【税理士が解説】障害福祉サービス事業者の不正に対する処分逃れ対策は万全なのか

障害者総合支援制度

令和5年9月に障害福祉サービス事業者に対し、障害者総合支援法に基づく特別監査が実施されるとの報道がありました。私はこれをきっかけとして、これらの事業者による不正がなぜ発生するのかを考えてみました。

行政機関としても、不正を防止する仕組みとして様々な取組みをしています。例えば、障害者支援法、児童福祉法、介護保険法における業務管理体制の整備等に関する条項や連座制の適用などがこれにあたるのでしょう。

しかし行政機関が様々な仕組みを講じても、このような不正の大小の問題が発生するのはなぜでしょうか。これは、この事業に参入する事業者の一部の考え方に以下のような問題があるのだと思います。

 また、つい最近、障害福祉サービス関係の審議会ではありませんでしたが、業界団体のヒアリングにおいて以下のような発言がありました。

「ある一律の仕組みが厳しいので緩和して欲しい。ついては行政機関の運営指導や監査の制度において対応できないか」

多少の文言に多少のズレはあるものの、発言の要旨は上記のとおりであり、私はあまりに発言のレベルの低さに正直ビックリしました。

業界団体全体でレベルを上げていこうという話でなく、つまり、このような時にだけ行政機関に頼るという姿勢なのです。これでは、業界における事業者のレベルはなかなか上がらないのではないでしょう。

今回のブログでは、障害福祉サービス事業者の不正に対する処分逃れ対策について言及し、今後、この仕組みをどのようにしていけば良いかという私見まで辿り着きたいと考えています。

業務管理体制の整備等の施行について

 この指定障害福祉サービス事業者等に対する管理業務体制の整備とその届出の義務付けは、「業務管理体制の整備等の施行について」(障企発0330第5号、障障0330第12号)に定められ、平成24年4月から実施されています。

 繰り返しにはなりますが、この全てのきっかけは平成19年に指定介護保険サービスにおいて発生した「コムスン事件」です。確かに法律構成でスキマがあったにせよ、やはり、この処分逃れをしようとした株式会社コムスンの経営陣の責任は極めて重大であったと思います。ここから様々な不正防止のための仕組みが生み出されました。それが、介護保険法における管理業務体制の整備であり、「連座制の一部見直し」や「休止・廃止届が事前届出制」の導入だったのです。

障害者支援法に関するブログでは、すでに管理業務体制や連座制についての説明をしました。次項では「事業者の不正に対する処分逃れ対策」について論点を絞り、書き進めたいと思います。

事業の休廃止届の事前届出制への移行について

業務管理体制の整備等の施行に合わせ、事業者等の本部に対する立入検査権が創設されました。これが【図1】における「赤い枠」の部分にあたります。

そして、「不正事業者等による処分逃れ防止のための対策」にあたるものが以下の事項にあたります。

 ①事業の休廃止届の事前届出制への移行
 ②立入検査中の廃止届の提出の制限
 ③申請者と密接な関係を有する者に係る欠格事由の追加
 ④不正行為に対する組織的関与の有無に応じた連座制の適用(④については、以前のブログで述べているので、今回は割愛します)

【図1】

出典:令和3年度障害福祉関係指導監督等支援事業(都道府県・指定都市・中核市職員向け研修)より引用

 特に上記①~③については、【図1】における「青い点線の枠」の部分にあたります。まず、①について、介護保険法において、コムスン事件が発生する以前は、事業の休廃止の届出については、「その原因が生じてから10日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない」ということでした。ところが、この事件発生を原因として、介護保険法、障害者総合支援法、児童福祉法に係る事業の事業所は、多少適用の時期の前後はありますが、「事前届出制へ移行」とされました。参考までに、障害者総合支援法の規定を以下に示します。

 〇障害者総合支援法 第46条第2項(変更の届出等)

指定障害福祉サービス事業者は、当該指定障害福祉サービスの事業を廃止し、又は休止しようとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、その廃止又は休止の日の一月前までに、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。

 このような定めになった原因は、以前のブログでも述べましたが、株式会社コムスンが「連座制による厳罰化を回避する手段」として、監査により不正を指摘された事業所について自主廃業するという手段を用い、行政処分を逃れようとしたのです。

 これを防ぐために、事業の休廃止については、その届出を「事後届出から事前届出」に変更することにより、このような行政処分逃れの防止を図ったのです。

立入検査中の廃止届の提出の制限について

 これは端的に言うと、申請者が「指定権者が立入検査を行った日から聴聞決定予定日までの間に相当の理由なく廃止届を提出した者であって、その届出の日から5年を経過しないものであるとき」が、事業所の指定時又は更新時の欠格事由として追加されたのです。

〇聴聞決定予定日

指定権者が立入検査が行われた日から10日以内に、立入検査の結果に基づき指定取消処分に係る聴聞を行うか否かを決定することが見込まれる日として、当該申請者に通知した場合における特定の日とされている。

また、障害者総合支援法施行規則第34条の20の4、又は児童福祉法施行規則第18条の33では、立入検査を行った日から60日以内の特定の日とされている。

 私は、正直、この「聴聞決定予定日」の説明や条文を読んで、正直意味が分からないので、概ね以下のように考えれば間違いないです。

 〇聴聞が行われる予定日(私なりに分かりやすく書くとこうなります!)

 立入検査が行われた日から10日以内に聴聞に関する通知が事業者に通知され、聴聞実施予定日は立入検査日から60日に以内に実施される予定となる。

重ねて具体例で示すと以下のとおりとなります。

 ①立入検査実施日 4月1日
 ②聴聞通知日   4月10日(①の実施日から10日以内に申請者に通知)
 ③聴聞実施予定日 5月30日(①の実施日から60日以内に聴聞を実施予定)

では、なぜこのように行政機関は「聴聞実施予定日」を分かりにくくしているのでしょうか。

これは、前項で説明しましたが、事業の休廃止届については、すでに「事前届出制への移行」しているのです。しかし、その立入検査をされた事業者からしたら、「その廃止又は休止の日の一月前までに、その旨を都道府県知事に届け出をすれば良い」ということなのです。つまり、この聴聞実施予定日を分かりにくくしておくことにより、行政処分逃れの防止を図っているのではないかと私は考えています。

 つまり、「指定権者が立入検査を行った日から聴聞決定予定日までの間相当の理由なく廃止届を提出した」場合、この申請者は「事業所の指定時又は更新時の欠格事由に該当する」ということです。

上記①~③の例で言えば、4月1日から5月30日の間に申請者が廃止届を出したのであれば当該申請者は「事業所の指定時又は更新時の欠格事項に該当する」ということです。

 言い換えると、この申請者にとって、聴聞実施予定日を「極力分かりにくくする」ため、つまり行政処分逃れを防止する趣旨で、このような実に分かりにくい運用にしているのだと思います。

 また、この事業の休廃止について、確かにその届出が「事後届出から事前届出」に変更されたのですが、これが届出でしかないということも、私は問題であると考えています。この点については、また別の機会に述べたいと思います。

申請者と密接な関係を有する者に係る欠格事由の追加について

 指定時又は更新時の欠格事由について、「業務管理体制の整備等の施行について」(障企発0330第5号、障障0330第12号)において、平成24年4月から実施されています。

 新たに、「申請者と密接な関係を有する者(以下「密接関係者」という)が指定取消処分を受け、その取消処分を受け、その取消しの日から起算して5年を経過していないときが追加されました(連座制が適用されない場合は除く)。

 〇「密接関係者」

 ・申請者の親会社等(直接の親会社のみでなく、その親会社の親会社等を含む)
 ・申請者の親会社等の子会社等(申請者の親会社等の直接の子会社のみならず、その子

会社の子会社等

 〇「密接関係者に該当する法人」

 ・株式会社の場合(議決権の過半数の保有被保有関係、支配被支配が成立する場合)
 ・持分会社の場合(資本金の過半数の保有被保有関係、支配被支配が成立する場合)
 ・上記と同等以上の支配力を有すると認められる株式会社又は持分会社である場合

 〇「重要な事項に係る意思決定に関与」

 ・取締役会に出席し、賛否を表明している場合

まとめ

 「障害福祉サービス事業者の不正に対する処分逃れ対策は万全なのか」というテーマでブログを書いてみました。一見すると「行政処分逃れを助けたい」と思われてしまいますが、そのように私は全く思ってはいません。

この障害福祉サービス事業の源泉は、利用者の負担と税金です。

そしてこの障害福祉サービス事業は、そもそも社会にとって非常に重要な「社会インフラ」なのです。この趣旨を理解し、事業展開するのであれば、このような「行政処分逃れ」を念頭に置きながら事業展開をしようとする事業者など、そもそも論外なのです。

 ①保険を使うので「誰がやっても」それなりに儲かるから安易に参入する。
 ②参入する事業者のコンプライアンスに対する意識のレベルが低い。
 ③事業者には「玉石混交」でありレベルに非常にバラつきがある。

繰り返しとなりますが、上記①~③のような事業者が多いのであれば、事業の新規開始にあたり、本来の行政手続法における本来の「許認可制」や「事業提案」等の導入も検討していかなければならない時期なのかもしれません。

また、欠格事由に該当した場合、その「関係者の範囲」についても今一度、見直しの時期に来ているのかもしれだと思います。

事業者自らを律し、そして業界団体全体でレベルを上げていくことをしなければ、つまり不都合があるときだけ行政機関に頼っているようであれば、民間企業として自らの裁量や発想の可能性を放棄してしまっているとも言えるのではないでしょうか。

本日もブログをお読みいただき、ありがとうございました。

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