高齢者虐待に対する取組みとその効果が表れているのか検討する

虐待対策検討委員会

 高齢者虐待への取組みとして、高齢者に関しても虐待防止に関する法律やマニュアル、様々な取組みが、国や地方公共団体により定められ、運用されています。

そして「虐待」は許されるものではないと言うことは、私たちの良心から考えても明白なはずです。

 仕組みとしての取組みから、このような高齢者虐待を防止することができる側面があるでしょう。しかし、新聞報道等でも、この高齢者虐待という内容の記事を目にすることが多いと思います。

 そこで今回のブログでは、介護給付費分科会にて公表された高齢者虐待に関する調査結果を通じての高齢者虐待に対する取組みと、高齢者虐待に対する効果が表れているのかについて検討したいと思います。

法体系やマニュアル、予算措置等の仕組みについて

「高齢者虐待の防止、高齢者に対する支援等に関する法律(平成17年法律124号)」では、その目的や国・地方公共団体の責務等、虐待防止等について、以下【図1】のとおり定められています。

【図1】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料5  P3より引用

また、「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者支援について」として【図2】のとおり「高齢者虐待対応国マニュアル」が定められており、ここでは「高齢者虐待防止の基本」、「養護者による虐待への対応」、「養介護施設従事者等による虐待への対応」が定められています。

【図2】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料5  P5より引用

加えて、令和5年度予算においても、「高齢者権利擁護等推進事業(介護保険事業費補助金)」として、約1億4千万円が設定されている。事業内容としては、高齢者の尊厳の保持の視点に立って、虐待防止及び虐待を受けた高齢者の被害の防止や救済を図り、もって高齢者の権利擁護推進を図ることとなっています。

「高齢者虐待の防止、高齢者に対する支援等に関する法律」は、施行されてから、すでに約17年以上の月日が経過、上記のような高齢者の権利擁護に関する施策も推進されています。実際に法体系やマニュアル、予算措置等の仕組みについては整っているように思えます。

では、実際にこうした施策が効果を発揮し、高齢者虐待は本当に減少したのでしょうか。

次項では、その状況について確認したいと思います。

高齢者虐待の対応状況についての調査結果を確認する

 確かに、法体系やマニュアルを整えることは高齢者虐待の抑止力になりますし、高齢者虐待に対する理解や啓蒙にも役立つことでしょう。しかし、新聞報道等でも、この高齢者虐待という内容の記事を目にすることからも、感覚とズレがあるように感じます。

 では今回、社会保障審議会介護給付費分科会の資料より、具体的にその状況を把握したいと思います。

 「高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査結果の概要(令和3年度)」における【図3】によると、要介護施設従事者等による高齢者虐待の相談・通報件数、虐待判断件数は高止まりしており、令和3年度の虐待判断件数は、対前年度に比べ24.2%増加し、過去最多となっています。

【図3】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料5  P6より引用

 特に、養介護施設従事者等による高齢者虐待の虐待判断件数は、従事者の増加と比較する形で明らかに増加しており、虐待判断件数は、739件【対前年度比+144件(24.2%)】となっています。

 反面、養護者による高齢者虐待の虐待判断件数は、16,426件【対前年度比▲855件(▲4.9%)】となっており、平成23年度より、ほぼ同程度の発生件数で推移していることが分かります。

次に、【表1】においては、養介護施設従事者等による高齢者の虐待と虐待が発生している類型との関係を確認したいと思います。

結果として、虐待が発生している件数と割合が多いのは、特別養護老人ホームの228件(30.9%)、有料老人ホーム218件(29.5%)であり、いまだに様々なサービスで高齢者虐待が発生している実状が分かります。

【表1】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料5  P7より引用

 これら【図3】、【表1】によると、養護者による高齢者虐待の虐待判断件数は、ここ10年間、ほぼ同程度の発生件数で推移している反面、養介護施設従事者等による高齢者虐待の虐待判断件数は高止まりし、特に令和3年度の虐待判断件数は、対前年度に比べ24.2%も増加し、過去最多となっていることが分かります。

 これらの、高齢者虐待の対応状況についての調査結果を確認する限り、法体系やマニュアル等が整ってきていても、未だに高齢者虐待が発生、特に養介護施設従事者等による高齢者虐待の虐待判断件数が「高止まり」してしまっていることが分かります。

 こうした実情を踏まえ、引き続き、どのような高齢者虐待防止規定が講じられていくのかについて、次項で確認したいと思います。

運営基準改正における虐待防止規定の創設について

 令和3年度介護報酬改定において、「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等の一部を改正する省令(令和3年厚生労働省令第9号)により、【図4】のとおり、運営基準改正において、全ての介護サービス事業者を対象に研修等の実施を義務付けました。

                                    【図4】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料5  P8より引用

 主旨としては、全ての介護サービス事業者を対象に、利用者の人権擁護、虐待防止等の観点から、以下の①~⑥を定めることが義務付けられました。

①虐待の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催すること
②上記①の結果を従業者に周知徹底すること
③虐待の防止のための指針を整備すること
④従業員に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること
⑤上記措置を適切に実施するための担当者を置くこと
⑥運営規定に「虐待の防止のための措置に関する事項」を追加すること

 これらの事項について、施行日は令和3年4月1日となっていますが、3年間の経過措置が講じられており、令和6年3月31日までに対応する必要があります。

前項でも述べましたが、未だに高齢者虐待が発生、特に養介護施設従事者等による高齢者虐待の虐待判断件数が高止まりとなっています。加えて、令和3年度介護報酬改定においても「全ての介護サービス事業者を対象」に、利用者の人権擁護、虐待防止等の観点からも、このような策が講じられます。

 高齢者の権利擁護に関する施策も推進され、法体系やマニュアル、予算措置等の仕組みについて整備されてきてはいますが、結局は高齢者に関わる介護サービスの事業者並びに従事者が、この趣旨を本当に理解することが必要なのだと思います。

運営基準改正に伴う介護保険施設・事業所における体制整備の状況について

 令和3年度介護報酬改定に伴う運営基準改正における虐待防止規定が創設されたことにより、全ての介護サービス事業者は、経過措置が終了となる令和6年3月31日までに、当該規定の措置を講じることが義務付けられました。

 では、令和3年度の調査時点ではありますが、高齢者虐待防止に関する措置の体制整備の進捗状況は、以下【図5】のとおりとなります。体制整備の進捗状況は、介護サービスの種別によって異なっており、特に長期入所・入居サービスにおいては体制整備が進んでいることが分かります。

【図5】

出典:令和5年9月15日 社会保障審議会介護給付費分科会(第224回)資料5  P9より引用

 当然、経過期間終了後の令和6年4月1日以降は、事業所としてこの虐待防止規定が講じられているかについて、運営指導等で厳しく指導されることは確実です。準備が遅れている介護サービス事業者の方々は、速やかに対応するようにしましょう。

まとめ

 今回、このブログを書くにあたり、「やはり」と思った面があります。

なぜなら、高齢者虐待防止に関する取組みや仕組みが以前より行われているものの、新聞報道等では、相変わらず高齢者虐待という記事を目にすることが多いからです。

ゆえに、国や地方公共団体を中心に、高齢者虐待に対する取組み•進捗と実際に高齢者虐待の発生件数との関係には、実は「大きなギャップ」があるのではないかと感じていました。特に、養介護施設従事者等による高齢者虐待の虐待判断件数が「高止まり」してしまっているという事実は、重く受け止める必要があると思います。

 どのような理由があるにせよ、高齢者虐待は絶対に許されるべきものではありません。今後も高齢者虐待に関する取組みを根気強く講じ、高齢者虐待を撲滅していくことが必須なのです。

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