務の廃止」、「国の関与のルール化」等が図られました。それぞれの地方公共団体は、国から権限や財源の移譲を受け、自らの判断、そして責任により、地域の実情に即した行政運営を行うこととなりました。今、思い起こすとこの当時、私は地方公務員として行政手続法から地方分権一括法に関わる条令制定に関する業務に関わっていた時期でもありました。

さて、国は「デジタル原則を踏まえたアナログ規制の見直しに係る工程表」では、人員配置基準上のテレワークの取扱いの明確化について、本年中に必要な対応が求められています。また、今後の介護サービスの需要の増大、加えて現役世代の減少に伴う労働力不足が見込まれる中で、デジタル原則への適合性がどのように図られていくのであろうか。

こうしたデジタル原則に沿った人員配置基準を検討していくためには、各地方自治体における人員配置基準等についての「ローカルルール」をどのようにしていくのかを、このブログでは述べてみたいと思います。

地方自治体のローカルルールが認められる根拠とは

そもそも「ローカルルール」というと地方自治体が好き勝手にやっているというような感じを受けてしまいますが、それは異なります。地方自治体は、しっかりと手順を踏み、地方議会において定められた条令を基とした行政運営を行っています。当然、条令を制定するにあたり法律の根拠もあるのです。

指定居宅サービス事業者を例に取るのであれば【表1】のとおり「地方分権改革推進計画」、「介護保険法」において、その根拠が示されています。

【表1】

出典:令和5年9月8日 社会保障審議会介護給付費分科会(第223回)資料2  P16より引用

 上記のとおり、地方公共団体は、地方分権一括法をはじめとした法的な根拠に基づき、「法律が許容する範囲内において」、地域の実情に即したルールで行政運営を行っているに過ぎないのです。

 このような根拠や経過があったが故に「ローカルルール」という論点が出てきたことは押さえておきましょう。

そもそもローカルルールはなぜ生じるのか

 介護保険法では、事業所や施設が介護保険サービスを提供開始するために、各地方自治体に申請を行い、条例で定めた基準を満たしている場合に指定を受けることができます。この各地方自治体が条例を制定し、運用するにあたっては以下①~③の国の基準(省令)を踏まえる必要があります。

①従うべき基準
②標準
③参酌すべき基準

 今回の「人員配置基準等」は、上記①の「従うべき基準」に分類され、地方自治体は、「厚生労働省令において定められている人員配置基準等に従う範囲内で、地域の実情に応じた条令の制定や運用が可能」ということとなります。

 このため、例えば、厚生労働省令では以下の場合、他職種・他事業所との業務を兼務することが可能となっています。

・「管理上支障がない場合」
・「入所者の処遇に支障がない場合」

 ところが、この「~支障がない場合」という文言について、各地方自治体での判断基準が異なっているのです。つまり、言葉のとおり、「ある範囲を許容している」ので、地域の実情や判断基準が異なってきます。

 これがいわゆる、各地方自治体において人員配置基準等において「ローカルルール」が生じる原因なのです。

人員配置基準等の自治体ごとの解釈・運用の実態について

 この項目では、地方自治体で人員配置基準等において「ローカルルール」が生じている事例を①~④に挙げて、その運用状況を見てみたいと思います。

 ①「管理上支障がない」、「利用者の処遇に支障がない」の定義

 【図1】に示されているとおり、省令に規定されている「管理上支障がない」、「利用者の処遇に支障がない」について、各地方自治体の解釈は「その状況を確認したうえで、極端な事例でない場合は支障がないものとする」という方針の地方自治体が大半を占めていることが分かります。

【図1】

出典:令和5年9月8日 社会保障審議会介護給付費分科会(第223回)資料2  P17より引用

 ②「同一敷地内」の定義について

 上記【図1】のとおり、省令に規定されている「同一敷地内」の解釈について、「同一敷地内(隣接、近接を含む)」としている地方自治体が約5割程度、また「同一敷地のみ」と限定している地方自治体が約2割~4割程度となっていることが分かります。

 ③「管理者の同一敷地内における兼務状況」の定義について

【図2】

出典:令和5年9月8日 社会保障審議会介護給付費分科会(第223回)資料2  P18より引用

 【図2】に示されているとおり、管理者の兼務を認めていない地方自治体は、「同一事業所内の他の職種との兼務」の場合は1~2%程度、「同一敷地内の別の事業所における他の職種との兼務」の場合は10~20%程度、「同一敷地内の別の事業所における管理者との兼務」の場合は2~10%程度となっています。また、上限数を設けている管理者の兼務を認めている地方自治体は約1~2割程度となっています。

 ④「管理者に割り当てることができる常勤換算数の割合」の定義について

【図3】

出典:令和5年9月8日 社会保障審議会介護給付費分科会(第223回)資料2  P19より引用

 【図3】に示されているとおり、管理者の他の職種との兼務を認めている地方自治体の約8割以上は「勤務時間の50%を管理者として従事しなければならない」旨を定めています。

 ⑤「介護支援専門員・生活相談員の兼務」の定義について

【図4】

出典:令和5年9月8日 社会保障審議会介護給付費分科会(第223回)資料2  P20より引用

 【図4】に示されているとおり、介護支援専門員及び生活相談員については、いずれも同一事業所内における他の職種との兼務を認めている地方自治体が過半数を占め、管理者との兼務のみを認めている地方自治体は1~10%程度となっています。

人員配置基準等に関するの「ローカルルール」の主な事例について

【図5】

出典:令和5年9月8日 社会保障審議会介護給付費分科会(第223回)資料2  P21より引用

 前項と本項を踏まえ、人員配置基準等にかかるローカルルールを改めてみると、やはり「人員の兼務に関する事例が圧倒的多い」ことが分かる。

人員配置基準等に関するテレワークの取扱い等について

 在宅サービスの人材確保は急務ですが、今後ICTの活用も念頭に、より働きやすく効率的なサービス提供の在り方を検討する必要があります。

 「デジタル原則に照らした規制の一括プラン(令和4年6月3日デジタル臨時行政調査会)では、デジタルの力を活用しながら、生産年齢人口が減少する中で人手不足の解消や生産性向上等の観点から、介護サービス事業所における管理者の常駐等について見直しの検討が提言されているが、これらも踏まえ、各サービスにおける管理者等の常駐等について、必要な検討を進める必要があるのです【図6】。

【図6】

出典:令和5年9月8日 社会保障審議会介護給付費分科会(第223回)資料2  P24より引用

まとめ

 この人員配置基準等にかかる「ローカルルール」と言うものの、勝手に行っている訳ではなく、そもそも地方自治体は地方分権一括法をはじめとした法的な根拠に基づき、「法律が許容する範囲内において」、地域の実情に即したルールで行政運営を行っているだけなのです。

つまり、私はこの「許容の中」にこそ、地方自治体の「ローカルルール」という論点が出てきた原因だと思っています。

しかしながら、私は元地方公務員として地方分権一括法に関わる条令制定に関する業務に関わっていた者として、何も地方分権が良くなかったと言っている訳ではありません。ただ今後、時代背景の変化、そして国としてデジタル化を推進するのであれば、地方自治体の地域の特性や自主性を尊重したうえではありますが、「例外となる事項を極力減らし、共通化できるもの共通化し、ある程度の画一化を目指すこと」こそが、デジタル化における業務効率の向上、そして今後の介護業界における介護サービスの需要の増大、加えて現役世代の減少に伴う労働力不足が見込まれる中での「デジタル原則への適合性」を高めていくひとつの方法なのではないかと考えています。

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